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佐川恭一さん

よろぴくぴく〜✫ twitter:https://twitter.com/#!/kyoichi_sagawa

性別 男性
将来の夢 ノーベル文学賞受賞
座右の銘

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3

ビューティフル・ドリーマー

13/09/16 コンテスト(テーマ):第四十回 時空モノガタリ文学賞【 アイドル 】 コメント:3件 佐川恭一 閲覧数:2230

時空モノガタリからの選評

最終選考

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 飛ぶ鳥を落とす勢いでミリオンヒットを連発する男性アイドルグループ、ザンジヴァルのKドームコンサートは当然の如く超満員、あたしはアリーナ席の最前列から五列目という絶好の位置で、躍動するメンバーたちを見ていた。
 ザンジヴァルはデビューして一気に有名になったけど、あたしはデビューする何年も前から久保くんを応援している。ザンジヴァルを結成する前、ノースリーブで踊るのに腕がヒョロヒョロすぎて先輩からなじられていた久保くん、経験もないのにいきなりラップ部分を任されて失敗し掲示板でボコボコに叩かれていた久保くん、深夜ラジオのパーソナリティをやらされたけど面白くなさすぎてアッサリ番組をおろされた久保くん……色んな辛い下積みがあって彼は今ザンジヴァルのセンターに立っているわけで、そのへんの歴史を理解しているファンは数少ない。
 立て続けにいくつかの曲をやったあとMCになると、久保くんがしみじみと語り出した。
「やっぱさあ、テレビとかでは、カメラに向かって色々やるわけじゃん、観覧の人とかはいてくれてそれはうれしいんだけど、テレビの向こうでみんながどんな風に俺らをみてくれてるか、やっぱりわかんないんだよね。これでいいのかな、楽しんでくれてるかなって、いつも不安なんだ。でもコンサートではこうやってさ、ファンのみんなの姿が見えて、最高の笑顔みせてくれるから、これでいいんだ、俺たちのやってることは間違ってないんだって思えて、ほんと胸が熱くなってくるんだよね……ちょっとごめん」
 そこで久保くんは涙をこらえるような仕草をして観客たちは「ギヤーーーー!!!!」と叫び散らかし中には一緒に泣いてるのもいた。あたしは似たようなセリフを数十回は聞いているしこうやって泣く仕草をすればファンがギヤーーとなるだろうというのを彼が計算してやっていることもよくわかっているけど一緒に「ギヤーーーー!!!!」と言って鼻水を垂らして泣いた。わかっててもノせられてしまう、それが久保くんの凄さなのだ。

 コンサートの終盤、メンバーたちが角を丸くしたサイン色紙を投げてくれてあたしはそれをゲットしたことがなかったけれど、なんと久保くんのサイン色紙がこちらにちょうど飛んできて、そんな史上初のチャンスにあたしは「うおおおおおおお!!」と叫びながら大垂直飛びをかましちぎれそうなくらいに手をのばした。
 久保くん、あたしの手をとって!
 あたしを夢の世界に連れてって!!
 あと少しでサイン色紙が手に入るというその瞬間、なんとあたしの後ろから身長190センチ近い大男が軽く背伸びをして色紙を楽勝でつかみとった。
「スゴーイ! 背ぇたかーい!!」
 男の隣にいた女子高生がめちゃくちゃ喜んで190のウドの大木は「いやあ」とか言って照れている。
 てめえ反則だろ! 190とか反則だろうが!!
 あたしは頭に血が上って大木と女子高生に向かって「あのう……それ、譲ってもらえませんか」と小さな声で言った。
「あのう……あたし久保くんの大ファンなんです。お金とか言ってもらえたら払いますから、それ譲ってもらえませんか」
「ふーん、じゃあ十万円くらいかな」
 女子高生が笑いながら言った。大木は目をむいて驚いているが何も言わない。
「オークションで売ったらそのくらいいくと思うし」
 いかねーーよ!!!
 あたしは頭に血が上って「ちょっと待ってください」と言って財布の中身をみたが六万円とちょっとしか入っていなかった。
「すみません、六万円でどうでしょうか、今ちょっと手持ちがなくて」
「じゃあだめー」
「お願いします、あ、じゃあ後で追加で払うのではどうでしょう?」
「だめー、あてになんないから」
「お、お願いします、必ず払いますから」
 あたしは小娘にバカにされて悔しくて泣きそうになりながら食い下がった。
「しつこいんだよ! おまえ何歳なんだよ」
「四十二です」
「いつまでアイドル追っかけてんだよ! 現実をみろよ現実を、久保くんがおまえみたいなババア相手にすっかよ」
 女子高生は心底うんざりという顔をしてあたしからステージの方へと視線を移し「キャーーーー」と叫び始め大木はそれをほほえましそうに見つめていた。あたしはあきらめてステージの久保くんをみた。すてきだった。

 現実なんか見て一体どうなるっていうんだ、夢の時間が長い方が、人生楽しいってもんじゃないの。あたしは久保くんのダンスをみて、仕事でのいやなことも過去のいやな思い出も気の強い女子高生のことも尻にしかれてるっぽい大木のこともすぐに忘れて、夢中でうちわを振り回した。不細工で性格も暗くて男にもてなくて仕事もできなくて結婚もしてなくてお前なんのために生きてるのって聞かれても、あたしは迷わず笑顔で答えられる。

「ザンジヴァルのコンサートに行くためです!」


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このストーリーに関するコメント

13/09/17 草愛やし美

佐川恭一さん、拝読しました。

いくつになっても、生きがいがある人生は良いと思います。誰が何といおうと、動じないこの主人公の生き様は素敵ですよ。女子高生だって、いつか42にも、80にもなるのですから。アイドルって、そういう夢を与えるものでなくては、なるほどなあと思いました。さすが大賞を取られた作家さんですね、テーマをうまく捉えられおられますね。
「現実なんか見て一体どうなるって──」こんな風に生きなくてはと、おばさんである私は、思いました。楽しかったです、ありがとうございました。

13/09/17 佐川恭一

>草藍さま

読んで下さってありがとうございます!
この話の主人公は大分滑稽に描かれていますが、これは僕が考えるもっとも幸せな生き方の一つなんです。大人になるにつれて色々と考えることが多くなって、盲目的に何かにはまるってことが難しくなると思うんですが、そんなことも関係なく思いっきりはまらせてくれる力をもつのが「アイドル」じゃないかな、と思ってます。

この主人公の生き方に共感してもらえて凄くうれしいです!
ありがとうございました。
僕も草藍さんみたいに、秀作をたくさん作れるようがんばります!

13/09/24 空ノ

お題「神」の作品も読ませてもらいました。
やはり文章が簡潔でとてもわかりやすいですね。速読気味でもすっと頭に入ってきます。ストーリーも面白かったです。

本作は年齢の部分を転に持ってきているわけですが、それ以上に強く感じたのがテーマでした。
心が充足する人生ならば他人にどう見られようと幸せなんだという、かなり共感できるもので、私の理想に限りなく近いです。

幸せな5分をありがとうございました!

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