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AIR田さん

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ジボンボとかれん

13/09/09 コンテスト(テーマ):第四十回 時空モノガタリ文学賞【 アイドル 】 コメント:9件 AIR田 閲覧数:2465

時空モノガタリからの選評

最終選考

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 思い出はデストロイ♪リアルジェノサイド♪夢見がちなまま埋葬されたい♪
 猫でも分かる。この歌は絶対に売れない。そんな歌を作詞作曲し、毎日アイドルを夢見ている一人の女性がいる。派遣社員として半年ごとに職場を転々し、稼いだお金は生活費以外全てアイドル活動に充てている。
 その女性の名前は細井かれん。現在の年齢は34歳。そう、何を隠そう私のご主人である。
「完璧な曲!」
 ご主人は半年間もの時間を費やして、「思い出デストロイはぁと」という曲を完成させた。
 私は皿に盛られた猫缶(88円)をカッカッと食べるのに夢中で、残念ながらご主人の喜びを一緒に分かち合うことは出来ない。しかし、喜びを分かち合う気など全くないので、私はカッカッと皿に盛られた猫缶を食べる。慣れてしまえば、自身が置かれている環境が最も幸せなのだと、そう思うことも出来る。
「ジボンボ!聴いて聴いて!」
 ジボンボ。ご主人は何故私にそのような名前を付けたか定かではないが、気が付けば私はジボンボであった。
「いくよ」
 食後の嗜み顔洗いをしてるというのに、ご主人は私を膝の上に載せ、先程完成した曲を流しはじめた。
 思い出はデストロイ♪リアルジェノサイド♪夢見がちなまま埋葬されたい♪
「最高の曲だよね」
「にゃあ(いいえ。あなたの曲は最高ではありません)」
「やっぱり?最高だってジボンボも思うよね」
 共通の言語が無ければ意思の疎通は難しのである。ならば身振り手振りでと思うのだが、ご主人は私の表情や行動から語られる真実に、残念ながら気づかない。

 ご主人が仕事で家にいないので、その隙に私はノートパソコンを開く。前足を駆使してノートパソコンを開き、ブラウザを立ち上げ検索ワードを打ち込み、ワイヤレスのマウスを右クリックしてネットサーフィンする位朝飯前なのである。しかし、このワイヤレスのマウスというのが厄介者で、見ているだけで私の本能を掻き立てる何かがある。思わず前足でちょいちょいと触って動かしてみたりすると、そのままワイヤレスマウスとの格闘が始まり、数十分程記憶がなかったりすることもしばしば。
 ふぅ。
 
 私はノートパソコン内に保存されている、一つの文章ファイルを見つけた。そこにはご主人自らが記した半生が書かれていた。
『わたしは、これまでも、これからも、何一つ目立たずに、ひっそりと生きて、そして死んでいく』
 普段のご主人からは想像も出来ない、とても陰鬱な文章であり、そこには苦悩が書かれていた。
『小中学生と、私は自らの容姿のことでいじめられ、好きな人にもブスと罵られた。好きでこの顔に生まれたんじゃない。どうして、何もかも顔で決めつけるの?』
 その反動でかと、私は思った。
『高校、大学、就職した会社では、ただただ目立たぬように生きてきた。これがこの先ずっと続くのなら、私は』
 いいじゃないか。平凡に暮らし、私がいる。それでは駄目なのか?私はにゃあと鳴いた。
『ようやく見つけた。私が目立てる場所。私が輝ける場所。笑われたって構わない』
 確かに、ご主人は有名ではないけれど、34歳のアイドルとして一部では名前を知られていたが、猫である私でも目を塞ぎたくなるような言葉で評されていた。
『アイドルになる。アイドルになって、見返してやりたい』
 
 気が付けば陽は沈んでいて、そろそろご主人が帰宅する時間であった。私は文章ファイルを閉じ、シャットダウンし、前足でパソコンを閉じた。
 それから数時間して、ご主人は日を跨ぎ帰宅した。
「ジボンボォ」
 ご主人は泣いていた。目から涙が滝のように溢れ、化粧は崩れ、確かに酷い容姿ではあったが、私にとっては愛しいご主人で、
「にゃあ(どうか泣かないでください)」
 その人が悲しんでいるのは見たくない。
「私……誰にも認められない。ブスがアイドルとか言うんじゃないって……悔しいよう」
 きっと、心ない人に心ない言葉をかけられたのだろう。
「にゃあ(泣かないでください。私がいますから)」
「あぁ……あぁ」
 私の言葉が届くわけもない。ご主人は、ただただ泣き続けた。
 あなたが多くの人に認められなくたっていいじゃありませんか。こうして狭いアパートで細々と日々を送ることが、一体どんなに幸せなことか、私はそう思います。あなたがたまに作る個性的な曲と踊り。私はそれを見るのが嫌いではりません。だから、泣くのをやめて一緒に生きましょう。私にとって、あなたは最高のアイドルです。
 ご主人は泣き疲れたのか、ごうごうと鼾を立てながら寝てしまった。
「にゃあ」
 私はご主人の頬を舐め、顔の前で丸くなり、言葉が通じないことに苛立ちを感じ、そっと涙を流した。 
  
 
 


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このストーリーに関するコメント

13/09/10 クナリ

自分は冷たい人間なので、個人的には、「人間の愛情や意思が、動物に理解されるはずがない」と思っています。
ですから人間が、適当なリアクションをする動物に、「だよねーうれしいよねー♪」とはしゃぐのには疑問を感じるのですが、そういった部分でリアリティとキャラクタ性が魅力的に感じられました。
感情の上下が激しくも素直な主人公にも、利口なようで本能に勝てない猫さんにも、愛着がわきます。
しゃべれはしないけど自分を見てくれている、誰かの物語。
いいですね。

13/09/11 AIR田

クナリさん>ありがとうございます。
クナリさんが仰るように、動物のリアクションを勝手に代弁するのは僕も違和感を感じています。
結局人は人。猫は猫。言葉が通じず意思の疎通が出来ない。それでも一緒に生きていく。
お互いの存在がアイドルなんです。

13/09/13 光石七

拝読しました。
考えてみれば、たいていの人は誰かのアイドルだったわけですね。
赤ちゃんの頃とか。
たくさんの人に認めてもらえなくても、自分を絶対的に愛しく思ってくれる誰かがいればそれで十分。
ジボンボの気持ちが温かく切なくしみました。

13/09/14 AIR田

光石七さん>ありがとうございます。
たった一人の人間に必要とされること。実は凄い素晴らしいことなのですが、それに気付かず自分を見失うってしまう。ジボンボはそのことをご主人に訴えかけたかったのですが……「言葉の壁」というのはとても大きいです。

13/09/20 青海野 灰

冒頭の歌詞に吹き出してしまいました。
ネコ視点によるお話は色々ありますが、知的で冷静で紳士的で優しいのにマウスで我を忘れるほどじゃれてしまったりするジボンボはかなりいいキャラをしています。
ご主人にとっては苦しい人生でも、言葉が通じなくてもご主人を想い続けるジボンボの存在に、とても温かな救いを感じる物語でした。
おもしろかったです。

13/09/20 AIR田

青海野灰さん>ありがとうございます。
言葉が通じても、自分の思いを伝えることは難しいのですから、ジボンボが感じる壁はきっと切なくて悲しいものだと思います。
自分のことを大切思ってくれる人が、実は凄い身近にいる。このことにかれんが気付いてくれることを祈るばかりです。

13/09/24 murakami

はじめまして。

ジボンボが、マウスとじゃれるところがかわいかったです。
人から動物だけではなく、動物から人への愛情が描かれているところがよかったです。

13/09/25 AIR田

村上あつこさん>はじめまして。
ありがとうございます!褒められてジボンボも喜んでいます。

13/09/30 AIR田

凪沙薫さん〉ありがとうございます!
ご主人は既にアイドルだったのです。ジボンボにとって、最高のアイドルだったのです。
変な感性を持っていますが笑

自分の現状を潔く知る大切さと、それが本当は凄い幸せであると、この二つを表現しました。

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