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輿水望さん

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待ち人と私

13/08/27 コンテスト(テーマ):第三十九回 時空モノガタリ文学賞【 待つ人 】 コメント:0件 輿水望 閲覧数:1437

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 その人は、バス停のベンチに座っていた。
 バスが来て扉が開いても動かない。
 新幹線なども通る隣町からのバス停だから、もしかしたら誰か人を待っているのかもしれない。遠く離れた恋人の帰りを待っている、なんてことも考えられる。
 なんて、ロマンチックなことがあるだろうか。
 あったらいいと思う。

 待ち人は、結局現れなかった。
 彼はその日のバスが来ないのを確認すると、どこかへと去っていく。
 そして翌朝、最初のバスが来る前にやって来て、また一日中ベンチに座って過ごしていた。
 今日はコンビニで買ってきた弁当やおにぎりなどを持ってきているみたいだ。
 長期戦の覚悟をしたのだろうか。
 というかそもそも、相手とは連絡が取れないのだろうか。
 わざわざいつ来るかわからない相手のために、こんなところに座って待つなんて。
 私には出来るだろうか?
 ゆっくりと箸を進める彼を見ながら、考える。
 きっと、誰かのために、なんていうのは出来ない。なんとなくそう思った。
 そこまでして会いたい相手がいないからだろうか。
 それなら、もしそんな相手が見つかれば、私も同じことが出来るのだろうか。
 なんて、経験のないことを考えても、結局それはただの妄想でしかない。今の私には出来ない。
 それが、今の私に出せる答えだった。

 次の日も、彼はやってきた。
 そのまた次の日も、同じようにやって来て、同じように待ち続けた。
 何日も、何日も待ち続けた。

 最初に彼を見かけてから、どれだけの時が経っただろう。
 少なくとも、季節が一巡したのは確かだ。
 そんな長い間、彼はここに座って待ち続けている。いつまでも、いつまでも。

 いつからか彼は、食べ物を買ってこなくなった。
 いつからか彼は、ここを離れなくなっていた。
 いつからか彼は、動くのをやめていた。
 それに気付く人は、なかなか現れなかった。
 彼がここに居座るホームレスか何かだと、誰もが思い込んでいたのが原因だった。

 一年以上彼がいたそこに、今は誰もいない。
 誰かを待つ人も、現れない。
 彼が待っていたであろう人も、現れたのかどうか。
 顔も知らない私には、それを知る手段はない。
 そういえば先日一人の女性が、ベンチの下に一輪の花を置いて行った。これは、もしかしたら彼に贈った物なのかもしれない。
 だとすれば、彼女が彼の待ち人であってほしい。

 それからは、何も変わり映えのない日々だった。
 そもそも、彼がいた頃だって大して変わり映えなんてなかったのだけれど。
 せいぜい、彼がいたかどうかの違いしかない。
 いつものようにバスを待つ人と、降りてどこかへ行く人を見るだけの毎日。
 別に何かを待つのでもなく、ただひたすらと。
 ふと思う。誰かを待っていた彼と、ただ何もせず眺めているだけの私。違いなんてほとんどないんじゃないかと。むしろ、誰かを待つという目的があった分、彼の方が有意義な時間を過ごしていた気さえする。
 結局彼は、その誰かに会うことはなかったけれど。
 私も、誰かが来るのを待ってみてもいいのかもしれない。
 私に会いに来てくれる誰かを待ち続ける。
 そんな人がいるとは思えないけれど、でも、もしかしたら。
 そう思ったら、待ってみようという気になった。


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