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鮎風 遊さん

この世で最も面白い物語を見つけ出したい。 そのために、ひとり脳内で化学反応を起こし、投稿させてもらってます。 テーマに沿った個別物語の他に、いくつかのシリーズものをコツコツと書き続けさせてもらってます。 その主なシリーズものを紹介させてもらいます。  ☆❤☆❤☆ 新シリーズ 『ツイスミ不動産』 __ 2017.07.16よりスタートさせてもらいました。 カサリンとクワガタ野郎があなたが求める終の棲家を紹介いたします。  ☆❤☆❤☆ 『刑事 : 百目鬼 学(どうめき がく)』 __ 2017.05.21 ただ今、27話 __ 1話完結の2000文字推理小説です。この少ない文字数の中で、百目鬼刑事と部下の芹凛(せりりん)がいかに事件を解決していくか、その醍醐味を味わって頂ければ、光栄です。 これからも引き続き難しい事件に挑戦して参りますので、よろしくお願いします。  ☆❤☆❤☆ 『漢字一文字の旅』 __2017.04.04 ただ今、連載41__ 漢字にまつわるエッセイです。  ☆❤☆❤☆  『歴詩』 __歴史上の人物になりかわって、その波瀾万丈の生き様の思いを詩に綴らせてもらってます。 本作品については、フォト音(on)小説という形で、you tubeにもUPさせてもらってます。 詳細はこちらHPです。  ☆❤☆❤☆  http://ayukazeyuu.net/index.html  ☆❤☆❤☆                         よろしくお願いします。              

性別 男性
将来の夢 この世で最も面白い物語を見つけ出したい。
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あなた待ち島 (後編)

13/09/05 コンテスト(テーマ):第十六回 【 自由投稿スペース 】 コメント:2件 鮎風 遊 閲覧数:1372

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 凛太郎と由奈、二人は京都の学生時代に恋に落ちた。
 しかし、凛太郎は地方から出て来た貧乏学生。由奈は京都老舗料亭の一人娘だった。当然料亭を継いで行く義務と責任がある。
 それは実らぬ恋。そして悲しい別れが……。
 由奈は最後に言った。
「今度、いつか逢えた時に、あなた待ち島に連れて行って欲しいの」
 そして、凛太郎は由奈に約束した。「あなた待ち島で、その時、まだお互いに好きならば、もう一度やり直そう」と。
 そして七年の月日が経ち、二人はばったりと出逢った。
 由奈は、七年前の言葉通り、「あなた待ち島に連れてって」と言う。凛太郎はそのやり直しの約束を果たすべきかどうか、それを確かめるために由奈を連れて観光船に乗った。そして今二人は、そのあなた待ち島、竹生島(ちくぶしま)に到着した。

 竹生島は、奥琵琶湖に浮かぶ翡翠(ひすい)のような美しい小さな島。
 島に上がった凛太郎と由奈は、猫の額のような狭い船着き場から土産物屋の前を通り、お寺までの百六十段の急な階段を登った。その高台から琵琶湖が一望できる。
 しかし、そこは湖が広がるだけで何もない。
 凛太郎と由奈の二人は、並んで茫然とその眺望を眺めている。
 そして、いつの間にか、八五〇年前の義経と静御前の再会の様子が、映画のシーンのようにそこに浮き上がってくるのだった。

 静御前は鎌倉を出て、放浪の果てに、やっとこのあなた待ち島に辿り着いた。
 そう言えば、吉野山で、義経と別れる時に静は尋ねた。
「義経様、私のこと……本当に好き?」
 義経は「たとえ、この世が果てようとも、静を永遠に愛するよ。そのために、静のところへ、必ず戻って来る」と誓ってくれた。
 そして、義経は約束をしてくれた。
「あなた待ち島へ、きっときっと、静を迎えに行くから」
 静はその言葉だけを信じて生きてきた。そして、一縷の望みを懸けて、この島までやって来た。
 静はずっとずっと待っている。来る日も来る日も、そして来る日も。この島の高台に立って待っている。
 いつの間にか、一年の時が流れてしまった。静がこの島で義経を待ち出して、二度目の秋が終わろうとしている。
 もうすぐ比良の山並みは初雪が降り、寒々とした白い世界に変わって行くことだろう。

 しかし今日も、静は高台に立ち、波立つ湖のはるか遠くを眺めている。静は今日もこれで一日暮れて行くかと思い、高台から下りようとした。
 そんな時に、遠くの方に一艘の小舟を発見する。どうもこのあなた待ち島に向かって来ているようだ。
 よく見ると、一人のやつれた武者が、その小舟を漕いでいる。そして、どんどんこちらに近付いて来る。
 静は、その武者が今……誰なのかがわかった。それは愛する源義経だと。

 湖の波に揺れる一艘の小舟。それがどんどんとこちらに近付いて来る。
 高台にいる静には、その漕いでいる主が、今はっきりと……、それは義経だと確認できる。
 涙が止めどもなく零れ落ちる。
「義経様、約束を守っていただいて、このあなた待ち島まで……」
 静は高台から階段を走り下りて行った。そして湖岸までやって来た。
 義経を乗せた小舟がゆっくりと岸辺に着いた。
 静には今、吉野山で別れてからの一杯の出来事が走馬燈のように思い巡る。
 別れてすぐに捕まってしまって、鎌倉へ送られたこと。
 頼朝と政子の前で、堂々と舞ったこと。
 男児を出産した。しかし、無理矢理に取り上げられ、命名もされずに由比ガ浜から投げ捨てられてしまったこと。
 そして、鎌倉から放浪の果てに、やっとこの島に辿り着いたこと。
 全部全部、義経に聞いて欲しい。

 しかし、静はしっかりと涙を拭いた。そしてきりっと背筋を伸ばし、義経の小舟に向かって真正面に立った。
 義経に対しては、いつまでも一流の美しい白拍子であり続けたかったのだろう。その立ち姿が実に気品に溢れ、そしてどこまでも綺麗。
 義経があなた待ち島に降り立った。
「静、約束通り、今帰ったぞ」
 義経が力強く静に声を掛けてきた。
「殿、お帰りなさいませ。長年のお働き、ご苦労様でございました」
 静もきちっと返した。すると義経は静のそばまで、ゆったりとした歩調で歩み寄ってきた。そして静を思い切り抱き寄せる。
「静、苦労を掛けてしまった。だがやっと二人になれた。これからここで、もう一度、我々二人の永遠の愛を築き上げて行こうぞ」
 義経はそう囁きながら、もっと強く静を抱き締める。静は義経の胸の中で、「はい」と深く頷く。もうそれ以上の言葉は必要ない。
 そして堰を切ったように……、大粒の涙が一つ。そしてまた一つ。
 その一粒づつの涙が今までの苦労と悲しみを、そこに詰め込んで湖面へと落ちて行く。
 その波打ち際の水面には、いくつもの涙の小さな輪ができる。そして、それらの輪のすべてを、寄せ来るさざ波が消して行くのだった。


 凛太郎と由奈。二人は今寄り添って、茫然と遙かなる湖の眺望を眺めている。そして、義経と静御前の純愛物語の結末を、同じように考えていたのかも知れない。
 由奈が突然聞いてくる。
「ねえ、凛太郎さん、義経はこのあなた待ち島へ戻って来て、静御前に再会したのでしょ。その後は、どうなったと思う?」
 凛太郎は、由奈からの突然の質問に、まるで夢から起こされたように由奈に向き合う。
「義経と静御前は、その後二人の長年の心の傷を癒し、愛しみ合いながら……、ここで仲良く暮らして行ったのだと思うよ」
 凛太郎はとにかくそう信じたかった。だからそう答えた。

「そうなのね」
 由奈は、なぜか二人の幸せを嫉(ねた)むように返した。そして、実に寂しそうにぽつりぽつりと呟く。
「凛太郎さん、今度、私……結婚することになったのよ、……、ゴメンね」
「えっ! どうして?」
 凛太郎は思わず聞き返した。しかし、その後の言葉が続いて出てこない。
 由奈は、いつの間にか凛太郎の背後から背中に頬をすり寄せてくる。そしてむせび泣くのだ。
「だけど、私……、私、ずっと……、凛太郎さんのことが好きだから」
 由奈は涙声で囁いた。
「俺も、由奈のこと好きだったし、今も好きだよ。だから、これからもずっと好きだよ」
 凛太郎はただ「好き」を繰り返した。なぜなら、こんな場面では、そう答えるしかできなかったのだった。

「今度、私……結婚することになったのよ」
 凛太郎は由奈からそう告げられてしまった。そして、それにも関わらず、由奈は「私、ずっと、凛太郎さんのことが好きだから」とも言う。
 凛太郎はこんな状況をどうすることもできないのだろうか。
「凛太郎さん、ありがとう。また、あなた待ち島に連れて来て欲しいわ。時々、二人の永遠の愛を確かめたいから」
 由奈はこんなことまで言い出している。
「そうだね」
 凛太郎はそれに反し、そんなあやふやなことを呟いてしまう。

 由奈がまた泣いている。凛太郎はその理由が何なのかわかっている。
 七年前、二人が別れる時に由奈は言った。「今度、いつか逢えた時に、あなた待ち島に連れて行って欲しいの」と。
 そして、凛太郎は約束をした。「あなた待ち島で、その時、まだお互いに好きならば、もう一度やり直そう」と。
 しかし、「私、ずっと待つわ」と言っていた由奈が……結婚をすると言う。そして今度は、涙を滲ませながら背中でせつなく囁くのだ。
「私たちは、きっとまだ、旅が始まったばかりなんだね。また、逢えるわよね」

 凛太郎は湖の遠くを眺めながら、ただ黙って由奈の心の叫びを聞く。
 そんな時だった。凛太郎は、一艘の小舟、それがこちらに向かってやって来るのを、はっきりと見るのだ。
 やつれた武者が一所懸命に船を漕いでいる。それは静御前を幸せにするために、一途に生き延びて来た義経の幻影なのだろうか。
 いや、それは違った。よくよく見ると、それは凛太郎自身そのものだったのだ。
 凛太郎は、一艘の小舟を必死に漕ぎ来る自分自身の幻影を見てしまった。それは今の自分の姿。しかし、義経の一途さからはほど遠い。そして今、真剣に思う。
「俺は一体何を……躊躇しているのだろうか?」 
 凛太郎は歯をぎゅっと噛み締めた。
「俺の一生は、一人の女性・由奈さえ幸せにできないのか」
 凛太郎は由奈の方へと振り向き、言葉を発する。
「由奈、俺たちの今までの旅は……、もうここで終わらせよう」 
 由奈がきょとんとする。凛太郎はかまわず続ける。
「七年前の約束通り、もう一度やり直そう。だから、一緒になって欲しい」

 由奈は驚く。現実に、もう婚約までしてしまっている。
 しかし、嬉しい。
 やっと凛太郎が、決断してくれたのだ。由奈は今にも自分を失いそう。
「バカ、バカ、バカ……、そうしたら……」
 由奈が凛太郎の胸の中で叫んだ。だが、「そうしたら」の後の言葉を、涙の中でつぐんでしまった。
 凛太郎は、その「そうしたら」と言葉の先に、由奈は何を言いたいのか、それはわかっている。
 多分由奈は、「結婚する前に、早く、私を奪ってしまって」と言いたかったのだろう。凛太郎は今まで以上に強く由奈を引き寄せた。そして二人は、二人の決意を確認するかのように、唇を激しく合わせるのだった。

 凛太郎にはもう迷いはない。
「あなた待ち島で、その時、まだお互いに好きならば、もう一度やり直そう」
 七年前に、由奈にそう約束した。
 由奈は老舗料亭の一人娘。その上に、婚約をしてしまっている。
 だが七年経って、まだお互いの気持ちには変わりはなかった。
 苦労は多いだろう。
 だが、義経と静御前の愛と悲しみの純愛の旅に比べれば、大した話しではない。
 しかし、目の前には、老舗料亭の件、由奈の婚約破棄の件、自分の仕事の件、いろいろな難題がぶら下がってる。それでもついに、凛太郎は由奈を奪い取り、由奈と二人で永遠の愛を築いて行こうと決意した。

 こんな決心をした時に、観光船の「ピー」と甲高い汽笛の合図音が鳴った。もうそろそろ出航する時間に。それはまるで、二人の新たな愛の旅立ちを祝っているようでもある。
 二人は石段を下りて行き、帰りの便に乗船する。そんな時に、由奈が何気なく呟くのだ。
「もうこれで、私たちの今までの純愛は終わるのね。そして今日からは、義経と静御前のように、もっと戦う愛の旅が始まるのだわ。……、きっと」  
 凛太郎は、「多分、そうだろうね」とほぼ無意識に返した。そして由奈は確かめるように、凛太郎の男の覚悟に念押しをしてくるのだった。
「ねえ、凛太郎さん、義経のように、私、由奈女一人のために……、人生かけてくれるわよね」


                        おわり


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このストーリーに関するコメント

13/09/08 泡沫恋歌

鮎風さん、拝読しました。

由奈と二人で永遠の愛を築いていってください。

爽やかな読後感でした。

13/09/10 鮎風 遊

泡沫恋歌さん

ありがとうございました。

現代の二人、きっとうまく行くでしょう。

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