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ある男、最後のチャンスオーディション

13/09/13 コンテスト(テーマ):第四十回 時空モノガタリ文学賞【 アイドル 】 コメント:0件 音痴 閲覧数:1401

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 俺は今、オーディション会場にいる。
周りには赤やら白やらの衣を纏って、派手に着飾った男たちが大勢いる。
まだオーディションが始まっていないにも関わらず、連中は動き回って落ち着きがない。
緊張か……はたまた、もう既にオーディションが始まっているかもしれないという不安からか……。
 確かに、このオーディションの開始時刻は不明確だ。
その上、審査員がいつ何処から見ているのかも明らかにされていない。
連中が不安や緊張に駆られるのもよく分かる。

かくいう俺も焦っていた。

 砂利が敷き詰められたこの会場……ここでオーディションは毎日行われているのだが、俺はまだ合格したためしがない。

 だから焦っているのだ。
動き回っている連中のように俺はもう若くはない。
そろそろ……引退を考えなければならない年齢だ。
俺は、一度もこのオーディションで選ばれなかった連中を何度も見てきた。
そして、その悲惨な末路も……俺は知っている。
選ばれなかった連中は……所詮、格上の奴らの食い物にされるしかない。
俺はそんな最期を送る気はない。送りたくない。
それ故の俺の焦燥。

なぜ俺は選ばれないんだ?
どうしたら選ばれるんだ?

そんな埒が明きそうにない事を、延々と自分の尾を追いかける犬のように考えていた。
……そういや、最近あの犬が来ないな。

いや、ここの会場に短足胴長の茶色い犬を連れたおばさ……もとい、貴婦人がよく来るんだ。
その犬が……まあ、とんでもなく大きくてな。
こっちは毎回ビビらされるんだよ。
俺らに触ろうと前足を必死に上げてんだよ。おかげで肉球がよく見えるわ。
あと吠える声も五月蝿くて……正直参ってる。
俺は騒がしいのは嫌いなんだよ!
身体をつつかれたりするのなんて、もっと嫌だ!触んなッ!
……まあ、会場の厳重な警備のおかげで助かってるけど。

話を戻すけどよ、その倍以上にデカいのがそのおばさ……もとい、貴婦人なんだ。
ソイツもまぁーっ、五月蝿いこと!
自分の犬に「あの子が可愛い」「あっちの子も可愛い」だの話し掛けて……こちとら男なんだ!「カッコいい」とか言えないのかよっ!
しかも来るだけ来て、騒ぐだけ騒いで、誰も選ばずに帰っていくという冷やかしババ……もとい、貴婦……いや、ババアだッ!

…悪い、悪い。ちょっとクールダウンしようか。
なに、大丈夫さ。水なら会場に腐るほどある。
……いや、腐ったら困るんだけどな。


……ん、何か周りが騒がしいな……ッ?!


きた!きたっ!
いや、違う!冷やかし貴婦人じゃねェ!
見たことない少女と男だ!
楽しそうな様子でこちらに向かってくる……!

その光景を目の当たりにした同じ会場の連中が、一斉に舞い始めた。

真っ赤な衣に身を包んだアイツも。
白と赤が入り交じる美しい衣を纏うアイツも。

俺も出遅れるわけにはいかない。
これが最後のチャンスかもしれない。

目立とうとして前に出る。
ダメだ、他の連中も同じことを考えているのか……すぐ後ろに押し出されてしまう。

少女が会場に駆け寄ってきた。
おさげの黒髪が可愛らしい少女だ。

せめて見てもらいたい。
似たり寄ったりな俺らかも知れないが、審査員である少女には“俺”を見てほしかった。

少女の後を追うように男が会場に着く。
頭髪が寂しい中年だ。

俺は思い付いた。

このオーディションでは、審査をするのはこの少女のような幼子だが、最終的に合否を決めるのはこの中年男のような大人である確率が高い。

俺も、ここにいる連中も、それを心得ている。

だから俺は機を窺った。

そして、連中がその中年に媚びを売りに行ったのを、俺は見逃さなかった。


ー少女の前が、がら空きだ。

俺は少女の元に駆けた。
俺の持つ赤の衣が乱れんとばかりに躍り狂うさまを、少女に見せつけた。

少女と目があった。

しかし、その様子を見た他の連中が黙っているわけなく、俺はまた後ろに押し出されてしまった。

その後、俺が目立つ機会は与えられなかった……。


暫くして、男がこの会場の支配人を呼び出した。

来た。この瞬間。

俺たちは、男が話すその光景を固唾を飲んで見守る。

その間、少女が俺を見ているように感じた。

「この子をいただけますか?」
 男はそう言って俺を指差した。

……俺を……指した?

っ!選ばれた!遂に!やっと選ばれた!
ようやくだ!ようやくオーディションに受かった!

俺の身体が網に包まれ、なんか狭苦しい透明の袋に入れられる。
俺の身体より何倍も大きなその少女が、満足げな表情で袋の中の俺を覗いてくる。

オーディション会場支配人がこう言った。

「金魚1匹、300円です!」


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