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鮎風 遊さん

この世で最も面白い物語を見つけ出したい。 そのために、ひとり脳内で化学反応を起こし、投稿させてもらってます。 テーマに沿った個別物語の他に、いくつかのシリーズものをコツコツと書き続けさせてもらってます。 その主なシリーズものを紹介させてもらいます。  ☆❤☆❤☆ 新シリーズ 『ツイスミ不動産』 __ 2017.07.16よりスタートさせてもらいました。 カサリンとクワガタ野郎があなたが求める終の棲家を紹介いたします。  ☆❤☆❤☆ 『刑事 : 百目鬼 学(どうめき がく)』 __ 2017.05.21 ただ今、27話 __ 1話完結の2000文字推理小説です。この少ない文字数の中で、百目鬼刑事と部下の芹凛(せりりん)がいかに事件を解決していくか、その醍醐味を味わって頂ければ、光栄です。 これからも引き続き難しい事件に挑戦して参りますので、よろしくお願いします。  ☆❤☆❤☆ 『漢字一文字の旅』 __2017.04.04 ただ今、連載41__ 漢字にまつわるエッセイです。  ☆❤☆❤☆  『歴詩』 __歴史上の人物になりかわって、その波瀾万丈の生き様の思いを詩に綴らせてもらってます。 本作品については、フォト音(on)小説という形で、you tubeにもUPさせてもらってます。 詳細はこちらHPです。  ☆❤☆❤☆  http://ayukazeyuu.net/index.html  ☆❤☆❤☆                         よろしくお願いします。              

性別 男性
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この縁へと繋がるため

13/09/10 コンテスト(テーマ):第三十九回 時空モノガタリ文学賞【 待つ人 】 コメント:5件 鮎風 遊 閲覧数:2482

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 光司は雨戸を開ける。夜来の雨はあがり、淡々な光が一瞬に薄暗い部屋に差し込む。その目映さに逆らい庭へと目をやると、木々が色づいてきているようだ。しかし、光司はそんな季節の移ろいに特段のときめきを抱くこともなく、キッチンへと向かう。トーストをカリカリに焼き、ハムとレタスを挟む。あとは無造作にマグカップにコーヒーを注ぐ。あ〜あ、一つため息を吐いた。そして、仕方ないかと呟く。

 半年前、光司の妻、愛華は家を出て行った。そして一ヶ月前に離婚が成立した。実のところ、仲睦まじく愛華と暮らすつもりだった。それにもかかわらず、こんな人生の終盤が待っていたとは……。
 あの夜、スポーツ特番を観ていた。そんな時愛華が涙ながらに訴えてきた。私、やっぱり……大輝さんともう一度やり直したいの、と。
 なぜ、還暦も超えた歳になって、離婚という最悪なことになってしまったのだろうか? しかも略奪者は現役時代の同僚の大輝だという。
 光司は今もってその原因がわからない。だが、あの出来事で──妻には、殺意があったのでは? と疑い始めてから、それは当然の成り行きかのように離婚へと突き進んでしまった。
 妻に裏切られたことは辛い。だが長年連れ添ってくれた女への感謝もあり、そこまで別れることに拘るなら、夫婦の呪縛から解き放ってやろうと愛華の要望を受け入れた。

 なぜ、こんな腹立たしい人生の結末に? そのプロローグは一年前の登山だった。
 すでに一線から退いた光司と愛華、そして大輝と優子、この二組の熟年夫婦は山頂を目指した。頂上までの道のりは厳しいものだった。それでもご来光は神々しく、心が洗われた。
 だが下山途中、台風の接近か山が荒れた。冷たい雨が疲れた身体に容赦なく襲いかかってきた。視界は失われ、深い沢に迷い込んでしまった。その挙げ句、優子が足を滑らせ捻挫し、前へと進めない。四人は岩陰に身を潜め、救助を待つこととした。
「私が足を傷め、遭難してしまったのね。ゴメンなさい」
 優子の冷えた頬に落涙の線が二つ。
「優子さんのせいじゃないですよ。ここで待ってれば、きっと救助隊が発見してくれます」
 光司は自分自身を鼓舞するためにも言葉に力を込めた。しかし、友人の大輝は「ここで待っていても死はあるし、待たずに下山しても危ない。まさに生死はフィフティフィフティだよ」と恐怖心を煽る。これに愛華が血の気が引いた顔を上げる。
「それじゃ、待つ、待たないのリスク分散をしない?」
 光司には妻が何を言おうとしているのか理解できない。それでも愛華は微かな笑みを浮かべ、「あなたと優子さんはここで待って、私と大輝さんは──今から下山するから」と。
 光司は驚いた。されど確かに、愛華が言う通りかも知れない。今の運命は生と死が半々。つまり、この暗い岩陰でただ待っていても、全員の死はあり得ることだ。
「夫婦内でも、どちらかが生き残る、そのチャンスを増やすってことか。そうしよう」
 横の大輝が言い切った。これは一つの賭け、されど光司と愛華の今生の別れになるかも知れない。そして大輝の夫婦も同じこと。だが大輝の同意に煽られたのか、光司も優子も頷いてしまった。

 湿った岩陰に身を寄せ合う光司と優子、体温はどんどんと下がって行く。優子は他人の妻、されどもサバイバル、光司はずっとずっと抱き締めた。そして冷えた夜がやっと明けた。しかし、待てども救助隊はやって来ない。
 時は流れ、また闇が襲いかかってきた。この意味は、愛華と大輝が未だ下山できていない、どかで……となる。光司と優子は連れ合いの不幸を嘆き、そして自分たちの死の予感におびえた。
 それでももう一つの夜は明けた。これはまことに幸運、待ちに待った救助隊、いや神が遂に立ち現れたのだ。
 されども光司は救いの神から信じられないことを告げられる。
「遭難場所の報告は北側だったのですが……、実際は南だったのですね」
 光司と優子は耳を疑った。愛華と大輝は南側だと絶対に知っていたはず。もちろん後日、光司は二人を問い詰めた。だが単純な記憶ミスとしか返ってこなかった。
 光司は疑った。二人には何か冷徹な意志が働き、嘘をついたのではと。
 それからのことだ。光司は妻が信じられなくなった。そして離婚が切り出された時、こういう宿命だったのかと諦め、届けに判をついた。

 あ〜あ、最近このため息から一日が始まる。そして今朝も同じ、仕方ないかと続く。こんな忸怩たる昼前に、チャイムが鳴る。光司がおもむろに玄関を開けると……焦燥し切った優子が立っていた。そして言う。
「ここの岩陰で、しばらく、──今度は愛の神さまを待たせてください」
 光司は、とどのつまりが、今までのすべての出来事が、この縁へと繋がるためだったのかと年甲斐もなくはにかむ。そして、そっと手を差し伸べるのだった。


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このストーリーに関するコメント

13/09/10 草愛やし美

鮎風遊さん、拝読しました。

奥さんと同僚の方に、謀られたのですね。あ〜という溜息よくわかります。二人はデキテいた、でも、酷いですよね。もしかしたら、死んでいたかもしれませんもの。
待って生き抜いた光司と優子さん、ぜひ幸せになって欲しいものです。裏切り者の大輝と愛華の二人は、またきっと誰かに裏切られますよ。私はそう思わずにはいられません。

13/09/15 泡沫恋歌

鮎風さん、拝読しました。

これはなかなか良く出来たストーリーですね。

山岳物は新田次郎の小説みたい。
しかし意外な展開とオチに唸りましたよ。
最後も希望のある終わり形で読後感が良かったです。

13/09/16 鮎風 遊

草藍さん

そう、デキテいたのです。
それでも新たな縁に結ばれていく。
デキテいたのも序曲だったのです。

13/09/16 鮎風 遊

泡沫恋歌さん

2000文字でなんとか収まりました。
やっぱりオチのつけ方が苦労ですね。

13/10/15 鮎風 遊

みな様へ

この物語に、画像と音楽を付けました。
こちらのURLをコピーしていただき、http覧に貼り付け、エンターを押して、
閲覧いただければ嬉しいです。


http://www.youtube.com/watch?v=oAr8lujRSKk

よろしく。

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