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鮎風 遊さん

この世で最も面白い物語を見つけ出したい。 そのために、ひとり脳内で化学反応を起こし、投稿させてもらってます。 テーマに沿った個別物語の他に、いくつかのシリーズものをコツコツと書き続けさせてもらってます。 その主なシリーズものを紹介させてもらいます。  ☆❤☆❤☆ 新シリーズ 『ツイスミ不動産』 __ 2017.07.16よりスタートさせてもらいました。 カサリンとクワガタ野郎があなたが求める終の棲家を紹介いたします。  ☆❤☆❤☆ 『刑事 : 百目鬼 学(どうめき がく)』 __ 2017.05.21 ただ今、27話 __ 1話完結の2000文字推理小説です。この少ない文字数の中で、百目鬼刑事と部下の芹凛(せりりん)がいかに事件を解決していくか、その醍醐味を味わって頂ければ、光栄です。 これからも引き続き難しい事件に挑戦して参りますので、よろしくお願いします。  ☆❤☆❤☆ 『漢字一文字の旅』 __2017.04.04 ただ今、連載41__ 漢字にまつわるエッセイです。  ☆❤☆❤☆  『歴詩』 __歴史上の人物になりかわって、その波瀾万丈の生き様の思いを詩に綴らせてもらってます。 本作品については、フォト音(on)小説という形で、you tubeにもUPさせてもらってます。 詳細はこちらHPです。  ☆❤☆❤☆  http://ayukazeyuu.net/index.html  ☆❤☆❤☆                         よろしくお願いします。              

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第1巻 『これでもか物語 in 歯医者』(アメリカの巻)

13/09/21 コンテスト(テーマ):第十七回 【 自由投稿スペース 】 コメント:4件 鮎風 遊 閲覧数:3486

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 こんにちは。
 この物語は高見沢一郎が体験した歯医者さんの物語です。

 誰でもお世話になる歯医者さん、これでもかこれでもかと攻めてきますよね。
 そんなお話しを、アメリカの巻、メキシコの巻、日本の巻、これら三つを連載で、この自由投稿スペースで順次紹介させていただきます。

 軽く読んでもらえれば光栄です。


プロローグ : これでもかへの招待

 高見沢一郎は歯医者の診療椅子に座り診察を待っている。そしてボーと腑抜け状態。それは今、目の前にある診療用のモニタ−画面を眺めているからだ。

 今日、高見沢が予約を取って訪ねてきたこのテクノ歯科。それは最近高見沢の家の近くに開業した。
 トンガリ帽子の形をした建物で、外見は洋風でモダン。
 とは言っても、少しやり過ぎの感がある。
 歯医者にしては雰囲気の合わないド派手な看板を掲げ、外壁は見事にピンク色。なんともセンスが悪い。吐き気を催すような色調なのだ。
 そんな色合いからは、あからさまに人目を引き、客を呼び込みたいという商売っ気がありありと滲み出してきている。
 しかし、高見沢には他に選択肢がなかった。なぜなら二週間ほど前から奥歯が痛み出し、仕事の関係上から近場の歯医者で治したかった。
「あ〜あ、これでテクノ歯科の思う壺にはまってしまったよなあ」
 高見沢はあきらめ、電話で予約を取った。そして、今日初めて訪ねてきたのだ。

 しかし一方で、「この歯医者の建物の中、一体どんな風になってるんだろうなあ」と興味もあった。
 確かに待合室に入ってみて驚いた。それは上擦った外観とは違って、割りに落ち着いた雰囲気。新刊のマガジンが一杯用意されていて、その上に、壁には最新型の薄型TVが掛けられている。おまけにマッサ−ジチェアまで備え付けられているのだ。
 高見沢は元々腰痛持ち。これ幸いにと早速待ち時間を利用して、そのお世話になった。そして高見沢は実に単純。「うーん、なかなかいいじゃない」と、腰の辺りを揉み上げながら早速の心変わり。診察も始まらない内に、このテクノ歯科を気に入ってしまった。

 そんな気分も上々になった時に声がかかってきた。
「高見沢さん、中へお入り下さい」
 高見沢は呼ばれるままに診療室へと入った。そこには衝立で仕切られた三台の診察兼治療用の椅子が並んでいる。それらは複雑な曲線でデザインされていて、人間工学を駆使して造られていることが伺われる。
「そこで少しお待ちくだチャイね」
 高見沢は若い女性の歯科助手に指示されて、今一番奥の治療椅子に座ってる。そして目の前にある診療用モニタ−の画面の映像を眺めている。
 それは無声ではあったが、洋画のシ−ンを映し出している。それは何の映画なのかすぐわかった。
「へえ−、スゴイなあ、タイタニックのジャックとローズか……。ディカプリオはやっぱりカッコイイよなあ」
 高見沢は画面に見入ってしまった。

 歯医者に来て、診療椅子に座りながらではあるが、ちょっとした診察待ちの時間に懐かしいタイタニックの映像が観られる。最高とまでは言い難いが、これから始まる治療への不安を忘れさせてくれる。
「こんな所で、タイタニックの映画が観られるなんて……、さすが日本、時代の最先端を突っ走ってるよなあ」
 映像はすでにタイタニック号が半分に折れ、北大西洋の海に突き刺さっているシ−ンを映し出している。乗客たちがバラバラと海へと落ちて行く。
 ジャックとローズは海に突き刺さった船尾の最先端にいる。今まさにタイタニック号は沈没寸前。
「おっおー、スッゴイなあ……、沈没か」
 高見沢は思わず声を上げた。そして、タイタニックは兎も角として、日本の歯医者さんはやっぱり大したものだ、とただただ感心するしかなかった。

 高見沢は幼い頃からあまり歯が丈夫でなかった。したがって、この歳になるまで、その時々で歯医者さんのお世話になってきた。
 それは歯医者さんとの思い出と言うべきものなのか、それとも『これでもか』という体験だったのか、そういった類のものが一杯ある。高見沢は今タイタニックの映像を見入りながら、追想がどんどん深まって行く。
「ああ、やっぱり、これでもかの極めつけは、アメリカの歯医者さんと、メキシコの歯医者さんだったよなあ」
 こんな呟きの後に、高見沢はまるで招待を受けたかのように、歯医者さんとの『これでもか』の体験、それらの思い出へと埋没して行くのだった。


第1巻 アメリカの巻

 高見沢一郎は一介のサラリーマン。
 ある日海外赴任の辞令を受け、この南カリフォルニア内陸部にある小さな町に赴任してきた。そしてそれからもう一年が経つ。
 砂漠の熱い熱と乾いた風。眩し過ぎる陽光の下、幸いにも仕事にもすぐに馴染め、また友人も出来た。ここまでは一応順調であったと言える。
 しかし、ここ一週間ほど前から左下奥の親不知(おやしらず)がズキンズキンと疼いている。
「あ〜あ、痛い痛い!」
 もう辛抱が堪らなくなってきた。
 高見沢は、この町のどこにデンティストがあるかぐらいは知っていた。そしてついに意を決し、現地の歯医者に行くことにしたのだ。

 日本ではよく歯医者さんのお世話になってきた高見沢。診療室の中はどういう構造になって、またそこではどういった治療がなされるのか、それくらいのことは日本では容易に想像できた。
 だが、ここは遠く離れた異国の地。アメリカの歯医者さんだ。一体どういう構造で、どういう仕組みになっているのだろうか。またどういった治療が受けられるのだろうか。それらのすべてが想像もつかない。
 高見沢は不安で一杯だ。しかし痛さには勝てず、覚悟を決めて門を叩いた。

 デンティストのドアーを押して入ってみて、まず気付いたことは……、そこにある風景や臭い、それらは日本の歯医者と比べ、特に大きな違いはないということだった。
 それでも胸をドキドキさせながら待合室で待つ高見沢、「Mr.Taka…mi…za…wa,…come in, please.」と名前をしどろもどろに呼ばれた。そんなことを気にしている場合じゃない。これからの診療が心配で、恐る恐る治療室へと入って行った。
 そしてそこで……マ−クというデンティストに会った。
「Oh ! Fujiyama, Geisha, …. I love Japan.」
 マークは巫山戯た冗談を言いながら、強い握手を求めてきた。高見沢は「シャーナイヤツだなあ」と小さく呟きながら、「Nice meet you.」と軽く返し、握手に応えた。
 その後、質問されるままに歯の症状について、二、三の会話を交わし、マークは高見沢を診療椅子に座らせる。そしておもむろに、痛みがある親不知の診断を開始したのだった。

 高見沢の親不知、日本でも何度か疼いたことがあった。
 その度に歯医者に通った。そして、いつも歯医者から告げられた。
「この歯は、前へ向って水平に生えていますよね。ちょっと抜歯するのは無理かな。うーん、それは難しいし……、危険ですよ」
 これにいつも高見沢は「危険? そうなんですか」と、うじうじと返して、痛み止めの薬をもらうだけだった。
 そしてとどのつまりが、ひたすら疼きがおさまるのをじっと待つ。それが日本での治療だった。
 要は、日本の歯医者からは完全に見放された親不知。
 だが明らかにその日は違った。アメリカ人のデンティスト・マ−クは、その親不知を見るなり力強く宣言したのだ。
「I will take out !」
 これには高見沢も大びっくり。
 日本語で言えば、「私が、抜いちゃいましょ!」と、アメリカ男の抜歯一発決めだ。
「ねえマークさん、もう少し考えてよ。危険なんですよ!」
 高見沢はそう訴えたかった。しかし、あまりの迫力に反論する英語がうまく出てこない。
「OK? イチローサン、ア−ユ− OK?」
 高見沢はマークから矢継ぎ早にせっつかれて、「OK」とハズミで返事をしてしまったのだ。

 それからのことだ。まるで格闘技のデスマッチ。それが始まったのだ。
 まず最初にマ−クが持って来たのは、馬にでも打つようなぶっとい麻酔注射器二本。それから「オ−プン・ユア・マウス、プリーズ!」といきなりの指示を飛ばされる。
 高見沢はもう戦々恐々。
 そのためか半分だけゆるりと口を開けると、マークは高見沢の唇を、有無も言わさずにくるりんとめくってしまった。そして高見沢は太い木綿針をブスッと歯茎にぶち込まれたのだ。
 それはあっという間の出来事。高見沢には「止めてくれ!」と叫ぶ時間の余裕もなかった。
 次にマークは、麻酔で痺れ切った高見沢のオチョボ口、そこにそのド太い親指と人差し指を無理矢理に侵入させてくる。そして、高見沢の愛着籠もる親不知を掴み、力まかせに左右に揺すりにかかってくるのだ。
 日本の歯医者では「恐くて抜歯出来ません」と診断されてきたほどのシブトイ歯。その根はどこまでも深い。マークはその指先にますます力を集中させて、高見沢の顔が左右に大きく振幅するほど揺り動かしてくる。
 激痛が何度も走るが、歯はびくともしない。
 マークは汗まで流し、こうなればもうヤケクソ気味。だが少し疲れたのか、「ふー」と大きく一息吐いた。それからカーテンの向こうへと、さあっと消えて行ってしまったのだ。

 マークは何か探し物をしているようだ。そしてしばらくして、再登場。しかしその手には、奇妙な物がしっかりと握り締められている。
 高見沢はそれが何なのかと目を凝らして確認してみると、それは丁度口の中へ入る大きさの……チェンソーのような物。
 高見沢はそれを目の当たりにして、血の気が引いた。なぜならマークの魂胆が読めたからだ。
 まことに不幸なことに、その予感は当たってしまう。そう、マークは親不知を輪切りするように、躊躇なく切れ目を入れ始めたのだ。
 小型チェンソ−が口の中でガ−ガーと唸りを立てている。高見沢は今にも卒倒しそう。
 こんなクレージーな処置の後、マークは少し手を止めて、自分の計画を説明し始める。
 それによると、まず最初に、親不知の円周囲にワッパの切れ目、つまり溝を作る。その次に、そこへしっかりと糸を巻き付ける。そしてその糸を思い切り引っ張って、悪魔の親不知を引っこ抜く。
 これこそがアメリカ男が目論んだ抜歯。そしてマークはまことに自信たっぷりの御様子。
 だがこのアイデアは、高見沢が予感した最悪のシナリオ。こんなマークの計画を再確認して、ショック死しそう。
 それでもそんなワッパ掛け作業は、着々と進められて行った。
 高見沢が下目を使い、口元の辺りをチェックしてみると、自分の口の中からタコ糸のようなものが、ぶらっと垂れ下がっている。そしてふらふらと揺れている。
 そこから先へと糸を辿って行くと、まさに最先端、つまりその一点は、マークの毛むじゃらの指先で……、きゅっと摘ままれているのだ。
 高見沢一郎は万事休す。こういった場面では「オ−マイガッド!」と叫ぶのがアメリカ人の定番セリフ。
 だが高見沢は日本人。そのためか、ただただ「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」と念仏を唱えるだけだった。
 その一瞬のことだった、タコ糸はついに「Yaaa!」という叫び声とともに引っ張られた。
「うっ! うー!」
 高見沢は悲鳴を上げた。
 しかし、これも世の常。こういった事は思惑通りには行かないもの。意図せぬ結果になったのだ。
 きっと切り込みの溝が深過ぎたのだろう。
 親不知の先っぽ、そのかけらだけが糸に絡められ、ぴゅーんと空中に飛び出しただけだった。
 肝心の根っ子は、残ったまま。

「シット!」
 これもアメリカ人の定番セリフ。日本流に言えば、「クッソー!」。マ−クは思い切りそう叫んだ。
 一方日本人の高見沢、麻酔で痺れ切った舌を動かして、日出ずる国・まほろばの民らしく「コンチキショ−!」と唸ったのだ。だが声帯までもが麻痺してしまっているのか、残念ながらこれは声にはならなかった。
 そして、これもまた世の常。悲劇はさらなる悲劇へと繋がって行くもの。
 高見沢は予感した。究極の修羅場を。
 マ−クは最後の手段として、カーテンの向こうからカチカチとペンチのような物を嬉しそうに持ち出してきたのだ。
「おいおいおい、マ−クよ、ちょっと冷静になれよ!」
 高見沢はそう説得したかった。しかしだ、口の痺れで喋れない。
 その上にだ、高見沢が突然に逃亡をはからないように、一〇〇キロはあるかと思われる歯科助手、そう、でっかいオバチャンが体重ごと高見沢に寄りかかってきた。いや、明らかに押さえ込みに懸かってきたのだ。
 それにしても不思議だ。なぜかオバチャンの目が異様にギラギラと輝いている。それはまるで高見沢に対し活殺自在(かっさつじざい)の権利を得たかのようにだ。
 そしてオバチャンはそれに酔ってしまっているかのように、満足そうにニタリと微笑む。これこそ不気味としか言いようがない。

 さらに不幸なことが。悪臭としか表現のしようがない香水の匂いが……、ぷ〜んと鼻っ面に。高見沢は「ウエッ」と思わずえづく。もう鼻で息ができず、ウガウガと酸欠状態で失神一歩手前。
 こんな状態で押さえ込まれ、もう身動き一つできない。これこそまさに生き地獄。目には涙が溢れてくる。
 しかし、マ−クは容赦しない。高見沢の口の中へペンチを突っ込んで、親不知を力まかせに挟み込む。そして左右に大きく一〇回くらい揺する。
 高見沢一郎は今、スポットライトが当たった地獄図絵巻の主人公。
 そしてそのクライマックスはやっぱりやってくる、突然に──ゴリッ!
 この世に存在しないような鈍い音を発し、親不知は……ついに抜けたのだ。
 一時間以上にも及んだ『これでもか』の親不知デスマッチ。その挙げ句の果てに、高見沢はほとんど死に体状態。

 しかし、事はこれだけでは終わらなかった。
 口は腫れるだけ腫れている。思うように開けられない。なんと五ミリも開かないのだ。
 麻酔が切れて痛さが増してきている。そのためか口を動かせない。しかし、このままじっとしていれば、口はそのままの状態で固まってしまう。今から口のリハビリが必要ということらしい。
 マ−クが径一センチから五センチの何本かの丸棒を持ってきた。そしてそれらを無理矢理に握らせる。その後だ、歯科助手のオバチャンが実に嬉しそうに説明をしてくれる。
 最初は細い丸棒をくわえ、徐々に太いのをくわえて行き、口が開くように訓練しなさいと。
 その上に、親切にも、丸棒を使ってデモンストレ−ションまでも。オバチャンが三センチくらいの太さの丸棒をくわえ込み、実演してくれるのだ。
 しかしどうも、オバチャンの口元、その動きが妖しい。
「オバチャン、それって、ひょっとして……、なにか勘違いしてない?」
 高見沢がこんな疑いを掛けている時に、オバチャンは大きな声を突然張り上げる。
「イチロー、ユー、マスト…、トゥライット!」
 こう命令されて、五ミリも開かない高見沢の可愛いオチョボ口に、直径三センチの丸棒がねじ込まれてくるのだ。
 高見沢は余す力を振り絞って、重量級のオバチャンに抵抗を試みた。しかしその抵抗は、オバチャンに対しての敗戦国・日本人の反抗と取られたようだ。
「指導に従わなければ、もう許しません」
 オバチャンはそう言い切って、丸棒を高見沢の口の中へと無理矢理に突っ込んでくる。
 高見沢は涙ながらにやっとくわえ込んだ。するとオバチャンは大感激。高見沢はオバチャンからお褒めのお言葉をいただくのだ。
「グッジョブ!」

 歯科助手のオバチャンは「それじゃ一時間毎に、この訓練をやりなさい」と強く仰る。高見沢はもう二度と反抗はしませんという忠誠の態度をアピ−ルし、素直に「イエス・マム」と答えた。そしてやっとのことで、高見沢は解放されたのだ。
 最後にオバチャンは、自分の息子を見るような慈愛の目をして仰られる。「さっ、イチロー、今から仕事に行きなさい」と。
 高見沢は、口は開かないし、しゃべれないし、痛いし、どうして仕事に行けるのかよ、と反発したかったが、ここはさらに服従度合いを上げて、「イエス・クィーン(はい、女王様)」と。
 しかし麻酔が徐々に抜け、痛さが増してきている。思い切って「仕事に行くから薬を下さい」と要望する。するとオバチャンからは、あっさりと冷たい返事が。「薬はないわ」と。
 そしてとどのつまりに、オバチャンは究極の指示を飛ばしてくれた。「自分の力で治しなさい」と。
 犬でもあるまいし、高見沢はこれには頭にきた。
「もうこんな歯医者には、二度と来るものか」
 高見沢はそう捨てゼルフをモグモグと吐きながら、マークのデンティストを後にしたのだった。

 そんな親不知の抜歯治療から一週間が経った。
 高見沢はオバチャンの指導の通り日々のリハビリを頑張り、もう四センチの丸棒が簡単にくわえられるところまで回復した。
 確かに肝をつぶすほどの荒治療だった。しかし、信じられないことだが、治り方は薬なしでも意外にも順調。
 日本では何年も手がつけられなかった親不知。それが一日の通院で取り去られ、スカッとした。そして高見沢は今、デンティスト・マ−クと歯科助手のオバチャンに感謝の念さえ覚えている。
 そんなある日、新聞を読んでいた高見沢、ド肝を抜かれてしまう。
 記事には、あのデンティストのマ−クが自分で操縦する飛行機、それで墜落して死亡してしまったとある。
 さらにだ、マ−クが扱っていた患者のカルテは、今全部売りに出されていると言う。

 高見沢はこの記事を読み終えて、「えっ、亡くなった。こんな事ってあるのか」と大仰天。そしてぼやっと思う。
「それにしても、俺のカルテまでもが売られてしまうのか。だけどカルテには、ある日、日本人の若造が親不知が疼くと言ってやって来た。日本の歯医者では恐くて抜けなかった横向きの親不知を、このアメリカで抜いてやった、と記録されているのだろうあ」 
 高見沢は「アメリカの歯医者って、ダイナミックで、やっぱりスゴイなあ」とあらためて感じ入ってしまう。そして、つくづくと思うのだった。
「これが、アメリカなんだ!」と。


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このストーリーに関するコメント

13/09/21 泡沫恋歌

鮎風さん、拝読しました。

歯医者が苦手な私は・・・読んでるだけで、なんか歯が痛くなって来そう(笑)

海外の医療の凄さに驚愕しました。

面白かったです!

13/09/28 鮎風 遊

泡沫恋歌さん

コメント、ありがとうございます。

アメリカはかなり荒っぽいようです。

13/10/01 草愛やし美

鮎風遊さん、拝読しました。

これは実話でしょうか? アメリカって国民全員が芸能人かと思わんばかりみんな「歯は命」って人ばかりですよね。だから優れた歯科医さんばかりおられるものだと思っていましたが……。
なんということでしょう。(ビフォーアフター風味で)  オバチャンまで加勢して治すというか、強制執行しているとは知りませんでした。おお、コワ!!

13/10/11 鮎風 遊

草藍さん

実話に近いですね。
西部劇カーボーイの心を持つ歯医者、
強制執行する助手さん、
やっぱりアメリカはスゴイかなと。

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