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光石七さん

光石七(みついしなな)です。 子供の頃から空想(妄想?)が好きでした。 2013年から文章化を始めました。 自分では気付かないことも多いので、ダメ出しを頂けるとありがたいです。

性別 女性
将来の夢 可愛いおばあちゃん
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偶像の救い

13/09/13 コンテスト(テーマ):第四十回 時空モノガタリ文学賞【 アイドル 】 コメント:0件 光石七 閲覧数:1435

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 僕がシイナの存在を知ったのは中2の終わりだった。2学期の途中から不登校になった僕は部屋に引きこもり、オンラインゲームや漫画で日々を消化していた。その日、たまたま見た投稿動画が、ある地下ライブの様子だった。客は20人弱、出演者は4組の地下アイドル。その中で、唯一ソロで舞台に立ったのがシイナだった。ソロのくせに、歌もダンスもいまいち。だけど、一生懸命さがすごく伝わってきた。蔑みや中傷、説教、うわべだけの優しさにうんざりしていた僕には、彼女の笑顔が妙に眩しくて――。僕は知らず涙を流していた。生きてても何もいいことなんかない、そう思っていた僕。人間なんて誰も信用できない、この世なんてクソくらえだ、そう思っていたのに。シイナは僕の心に一筋の光を与えた。
 僕はシイナのことをネットで調べた。本名和泉椎奈、1994年9月10日生まれ。S県出身、家族は両親と兄一人。身長158cm、体重43kg、B80、W58、H82。趣味は音楽鑑賞、特技はピアノ。アイドルユニット“Petit Chat”に憧れて離島から単身上京。
 僕はシイナの動画を探しては繰り返し見た。シイナのツイッターものぞいてみた。――シイナに会ってみたい。そう思うようになるまで時間はかからなかった。
 引きこもりの僕が外に出たいと言うのだから、母は驚きつつも喜んだ。一歩前進だと思ったのだろう。門限を守ることと帰る前に連絡を入れることを条件に、ライブイベントに行くことを許してくれた。初めての生ライブ体験。小さな会場で客も多くはないのに、意外と熱気があって驚いた。何組か知らないアイドルが出てきたけれど、僕はやっぱりシイナが一番だと思った。僕は門限のことなんか忘れてしまい、最後まで残ってシイナと握手した。シイナの手は柔らかくて温かかった。僕が「応援してます」と言うと、シイナはにっこり笑って「ありがとう」と答えてくれた。帰ってから親に怒られたけど、僕は幸せな気分だった。
 僕はシイナの活動予定を細かくチェックするようになり、彼女のツイッターもフォローするようになった。彼女の呟きはそう頻繁には更新されないけれど、変に気取ったりかわい子ぶったりしないのがいい。フォローには結構リプライしてくれる。もっとも、フォロワーは5人だけだけど。飾らない純朴さがシイナの魅力だ。
 もう一度ライブに行きたいと訴える僕に、親は「普通の中学生に戻って高校に進むと約束するなら許す」と言った。結局世間体が大事な人たちなんだ。一応養ってもらってる身だし、中坊では金を稼げないから、僕は両親に従った。シイナに会えるなら多少のことは我慢できる。久しぶりに登校してみると、思ったよりもひどい扱いは受けなかった。高校受験が現実味を帯びてきて、みんな僕のことにかまってる余裕がなかったのかもしれない。意外にすんなりと中学卒業を迎えた。ライブには3度行かせてもらい、シイナとのツーショット写真やサインを手に入れた。
 高校生になった僕はバイトを始めた。もちろんシイナのライブのための資金だ。グッズも欲しい。イベント情報やツイッターのチェックは欠かさず、折を見てはライブに出かけた。
 相変わらずの地下活動が続いていたが、ある人気芸人がバラエティ番組でシイナのことを話したことで、彼女はテレビに出るようになった。かわいらしい容姿と素朴な天然キャラがウケて、見事にブレイク。ツイッターのフォロワーは一気に増えた。もうリプライする余裕はなくなったらしく、僕は少し寂しかったけど、シイナが人気者になったことを喜んだ。
 歌もダンスも上達し、もう間近でライブを見たり、握手や写真撮影をしたりするのは難しくなったけれど、シイナの中身は出会った頃と変わっていないように見えた。素直で、気取りがなくて、すぐ隣の女の子みたいな感覚。僕も変わらない気持ちでシイナを応援した。スケジュールも呟きもまめにチェックし、懸命にチケットを入手してライブに行く。僕はただのミーハーなファンとは違う。シイナと出会って本当に救われたんだ。シイナがいるから僕も生きていける。シイナは僕の人生に希望と喜びを与えてくれた女神だ。でも、決して高いところから僕を見下ろしたりしない。僕はすべてをかけてシイナを応援する。

 ところが、シイナの時代は突然終わりを告げた。傷害罪と覚せい剤使用で逮捕されたのだ。日常的に後輩に暴力を振るい、覚せい剤には地下アイドル時代から手を出していたらしい。純朴な少女はあくまでキャラだったとワイドショーは断言していた。
 ――僕に光を与えてくれたシイナは何だったのだろう? 偽物? 幻? 僕は生活の中心も生きる意味も見失ってしまった。


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