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鮎風 遊さん

この世で最も面白い物語を見つけ出したい。 そのために、ひとり脳内で化学反応を起こし、投稿させてもらってます。 テーマに沿った個別物語の他に、いくつかのシリーズものをコツコツと書き続けさせてもらってます。 その主なシリーズものを紹介させてもらいます。  ☆❤☆❤☆ 新シリーズ 『ツイスミ不動産』 __ 2017.07.16よりスタートさせてもらいました。 カサリンとクワガタ野郎があなたが求める終の棲家を紹介いたします。  ☆❤☆❤☆ 『刑事 : 百目鬼 学(どうめき がく)』 __ 2017.05.21 ただ今、27話 __ 1話完結の2000文字推理小説です。この少ない文字数の中で、百目鬼刑事と部下の芹凛(せりりん)がいかに事件を解決していくか、その醍醐味を味わって頂ければ、光栄です。 これからも引き続き難しい事件に挑戦して参りますので、よろしくお願いします。  ☆❤☆❤☆ 『漢字一文字の旅』 __2017.04.04 ただ今、連載41__ 漢字にまつわるエッセイです。  ☆❤☆❤☆  『歴詩』 __歴史上の人物になりかわって、その波瀾万丈の生き様の思いを詩に綴らせてもらってます。 本作品については、フォト音(on)小説という形で、you tubeにもUPさせてもらってます。 詳細はこちらHPです。  ☆❤☆❤☆  http://ayukazeyuu.net/index.html  ☆❤☆❤☆                         よろしくお願いします。              

性別 男性
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人待ち風邪

13/09/14 コンテスト(テーマ):第三十九回 時空モノガタリ文学賞【 待つ人 】 コメント:4件 鮎風 遊 閲覧数:2439

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 台風の本土接近。そのためか最近の天候は荒れ模様。気温も落ちた。
 その反面、人たちは秋の訪れを実感し、猛暑続きで干上がった心も、ホッ。
 サラリーマンの颯太も同じ、まるで拷問のような夏の日々を乗り越えて、世間のみなさまと同様に、ホッ。
 こうなればジョギングの再開でもと。もちろんコースは慣れた川沿いの道、すべてから解放されてタッタッタッと気分は上々。そして何回か繰り返す内にランナーズハイが再び芽生え、もう止められない。

 今日も今日とて懲りずに、雨がぱらつき風が吹く中、ジョガーたちに混じり、折り返し点の公園まで走り着いた。
 まだまだ汗は噴き出し、その熱を冷ますために、颯太は公園の隅っこで軽いストレッチをする。空を見上げれば、黒い雲の動きが速い。大きく息を吸い込み、ふーと雲に向かって吐きだす。
 そんな時だった、「あれ、また座ってるよ」と、いつもの女性を発見する。

 背の高い樫の木の下に、朽ちかけたベンチがある。そこにちょっと妖艶な、三十歳前の女性が腰掛けてる。
 颯太は──なぜ、いつもこの場所に? と奇々怪々な心持ちに。
 身なりは白いブラウスにデニムジーンズ。
 そして黒髪が吹き来る風に時折逆立ち、まるで風の妖精のようなお嬢さんが……ぽつりとベンチに座り、流れ行く雲を眺めている。独身の颯太、当然こんな女性を放っておけない。驚かさないようにそろりと近付いて行く。
「いつもここに座ってられますよね」
 女は颯太を見知っていたのだろう、特に驚く風もなく、澄んだ声で「そうよ、待ってますのよ」と返してきた。そして烏の濡れ羽色の髪をさらりとかき上げた。当然颯太の目に、白くて湿った二の腕がちらつき、うっと息を飲む。その後、女は手を前へと突き出し、いかにも退屈そうに言う。
「待ちくたびれわ。だから、早く来て欲しいの」と。

 こんな女の色香にゾクゾクと、されども、ただ今ジョギング中。颯太は女への好み心を横へと押しやって、ここは冷静に……だが興味津々に直球を投げる。
「誰を……ですか?」
 これに女は斜め三十度に首を傾げた。それからニコリと笑い──「それが、誰だかわからないのですよ」と。
 ええ、そんな摩訶不思議な!
 颯太はポカンと、口が閉まらない。だが女は男の驚きに無関心。「その人は風に乗ってやって来るような気がして。勤めも辞めて、毎日ここで待ってますのよ」と、いかにも自慢げに話す。
 颯太はこの美しい女性に「逢えるといいですね」と希望を伝えたが、内心待たれてるヤツに嫉妬し、拳を握りしめた。
 されどもだ、──風に乗ってやって来る人って、ひょっとすると、俺のことかも、と厚かましい考えが脳裏を過ぎる。

 彼女いない歴三年の颯太、もうそろそろ新たな出逢いがあっても良いはず。ここはチャンスだ。
「ロマンチックなお話しで感動しました。その風に乗ってやって来る人って、案外私だったりして。いかがでしょうか?」
 思い切って売り込んでみた。するとどうだろうか、女性は「白馬の天使じゃなくって、汗臭そうなジョガー、だったの? うーん、意外にそうかもね」と微笑んだ。これで颯太は空に向かってガッツポーズ。
 それでもこのレディとは初会話、またお会いしましょうと約束し、元来た川沿いの道へと走り帰った。

 こんな出来事から一週間が経った。颯太はどことなく人恋しい。よくわからないが、どうもあの女性ではない。別の誰かを待ってるような……。
 とにかく逢いたい。そんな思いは日々強くなり、もう気持ちをコントロールできない。そして事もあろうか会社に長期休暇を願い出て、あの公園のベンチで待つこととした。
 一目惚れした黒髪の女は二度と現れなかった。しかし、颯太はそんなことはもうどうでも良い。それよりも、きっと風に乗ってやって来る人、その誰かに逢いたい。

 季節は巡り、もう遠くの山々が白い。この公園にもやがて初雪が舞うことだろう。
 そんなある日、颯太は人から人へと伝染する新種の感冒の存在を知る。別名『人待ち風邪』という。
 症状は、ひたすら風に乗ってやって来る誰かを待つという病で、人にうつしてしまわないと治癒しない。
「アチャー、あの女に『人待ち風邪』をうつされてしまったか」
 それにしても風に乗ってやって来る人を待つ、それが実は風邪だっとは……、これは下手なオヤジギャグかと歯ぎしりするしかなかった。

 そして今日もベンチに座ってる。そんな時に、「お兄さん、ここで何してんの?」と、犬っころと散歩中のオバチャンが好奇心ギラギラさせて聞いてきた。
 颯太は、これでやっと仕事に復帰できるぞ、と内心ほくそ笑んだ。だが、ここは焦らず穏やかに、されど意味深に返すのだった。
「ずっと待ってるのですよ、風に乗ってやって来る人を。うーん、それは案外──オバチャンだったりして」


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このストーリーに関するコメント

13/09/15 泡沫恋歌

鮎風さん、拝読しました。

う〜ん・・・。
こういうのは待っていたくないし、うつされたくもない(笑)

面白く読ませて頂きました。

13/09/16 鮎風 遊

泡沫恋歌さん

ありがとうございます。

自分では、割にこの話し、気に入ってるんですよ。
画像と音楽が付けられるかな、と。

13/10/01 草愛やし美

鮎風さん、拝読しました。

えええ!! こんなの待ってるんですか。罹ったらえらいことですね。公園で話しかけられたら逃げることにしましょう。

13/10/15 鮎風 遊

草藍さん

えらいことです。
移されないよう気を付けましょう。

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