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草愛やし美さん

時空文学コンテスト開催100回、おめでとうございます。思えば、初めて私が、こちらに投稿したのは2012年5月のこと、もう4年近く経ったのですね。時空モノガタリさまが、創作の場を与えてくださったお陰で楽しい時間を過ごすことができました。感謝の気持ちでいっぱいです。 また、拙い私の作品を読んでくださった方々に感謝しております。 やし美というのは本名です、母がつけてくれた名前、生まれた時にラジオから流れていた、島崎藤村作詞の「椰子の実」にちなんで……大好きな名前です。ツイッター:草藍やし美、https://twitter.com/cocosouai 

性別 女性
将来の夢 いっぱい食べて飲んでも痩せているっての、いいだろうなあ〜〜
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無人駅の子

13/09/20 コンテスト(テーマ):第三十九回 時空モノガタリ文学賞【 待つ人 】 コメント:27件 草愛やし美 閲覧数:3470

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「しいちゃんここで待っていて、母さん、すぐに戻って来るからね」
 そう言って母は、改札を出て行った。田舎の駅、初めて来た知らない駅。誰もいないホームにポツンと一人残された私は、母を待った。手には母が置いていったジュースの小瓶と、少しばかりの菓子の入った袋を持ち待っていた、何時間も無人駅で。最終列車らしきものが、通り過ぎても母は戻って来なかった。山奥のその駅の近くの人からの通報で、私は、その駅から一番近い養護施設に預けられた。施設の職員に話すおまわりさんの声がいつまでも心に響いていた。
「母ちゃんに捨てられたのだ、こんな小さな子を酷い親だ。でも身元が分かる迷子札つけていたのは解せないなあ」
 私は、捨てられたの? 母はそんなこと言わなかった。待っていなさいと言っただけだ、誰が信じるものか、私は、母の言葉を守りたかった。だのに、人々は私をその駅から遠ざけた。きっと、あの後、母が戻ってきたに違いない。その時、私がいなくなっていて母は驚いただろう、いや、悲しんだだろう。きっと、今も探しているに違いない。あの駅で待たなければ、そう思う私がいた。その気持ちを忘れたことはなかった。
 施設を抜け出して駅へ急ぐ、幼い私には道がわからない、何度も試みたが、どうしてもその駅に辿り着けなかった。小学生になってようやくそこがどこなのかわかった。隣の県にある山奥の駅、どうしようもなく遠い処にあった。何度か脱走しては連れ戻された。心の中にある母の言葉は、私を寂しさから救ってくれた。他の養護施設の児童達は自暴自棄的な考えの者が多かったが、私は違っていた。
「お前、駅だぜ、捨てられたに決まっているさ。母親も所詮女、男ができたら、子供は邪魔になるんだよ。待っているなんて馬鹿としか言いようがないね」
 いくら嘲られても私は母を信じていた。そう言う男児は、十歳で母親から捨てられた。男からあんたはいらないと言われ、母ちゃんのために我慢してくれと母親から言われスーパーに残されたのだ。彼は、自分から真っ直ぐ店の事務所に歩いていったそうだ。
 中学になりようやく、私はその駅に行くことができた。修学旅行に行く日、私は学校へ行かず歩いて駅へ向った。十時間掛けようやく着いた無人駅は何も変わっていなかった。幼い私がいたホームで私は待った。人が来ると隠れ母を待ったが施設を出て三日目の夜に捕まり施設に戻された。周りの者から馬鹿呼ばわりされたが、それでも私は母を信じていた。待っていれば、寂しくなかった。私は待つ人がいるのだ、ここにいる児童とは違うのだ。待つことは楽しかった。
 時々、不安にもなったが打ち消した。幼すぎてうろ覚えの顔しか思い出せない母だったが、妙に白い歯の笑顔だけが印象に残っていた。背後から、母の背中に抱きつくと、母は優しい笑顔で振り返って、両手を胸に引き寄せ背中に乗せてくれた。私はその背中を這い上がって母の顔を覗き込んで見る。髪の毛がくしゃくしゃになっても気にもせず、母は私のすることを許してくれた。貧しかったが、幸せだった。時々、知らない男の人がやってきたが、母は……。そこから思い出せなかった。記憶が誰かに消されてしまったかのように、そこで途絶えたままだった。幾つになってもその記憶は取り戻せなかった。
私は、大人になり十八歳で施設を出て働いた。一人の男性と巡り合い結ばれて娘を産んだ。母にとっては孫にあたる娘。この子をいつか母に見てもらいたいと思った。
  
 
 突然、母が見つかったという知らせの電話が警察から届いた。母はあの駅のすぐ傍の山奥に眠っていた。母の遺体は山の開発を調べに来た森林業者によって見つけられた。土砂の流出で地上に現れたのだった。身元はすぐに判明した、菓子缶に入っていた保険証が腐らずに出てきたからだ。そうだ! あの日、母は私が大切にしていた宝物缶を風呂敷包みに入れてくれていた「しいちゃんの宝物も持って行こうね」と言って。警察から戻ってきた錆びた缶の中には、小石やおはじき、折り紙のだまし船などが入っていた。
 犯人はすぐに捕まった。缶の中に男に貰った名刺も入っていたからだ。母は、大事なものを私の宝の缶の中に一緒に入れ家を出たのだ。あの来訪者の男に母はあの日殺されていたのだ。妻子ある男に離婚するからと騙され誘い出され殺された。男は初めから殺すつもりで母を山奥に連れて行ったのだ。

 初盆に私は娘を連れてあの駅へ出向いた。母がずっと眠っていた山は、その駅が良く見渡せるところにあった。相変わらず静かなだけの無人駅に佇んで私はホームのベンチに娘と並んで腰掛けた。見上げると母の眠っていた山が迫っている。
「ねえ、奈緒ちゃん、ばあちゃんは、あそこで私を待っていたんだよ。母さんはね、この駅で待っていたの、ずっとずっと待っていたの、でもね、待つことは辛くなかったよ……」


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このストーリーに関するコメント

13/09/20 草愛やし美

お断り:右の画像は、イラストACさんより、leitaさんのイラストをお借りしています。イラストACさんのURLは、http://www.ac-illust.com/です。

13/09/20 yoshiki

読ませていただきました。

なんと悲しい物語なのでしょう。母を待つ切ない気持ちを感じます。

そして決して捨てる気じゃなかったのに、駅に来られなかった哀れな母

これは中編にしても十分にいけるストーリーじゃないかとも思いました。

良かったです(^v^)

13/09/20 光石七

拝読しました。
決して母を疑うことなく信じ続けた主人公の純粋さが切ないです。
母も捨てたわけではなく、来ることができなかったとは……
悲しいけれど、母子の絆に救われる思いがしました。

13/09/21 クナリ

どんなに後からでもいいので、思いのすれ違いが誤解だった場合には、真実が本人に伝わってほしいと思います。
絶望から暗黒面へ落ちなかった主人公の、強さと純粋さのすばらしさ。
亡くなった人間はもう何もできませんが、残した思いが生きている人間に伝わったとき、世界はほんの少しずつだけよくなって行くのでしょう。

13/09/21 泡沫恋歌

草藍さん、拝読しました。

なかなか読みごたえのある内容で「ひたすら待つ」という純粋な少女の
けな気さが伝わってきて感動しました。

捨てられたのではなく、母親の事故だったと分かって良かった気がしました。

しっとりと心に残る、良い作品だと思います。

13/09/21 そらの珊瑚

草藍さん、拝読しました。

待つ時間が長くなればなるほど、人は疑心暗鬼になるものですが、ひたすら母を信じて待つ少女の心が切ないですね。
無人駅というさみしい駅で、母を思って心のなかは孤独ではなかったのでは、と思います。真実が解明されて良かったです。

13/09/22 kotonoha

こんにちは颯愛さん。
哀しい気持ちで読ませていただいていましたが菓子缶に入っていた保険証がみつかってほっとしました。
お嬢ちゃんをお母様に見せて上げたかったでしょうね。

13/09/24 つるばた

拝読しました。

悲しい物語でうるっときてしまいました。
でも母の愛は海より深い――自分の母親や甥っ子のことを思いだしながら読みました。
ありがとうございました。

13/09/28 鮎風 遊

待つことは辛くない、確かにそうですね。

それと待ってて良かったです。
もし母を恨み、諦めていたとしたら、
こんな人生にはなってなかったでしょう。

13/09/28 murakami

お母さんも無念だったでしょうね。
切ないお話なのに希望が見えてよかったです。

国東半島のお話と群馬の温泉のお話も心に残りました。
国東半島は若いときに、一人で旅したことがあって、フルートも高校のときに少しやったことがあるので、特に。



13/09/28 ドーナツ

心に響く、いつまでも忘れられない作品ですね。
人生の中には、勘違い誤解、行き違い、いろいろあります。
「捨てられたんだ」ってひどいこと言う人がいても、それでもまっている健気さが、愛おしいです。
信じる心は強さがなければできないことなんだと思いました。

13/09/28 猫兵器

草藍様 

こんばんは。ずいぶん遅くなってしまったが、拙い感想を書かせて頂きます。
静かに張り詰めた、とても美しいお話でした。
淡々とした語り口が大変よく活きていると思います。
母に思いを馳せ、信じ、待ち続けた幼少期から、突然母が見つかってかならの流れるような展開。
それでも「私」の主観は乱れることなく、滑らかな陶器のようなどこか脆さを感じる冷静さを保ち続けます。
そこに、ひどく染み入る哀しさを感じました。
驚くのは、これほどのないようが2000字の中に収まること。
草藍様の確かな筆力を垣間見た気がいたします。
ありがとうございました。

13/09/28 猫兵器

草藍様 

こんばんは。ずいぶん遅くなってしまったが、拙い感想を書かせて頂きます。
静かに張り詰めた、とても美しいお話でした。
淡々とした語り口が大変よく活きていると思います。
母に思いを馳せ、信じ、待ち続けた幼少期から、突然母が見つかってかならの流れるような展開。
それでも「私」の主観は乱れることなく、滑らかな陶器のようなどこか脆さを感じる冷静さを保ち続けます。
そこに、ひどく染み入る哀しさを感じました。
驚くのは、これほどのないようが2000字の中に収まること。
草藍様の確かな筆力を垣間見た気がいたします。
ありがとうございました。

13/09/28 草愛やし美

yoshikiさん、コメントありがとうございます。

えっ! 中編にですか、それには技量が必要だと思っています。構成力も表現力も乏しい私の作品をそんな風に思っていただけてとても嬉しいです、ありがとうございます。
長編や中編を、面白いまま息切れさせずに完了させるのは、とても難しいと思います。──と、言って短編が得意なんてこともなく、2千文字に収めるのが難しく毎回四苦八苦しています。あまり思考しないで書くものですから、たいてい5.6百文字オーバーしていまして焦ります。時には千文字近くオーバーなんてなりますと、もう嫌になってしまいます。もう少し考えて書けばいいのにと、自分の技量のなさに呆れてしまいます。 苦笑

13/09/28 草愛やし美

光石七さん、母親を信じ続けることができたのは、この親子間の繋がりが深かったのと、彼女が幼かったから? でしょうか。どちらにせよ、信じるしか生きる道がなかった環境下にあったのではと思います。
でも一番は母親と娘の絆は強くあって欲しいと願う私の希望で書かせていただきました。お読みくださって、コメントありがとうございました。

13/09/28 草愛やし美

クナリさん、コメントをありがとうございます。

真実にまさるものはないと思います。たとえそれが死という悲しい結果に終わっても、彼女にとって気持ちが吹っ切れ、良かったと思います。
私がよく思うことに、悲惨な事件が起こり、その行く末が見えない場合の辛さはいかばかりかということです。誘拐などその典型です、子を思う親はいつまで経ってもその日のその時から抜け出せないまま生きていくことになります。残酷な結果でも、結果がわかればそれはそれで気持ちの整理がつくだろうにと考えてしまいます。
残された想いというものは、遺族にとって生きていく糧になると信じています。

13/09/28 草愛やし美

泡沫恋歌さん、お読みくださって感謝しています。

母親はいつも子供のことを思っていると信じています。(例外もあるでしょうが……)そういう親にこたえる子もまた親を信じているはずだと思います。親子の絆があれば、何があってもその信じる気持ちを持ち続けられるのではという願いのような気持ちから書かせていただきました。身に余る「良作」というお褒めの言葉嬉しいです、コメントありがとうございました。

13/09/28 草愛やし美

そらの珊瑚さん、きっと彼女は母を信じる事で生きるすべを得ていたのでしょうね。哀しいことですが、必然的に自らを守るためにそういう感情になったのかもしれません。とくに周りの者達への反発もあったかもしれませんねえ……。コメントありがとうございました。

13/09/29 草愛やし美

月見草さん、お忙しい中をお立ち寄りくださって感謝しています。
お孫さんにお会いすることが叶えば、おばあさまもとても喜ばれたことでしょうね、そう思うと切ないことです。コメントありがとうございました。

13/09/29 草愛やし美

凪沙薫さん、現実味があるという嬉しいコメントに舞い上がりました。
フィクションですが、中学の頃読書感想文で数冊の中から選んで読みました本の影響が強いのではないかと思います。
その本は、沢田美貴さんの生きる道を描いた「エリザベス・サンダーホーム」という本です。とても感動して涙しました。内容は、戦争孤児を設立されたお話です。世間の反対を押し切って、私財を投げ打って、孤児院を設立されたのですが、この沢田美貴さんは、三菱財閥の岩崎弥太郎の孫娘という恵まれた生い立ちの方ですので余計驚きました。
美貴さんは、戦後、行き場の無い、いわゆる戦争の落とし児であるハーフの子供達のために孤児院設立活動をされました。私の好きな作品で、感銘も深く、この時の気持ちが今回の作品の元になっています。
どんな事情があれ、親に捨てられるという運命を背負わなければならなくなった子供達は、心に深い傷が残ります。私は貧しかったですが、親がいてくれたお蔭をいつも感謝しています。
すみません、思わず、コメント返しが長くなってしまいました。コメントありがとうございました。

13/09/29 yumesamurai

「待つ」という事に、いろいろな意味があること、其々の人々の思いや状況で、「待つ」事が、悲しい時の流れになったり、逆に、💓わくわくする愉しい時の流れになったり、「人生」というものは、何回でも「待つ」事の繰り返しです。「待てば海路の日和あり」でしょうか? 前半は哀しく辛いけど、あとから、ほのかな幸せ、そして強い力が溢れでる物語で、とても素敵な作品ですね。

13/09/29 草愛やし美

つるばたさん、お読みくださって嬉しいです。

母の愛は海よりも強い、ほんとうにいい言葉ですね。子供にとって、母親って特別なものだと思います。生まれる前から、自分の内面に命を感じて子供を産む母親という役割は、子供にとっても母親自身にとっても、特別な感情や関係を築くものだと思います。どんな事情があっても母親は子のことを思っていると、私は信じたいです。コメントをありがとうございました。

13/09/29 草愛やし美

鮎風遊さん、お立ち寄り感謝いたします。

待つことが、この子にとって救いであったと思います。夢や希望の対象を持てたことは、この子を強くしてのではないかと思います。こういう風に育てたこのお母さんの愛情面のエピソードを、私としては、もう少し描きたかったのですが、なにせ2千文字の制限がありまして、うまく描き切れなかったと思います( ̄Д ̄;; 読み取っていただき嬉しいです、コメントありがとうございました。

13/09/29 草愛やし美

murakamiさん、作品いっぱい読んでくださって嬉しいです、感謝しています。私にとって、書いたものを誰かに読んでいただけることが、なによりの喜びです。コメントで感想をいただけるのは、励みになります。頑張って書いていこうとキーボードを叩く指にも力がこもります。
国東半島と群馬の話、お褒めくださって嬉しいです。フルートされていたのですか、素晴らしいですね。私は音楽特に演奏の方は全くできません。それどころか、音痴のようで息子に、「お母さんは、似たように歌っているけど、全く違う音で歌ってるなあ、感心するわ」と、変な指摘をされたことがあります。(汗)苦笑  コメントありがとうございました。

13/09/29 草愛やし美

ドーナツさん、コメントありがとうございます。
人が生きていくうえで、色々なことがありますね。私もこの年になっても、まだまだわかってないこと多いですが、それでも、何とかやってこれたのは、周りの方々の支えによるところが大きいと思っています。
作品のお母さんとは全く違って、私自身は、息子に対し子育てがよくわからなかったのというかってな理由にして、結構、暴力的な母親でした。感情にまかせて怒ったこと度々ありまして、この年になって反省している駄目母です。大汗 
そんな母親ですが、(母親と言えるかどうか 悩む)それでも、隣に息子が住まいしていてくれることありがたいなと思っています。いざという時やはり心強いですから。全くコメントに対するお返事になってなくて、すみません。冷や汗 コメントありがとうございました。

13/09/29 草愛やし美

猫兵器さん、コメントありがとうございます。

身に余るお褒めの言葉をいただき、舞い上がってしまいました。
私は、自作には構成力や表現力が乏しいと感じています。他の方々の作品を読むたびに、うまい言い回しだなと、唸るほど感心しています。時空に来られる方々は、みなさん、素晴らしい書き手の方ばかりで勉強させてもらってますが、なかなか思うような文にならないのが現実です。
いまひとつ表現が乏しい私の作品ですが、みなさんのコメントを読みますと自分の足らない部分まで深く読み取っていただけていて大変ありがたいなと感じることが多いです。時空に来られている方々の高い理解力に助けられ、私のような書き手でもなんとか書いていられるのだといつも感謝しています。
猫兵器さんの2編の作品を読んで凄く感銘を受けました、猫兵器さんの独特な世界観大好きです、読んでいただけ凄く嬉しかったですありがとうございました。

13/09/29 草愛やし美

yumeshibaiさん、お立ち寄り嬉しいです。コメントをありがとうございました。
待つことはいろいろな場面で、その気持ちは変わります。私は、若い頃は特に時間にルーズで待ち合わせにいつも遅れていました。相手の方々はそんな私を温かい目で見て許して?くださっていたのをこの年になって恥じています。あの方々にとっては貴重な時間を無駄にすごさせてしまったのですね、今頃になって、心の中で深く詫びています。ですが、失った時間は二度と戻ってきません。待たせてしまった方々への、お詫びの気持ちをこんなところで書いてしまってます。コメントのお返事になってませんね、すみません。待つことでいろいろ考えさせられました。

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