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ぽんずさん

ぽんずです。変な名前ですが、一応役者です。 ブログ http://ameblo.jp/kacha0714/ Twitter https://twitter.com/#!/ponzu0024

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小さな忘れ物

12/05/08 コンテスト(テーマ):第四回 時空モノガタリ文学賞【 傘 】 コメント:1件 ぽんず 閲覧数:2421

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「うちはこれで全部だよ」
駅事務員がそう言うと、作業服を着た若い男は改札口に置かれた大小様々な段ボール箱を駅前に止めてある軽トラックに手際よく積み込んだ。そして、すべての荷物を積み終えた男は、事務員に買い取り伝票を渡した。
「ありがとうございました」
男はそう言って、軽トラックに乗り込み、駅を後にした。
作業服を着た男の名は鏑木信也。鏑木リサイクルという会社の社員である。この日、信也はD県内の百貨店で毎年5月に開催される『鉄道忘れ物展』の商品の仕入れのために朝から県内の主要駅を回っていた。

昼過ぎ、会社に戻った信也を迎えたのは鏑木リサイクルの社長で信也の父、信幸だった。会社と言っても、一階が倉庫、二階が事務所の小さなプレハブ小屋で、殺風景な所である。
「おう、早かったな」
信幸は低い声でそう言うと、軽トラックに積んである荷物を降ろし始めた。信也もそれに続いて荷物を倉庫に運んだ。そして二人は仕入れた商品のチェックを始めた。駅の忘れ物の種類は様々である。マフラーや手袋などの衣類、デジカメ、腕時計、さらにはマネキンの首や野球のメットなど、なぜこんな物がと思わず疑いたくなるようなものまである。中でも断トツに多いのが傘。安価なビニール傘がほとんどだが、ブランド物の傘や日傘なども結構ある。そしてその傘が、鉄道忘れ物展で一番の売れ筋商品である。
信也は傘の仕分けを任された。まずはブランド傘とビニール傘に分けて、それぞれに破損がないかチェックする。壊れたブランド傘は修理に回す。修理は親父の担当だ。ビニール傘は破損が無ければ、十本ずつまとめて縛る。まとめ売りのほうが売れるからである。破損したビニール傘は分解し、各パーツは他の傘の修理に使われる。順調に仕分け作業をしていた信也は、ある物を見つけ、ふと手が止まった。
黄色い小さな傘。手元の玉留にネームプレートが付いており、そこに名前と小学校の名前が書いてあった。その学校は信也がかつて通っていた学校だった。信也はそっと傘を開いた。プーさんの絵が描かれた耳付きのかわいらしい傘なのだが、親骨と受け骨をつなぐダボと呼ばれる結合部分が破損していた。きっと、お気に入りの傘だったに違いない。信也はぼんやりと小さな傘を見つめていた。
「おう、どうした?ボーっとして」
いつの間にか背後に立っていた親父が声をかけてきた。
「いや、何でもない」
信也は急に恥ずかしくなり、傘を閉じようとした。が、親父に取り上げられてしまった。
親父はその小さな傘をまじまじと見て、ニヤッと笑って言った。
「おう、信也。お前直してみろ」
「え?」
「いいから直してみろ。初仕事だ」
親父はそう言うと、信也に傘を渡し、工具箱を信也の前に置いた。
「ほれ、やってみろ」
「…わかった」
親父に見られながら修理をするのは緊張したが、信也には自信があった。小さい頃から親父の仕事を見ていたからだ。
傘を開いた信也は、中棒の真ん中にクリップをはさみ、傘を半開きの状態で保てるようにした。そして、壊れたダボを親骨が折れないように丁寧に外していく。ダボは小さく、根気と集中力がいる。信也の額には汗が滲んできた。何とかダボを外し終えた信也は、汗をぬぐい、そこに受け口のついた間接爪を新しく取り付ける。ダボが他の骨の位置とずれないように丁寧にペンチで固定していく。次に信也は、受け骨の先についたままになっているハトメと呼ばれるダボと受け骨をつなぐ工具を外した。これまた小さく、外すのに結構な力がいる。そして、ハトメを外した受け骨の先を受け口に合わせ、先ほど外したハトメを受け口に差し込み、ペンチで強く、ぎゅっとかしめた。
修理を終えた信也は、中棒のクリップを外し、ゆっくりと傘を開いた。この瞬間が一番緊張した。信也が修理を施した部分はしっかりと固定されていて、傘を開いても折れる事は無かった。最初はくしゃくしゃだったプーさんの顔もピンと張られ、元のにっこりとした顔になっている。
フーっと大きく息を吐き出しながら、信也は傘を閉じた。そして、傘を親父に渡す。
「どう?ちゃんと出来てるかな」
親父は受け取った傘を開き、修理部分を見て、すぐに傘を閉じた。
「まぁまぁだな」
「何だよそれ。その傘、いくらになるかな?」
「ふん、お前が修理した傘なんか売り物にならんわ」
親父はそう言うと、閉じた傘を信也に差し出した。
「もってけ。初仕事の記念だ」
「え?でも…」
「いいからもってけ」

 その日の仕事を終えた信也は車に乗り込み、エンジンをかけた。家に帰るには会社を出て左に曲がるのだが、今日は右に曲がった。
「たまには寄り道して帰るか」
信也は独り言を言って、車を走らせた。助手席に黄色い小さな傘を乗せて。


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このストーリーに関するコメント

12/05/12 かめかめ

すごくおもしろいのに、専門用語がわからない…
傘の各部の名称がわからない…わかったら、もっとおもしろいだろうに

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