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鮎風 遊さん

この世で最も面白い物語を見つけ出したい。 そのために、ひとり脳内で化学反応を起こし、投稿させてもらってます。 テーマに沿った個別物語の他に、いくつかのシリーズものをコツコツと書き続けさせてもらってます。 その主なシリーズものを紹介させてもらいます。  ☆❤☆❤☆ 新シリーズ 『ツイスミ不動産』 __ 2017.07.16よりスタートさせてもらいました。 カサリンとクワガタ野郎があなたが求める終の棲家を紹介いたします。  ☆❤☆❤☆ 『刑事 : 百目鬼 学(どうめき がく)』 __ 2017.05.21 ただ今、27話 __ 1話完結の2000文字推理小説です。この少ない文字数の中で、百目鬼刑事と部下の芹凛(せりりん)がいかに事件を解決していくか、その醍醐味を味わって頂ければ、光栄です。 これからも引き続き難しい事件に挑戦して参りますので、よろしくお願いします。  ☆❤☆❤☆ 『漢字一文字の旅』 __2017.04.04 ただ今、連載41__ 漢字にまつわるエッセイです。  ☆❤☆❤☆  『歴詩』 __歴史上の人物になりかわって、その波瀾万丈の生き様の思いを詩に綴らせてもらってます。 本作品については、フォト音(on)小説という形で、you tubeにもUPさせてもらってます。 詳細はこちらHPです。  ☆❤☆❤☆  http://ayukazeyuu.net/index.html  ☆❤☆❤☆                         よろしくお願いします。              

性別 男性
将来の夢 この世で最も面白い物語を見つけ出したい。
座右の銘 Do what you enjoy, enjoy what you do.

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あなた待ち島 (前編)

13/09/05 コンテスト(テーマ):第十六回 【 自由投稿スペース 】 コメント:3件 鮎風 遊 閲覧数:1622

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 晩秋の比良の山並みは、すっかり紅葉で色付いている。観光船はそれを遠くに望み、琵琶湖の北へと白波を蹴って航行して行く。
 湖上に吹く風は肌寒い。あと一ヶ月もすれば、多分初雪が降ることだろう。

 凛太郎は、京都に勤めるサラ−リ−マン。今観光船のデッキに立って、湖上遥か遠くを眺める。目の前にはさざ波打つ茫々とした湖が広がっている。
 凛太郎は冷えた空気を大きく吸い込んだ。そして、「ふ−」と重く吐き出した。 
 横には由奈が寄り添っている。凛太郎は冷えた由奈の手をそっと握る。由奈はそれにしっかりと握り返してきた。
 二人の愛は多分確かなものなのかも知れない。そんな二人は、これから観光船で向かう先の方を何も言わずに眺めている。

 琵琶湖は約四百万年前にこの世に生まれた。世界でも三番目に古い古代湖とも言われている。そしてそこには、その時からずっと存在し続けてきた島がある。
 それは……竹生島(ちくぶしま)。
 周囲二キロメートルの小さな島、琵琶湖の奥にひっそりと神秘に浮かぶ。
 今はもう秋も終わろうとしている時季。しかしそれにも関わらず、島は深緑。その緑の沈影を、静まりかえった奥琵琶湖の湖面に映し出させている美しい島なのだ。
 凛太郎と由奈を乗せた観光船は、そんな島に向かってあと15分もすれば到着することだろう。
 凛太郎は日々仕事に追われている。時間に余裕などはない。
 しかし、凛太郎は今日貴重な休日一日を充て込み、由奈をピックアップし、京都から今津までドライブして来た。そして、二人は観光船に乗船し、この竹生島を訪ねようとしている。

 二人にはその理由があった。
 凛太郎は蒼白き学生時代を京都で過ごした。その時に、噂で聞いたことがある。
 源義経と靜御前(しずかごぜん)。その純愛の旅路の果てに、竹生島で再会したと。
 京都は一千年の古都。その噂は、義経が生きていた頃からおよそ八五〇年の時を超えて現代に伝えられてきたものなのだ。
 源義経と靜御前は、日本歴史上の悲劇のヒ−ロ−とヒロイン。そんな二人を最後に結びつけた所、それが琵琶湖の最北にひっそりと浮かぶ竹生島だと言う。
 そして人たちは、そんな島を……『あなた待ち島』とも呼んできたのだ。

 凛太郎と由奈。二人は学生時代に恋に落ちた。
 しかし、凛太郎は地方から出て来た貧乏学生。一方由奈は京都老舗料亭の一人娘だった。当然由奈には、料亭を継いで行く義務と責任があった。
 これは実らぬ恋。凛太郎はそんなこと初めからわかっていた。しかし、二人は愛し合った。そして悲しい別れが……。
「由奈、しばらく離れてみようか?」
 凛太郎はついに別れの言葉を切り出した。由奈からは言葉がない。いつかきっとこうなると由奈もわかっていた。ただずっと止まらぬ涙を流している。そして、ぽつりと言う。
「私、ずっと凛太郎さんを待つわ。だからお願いがあるの」
「なにを?」
 凛太郎は声を柔らかくして聞き返した。
「次に、いつか逢えた時に……、あなた待ち島に連れて行って欲しいの」
 由奈も、義経と静御前の噂がどういう物語なのかを知っていた。二人はその悲しい旅路の果てに、あなた待ち島で再会し、そして生き直したと。
「由奈、わかったよ。きっとそうしよう」
 凛太郎はそう短く答え、由奈を強く抱き寄せた。そして約束をする。
「あなた待ち島で、その時、まだお互いに好きならば……、もう一度やり直そう」 
 由奈は凛太郎の胸の中で、ただ「うん」と頷いた。
 こうして凛太郎と由奈は、別々の道を歩んで行くことになってしまったのだった。

 凛太郎と由奈、やはり実らぬ恋だった。しかし、「次に、いつか逢えた時、あなた待ち島に連れて行って欲しいの」と由奈が言った。そして凛太郎は、「その時、まだお互いに好きならば、もう一度やり直そう」と約束をした。
 時の流れは早い。あれから七年の歳月があっと言う間に流れた。
 凛太郎は別れた後も由奈のことが忘れられない。その心の傷を払拭するために、新しい恋もしてみた。しかし、うまく行かなかった。 
 とにかくもう済んでしまったこと。由奈のことは忘れなければならない。そのために仕事に没頭し続けてきた。そのお陰か、仕事上では成果もあり、男として、この複雑な現代社会を生き抜いて行く自信もでき、その迫力も備わった。
 そんな仕事だけに埋没する日々の中で、凛太郎はまるで赤い糸に手繰り寄せられるように、由奈にばったりと街角で出逢ってしまったのだ。
「凛太郎さん、最後の約束、憶えてる? だから……あなた待ち島に連れて行って」
 由奈は忘れていなかった。
「そうだね、行ってみようか」
 凛太郎は由奈との約束を果たすべく、今朝、京都から一緒に出掛けてきた。そして今、二人は竹生島、別名『あなた待ち島』に向かう観光船に乗船している。
 寄せ来る波を越え、白波を掻き上げて、船はどんどんと進んで行く。それはまるで八五〇年前の過去に逆戻りするかのように。
 凛太郎と由奈は観光船に乗って、湖の北に浮かぶ神秘な島、竹生島に向かっている。そして二人は、はるか昔の儚くも悲しい純愛物語、義経と静御前に思いを馳せるのだった。

 時は、一一五九年の一月。義経は源義朝(よしとも)の九男として生まれる。
 母は、義朝の妾の常磐御前(ときわごぜん)。九条院雑仕で、都の千人の女性から一人選ばれた聡明で絶世の美人。
 そして、世は乱世。その年の十二月、父・義朝は平治の乱で挙兵する。その時に、三男の兄・頼朝は初陣を果たす。
 しかし不幸にも、翌年の一月、父・義朝三八歳は敗死してしまう。そして、兄・頼朝は関ヶ原の雪深い山中で捕まる。その後、十三歳の時に流罪の刑を受け、伊豆国蛭ヶ小島に流される。
 この敗戦で、義朝の妾、二三歳の常磐御前は今若/乙若/牛若(義経)の幼子を連れて山野を彷徨う。
 しかし、母・常磐は強かった。三人の子供を守るために身も心も捨ててしまう。
 夫を殺した仇敵の平清盛に、自ら妾になることを申し出る。そして、その地位におさまるのだった。
 義経は、その後母・常磐と四歳まで過ごすが、鞍馬に移される。義経(牛若)は、鞍馬で一所懸命文武両道の修行に励む。

 時はさらに流れ、一一七四年五月。
 源氏の血を引く十六歳の義経(遮那王)は、これ以上都にいることに危険を感じ始めた。そのために京都鞍馬を下り、六波羅の追っ手をかわして平泉へと向かうこととする。
 そのルートは三つあった。
 琵琶湖の東ルートか西ルート。それとも人目を避けるために、湖上を船で進むかだった。
 義経はこの湖上ルートが一番安全と考え、それを選択した。そして、その途中に立ち寄った所が奥琵琶湖の竹生島。 
 義経は、その神秘なる島で、しばらく身を潜めることになるのだった。

 義経は竹生島で滞在した後、平泉へと旅立った。そして平泉へと入り、藤原 秀衡(ふじわらのひでひら)の庇護を受けて修行の日々を過ごす。
 それからまた六年の歳月が流れた。そして、その時がやってきた。異母兄の頼朝が、一一八〇年八月十七日に源氏復活のために挙兵した。
 義経は、血を分けた十二歳年上の兄・頼朝を慕っていた。それを知って一時も早く馳せ参じたい。
 そして、その願いはやっと叶う。
 十月二一日、義経二二歳は駿河の国・黄瀬川(きせがわ)で、頼朝三四歳と対面を果たすのだった。
 義経は常盤御前の息子。母親譲りのオ−ラが満ちていて、精魂逞しい若武者。
 鞍馬と平泉で文武両道を磨き上げてきた。その上に、平泉では馬術もマスターしている。そのせいか、まったくひ弱ではない。
 兄と一緒に、源氏の血の復活と繁栄を願って、天下に打って出ようという強い野心を持っていた。二二歳の使命感に燃え、平泉から馳せ参じて来たのだ。そのためか、その勢いは並々のものではなかった。

 頼朝は、自分の腹違いの弟とは言え、正直凄いやつが現れたと思った。
 頼朝は伊豆国蛭ヶ小島に流されて、約二〇年間、その青春と青年時代を幽閉されたまま生きてきた。そのためなのだろうか、その心には歪みがあったのだ。頼朝は何事にも疑い深く、管理思考が強い。
 野山で心身とも鍛え上げられ、自由な発想で生きてきた義経。今にも組織の枠からはみ出し、組織を乱し、そして壊してしまいそうだ。 
 頼朝は果たしてこんな勢いの良い義経をコントロ−ルできるだろうか、そんなことを危惧するようにもなった。そして、頼朝自身の野望のためには、邪魔になるのではと考え始めた。
 また妻の政子は、女の直感で、義経が自分たちの将来に危険な男になると寝物語で語り始めた。そして、都の匂いのする義経に、嫉妬をも滲ませながら「外せ」とまで助言するようにもなった。
 こうして兄と弟のすべての不幸が、この黄瀬川の出逢いから始まったのだった。

 頼朝と義経が黄瀬川で対面してから三年の歳月が流れた。
 兄・頼朝はなかなか義経を戦に使わない。完全に外している。
 しかし、義経は何回も戦への出陣を願い出た。そして、一一八三年にやっと許されたのだ。
 それは都へと上洛し、我が物顔で悪行を振るっている木曾義仲を討つこと。頼朝はわざわざそんな大役を、つまり強敵を征伐すること、それを義経に命じたのだ。
 場合によっては返り血を浴びる可能性が高い。しかし、義経は嬉しかった。自分のプライドに懸け、負けるわけには行かない。
 一一八四年一月二〇日、義経二六歳は宇治川から京に攻め行った。計画を綿密に練り、行動を大胆に取った。その結果、木曾義仲三一歳を討った。
 そして、ここから義経は騎虎(きこ)の勢いとなったのだった。
 一一八四年二月七日、一の谷ひよどり越えで平氏軍を破る。そして一年後の一一八五年二月一九日、奇襲にて屋島の戦いに勝つ。
 一一八五年三月二四日には壇ノ浦の戦いに勝利し、平氏を滅亡させてしまう。
 華々しい全戦全勝。宇治川の戦いを入れて、四連勝なのだ。
 義経は源氏のために、また兄のために、そんな快挙を成し遂げたのだった。

 義経は都の人たちの歓喜の中で凱旋する。今や都一番の大スターとなった。
 しかし、義経は後白河法王の誘いに乗り、法王に接近し過ぎた。他にもいろいろな原因はあっただろう。だが、これにより舞い上がり過ぎだと兄・頼朝の堪忍袋の緒を切らしてしまったのだ。
 義経二七歳は今までの事態を丁寧に兄に報告したい。そのために、一一八五年五月一五日、鎌倉に凱旋帰国しようとした。しかし、頼朝は義経の鎌倉入りを許さなかった。
「手柄を立てたのに、なぜ、これほどまでの仕打ちを……」
 義経はどうしてこのようになってしまったのかがわからない。悔しい。
 そんな落ち込んでしまった義経を、後白河法王が宴席へと招いてくれた。
 後日振り返ってみると、その宴席に出席したことこそが、義経にとって人生最大の出来事になってしまったのかも知れない。
 そう、その宴席には、儚くも美しく舞う一人の白拍子がいたのだ。その白拍子こそが都一番のアイドル、静御前十八歳だった。
 義経と静御前、二人はまるで赤い運命の糸をたぐり寄せられ、そして導かれたかのように出逢ってしまった。
「我が心が、辛い」
「義経さま、その運命を嘆かないで下さい」
「静、自由に野山を、舞い飛ぶ蝶のように、舞ってくれ」
「はい、命ある限り……、義経さまのおそばで、ずっと舞わさせていただきます」
「静、二人の愛を永遠に──契ろうぞ」
 こうして二人は、それはそれは悲しい愛の淵へと落ちて行くことになってしまったのだ。

 義経は鎌倉への四連勝の凱旋帰国が許されなかった。胸が痛んだ。
 しかし、兄頼朝と弟義経の不幸はこれだけでは終わらなかった。さらに続いて行く。
 頼朝は弟・義経を朝敵として、ついに追討の命を下してしまうのだった。この時義経は、兄・頼朝との主従、そして兄と弟の関係は終わったと思った。
 そして、その追討から逃れるように、秋も深い一一八五年十一月、静御前を連れて西国へと旅立った。
 しかし、問題があった。もうその頃には、二人の愛の証、静は身ごもっていたのだ。
 二人は吉野から西国へ抜けようとしたが、山道は険しい。そして吉野山は女人禁制。
 身ごもった静を連れての逃避行。吉野の麓から前へ進まない。義経はもう進退窮まった。
「静、お前の身体とややの事を思えば、これ以上は連れて行けない。京へ一旦戻って欲しい」
 義経はそんな苦渋の選択をせざるを得なかったのだ。

 秋の山の上には、ぽっかりと大きな月が上がっている。その柔らかな月の光が白くぼやっと二人を浮き上がらせる。
 静にはもう言葉はない。あるのは涙だけ。
 悲しい。
 ずっとずっと一緒にいようと誓ったはずなのに。
 悔しい。
 静は義経の胸の中に埋もれて、とにかく涙を零すしかなかったのだった。

 静は法王の宴席で、義経に初めて逢った。そして恋に落ちた。しかし、これほどまでに早く別れがくるとは思っていなかった。
「二人のややを、しっかりと産んでくれないか」と義経が言う。
 静はそんな言葉が憎い。そして静の涙はもう涸れてしまった。
 男の世界がどういうものなのかはわかっている。しかし静は、義経の愛、それだけをもう一度しっかりと心に刻んでおきたい。
「義経さま、私のこと……本当に好き?」
 静は義経を真正面に見据え、はっきりと訊いた。
「たとえ、この世が果てようとも、静を永遠に愛するよ。そのために、静のところへ必ず戻ってくる」
 義経はそう力強く答え、静を強く抱き締める。
「また、きっと逢えるのですね。それじゃ、義経さまが若い時にしばらく身を隠されていた琵琶湖の竹生島で……、いつまでもあなたをお待ちしております」
 静は最後の力を振り絞って義経に伝えた。
「その……あなた待ち島へ、きっときっと、静を迎えに行くから」
 義経は約束をした。そして二人は最後の熱い、しかし、それはそれは悲しい口づけを交わす。
 そんな抱き合う義経と静を、吉野の青い月が、その光りを涙のように滲ませながら照らし出しているのだった。

 義経は吉野山で静御前と別れた後、行方知れずとなってしまった。一方静十九歳は、山を下りるが不幸にも捕まってしまう。その後、年明けて人質として鎌倉へと送られ、三月十一日に到着する。
 そして、その二二日には義経の子を懐妊していることが知られてしまう。
 頼朝は静に出産後京へ戻ることを許す。そして頼朝・政子夫妻は静に所望する。それは鶴岡八幡宮の舞台で、都の舞を踊ること。
 静には、義経と約束した永遠の愛がある。何も恐いものはない。
 四月八日、静は妊娠六ヶ月の身で、頼朝と政子の前で堂々と二曲を舞った。

── 吉野山 峰の白雪踏み分けて 入りにし人のあとぞ恋しき ──
   吉野山で、消えて行ってしまった人(義経)が恋しい。

── しづやしづ しづのをだまき繰り返し 昔を今になすよしもがな ──
   おだまきのように繰り返し思う、昔であったらどんなに良いことか。

 全戦全勝の若きヒーローと都一番の白拍子、その二人の悲しい運命の中で歌い、そして舞った。それでも静は義経の愛を信じ、うろたえることなく堂々としていた。
 その結果、身ごもった静御前が鶴岡八幡宮で儚くも舞ったという噂は、全国に瞬く間もなく広まって行った。
 義経は、この噂で、静の身の上に何が起こっているのかを知るのだった。

 月日はさらに流れて行く。 
 一一八六年七月二九日、静御前は待ちに待った義経の男児を出産した。
 しかし、男児であったがために、もっと大きな悲劇が静の身の上に起こってしまう。
 頼朝と政子は、静からその可愛い稚児を無理矢理に取り上げた。そして惨(むご)く、由比ガ浜から投げ捨ててしまったのだ。
 この世に、これほどの罪、そして悲惨なことは他にあるだろうか。静は悲しみのどん底へと突き落とされてしまった。
 もう心の支えは、義経が最後に約束してくれた言葉だけ。
「あなた待ち島に、きっときっと、静を迎えに行くから」
 この言葉だけを信じ、九月十六日に、静は哀切極まる心のままで、鎌倉から旅立って行った。
 しかし、その後の静御前の足取りを知る人は誰もいない。
 きっと静は、義経との約束通り、あなた待ち島へと向かったのだろう。

 一方、義経の方は?
 一一八五年十一月に吉野山で静御前と別れ、それからその姿を忽然と消してしまっていた。
 その後、義経は二年の長い逃亡生活の後、一一八七年にやっと平泉に辿り着くのだった。
 そして時は流れ、義経三一歳は、一一八九年四月三〇日に奥州衣川で奇襲に合い、自ら命を絶ったとされている。
 その六月十三日には、美酒に浸けられた義経の首が鎌倉の頼朝のもとに届けられた。そして首実検がなされた。
 しかし、それは義経の首ではなかった。
 その頃、義経は一体どこへ? 
 そう、静が待つ『あなた待ち島』へと、旅を急いでいたのだった。


                   後編へと、つづく


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このストーリーに関するコメント

13/09/05 鮎風 遊

みな様へ

今回、2000文字のお題は「待つ人」です。

それに合わせて、少し長いですが、
『あなた待ち島』を投稿させてもらいます。

軽く読んでいただければ、嬉しいです。

13/09/08 泡沫恋歌

鮎風さん、拝読しました。

義経と静御前、別れてからお互いを待ち続けていたことでしょう。

この二人は、時空を越えた永遠の愛ですね。

13/09/10 鮎風 遊

泡沫恋歌さん

コメント、ありがとうございます。

二人は再会をずっと待ってたでしょうね。
そして、それは果たせたと信じたいものです。

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