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クナリさん

小説が出版されました。 『黒手毬珈琲館に灯はともる 〜優しい雨と、オレンジ・カプチーノ〜』 マイナビ出版ファン文庫より発売中です(表紙:六七質 様)。 http://www.amazon.co.jp/dp/4839958211 twitterアカウント:@sawanokurakunar

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将来の夢 絵本作家
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カミツレとジギタリス

13/08/26 コンテスト(テーマ):第三十九回 時空モノガタリ文学賞【 待つ人 】 コメント:18件 クナリ 閲覧数:3792

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辺境の女子孤児院を、リラの花弁が彩る季節が来た。
十年前の革命暴動の際の孤児が多く居るこの施設で、私とフラヴォアは七歳の時に出会った。今年、お互いに十七になる。
フラヴォアは貴族の血を引く端麗な容姿の持ち主で、その金髪碧眼は院内でも目立っていた。毅然とした立ち居振る舞いに憧れている子も多く、彼女と友達であるということは私の自慢でもあった。ただ、友情と言うよりは、憧れに近い感情ではあったが。

しかし、時にフラヴォアは嘲笑の対象にもなった。
安息日の度に、誰かを待つ様子で朝から孤児院の門に立つという奇癖のせいだった。
その理由を彼女は言わない。
しかし、本当は誰もが気付いていた。彼女は、自分を迎えに来てくれる貴族の馬車を待っているのだと。

孤児院の裏庭の物陰で、私とフラヴォアはよくハーブを摘み、その場で火を起こしてお茶にして飲んだ。 この裏庭で彼女と過ごす時間は、私だけの特権だった。
彼女の細い指が汚れるのが嫌で、専ら私が草を手折った。
勉強では彼女に敵わなかったが、野草の中からハーブを選り分けることに関しては、私の方が優れていた。口にしていい葉と悪い葉の見分け方をフラヴォアにも教えたが、
「よく区別がつくわね」
と溜息をつかれた。
この日はミント茶を淹れ、二人で飲んだ。彼女の気高さを造形した様な横顔はいつ見ても綺麗で、細い金色の髪が霧の様な湯気と共に陽光に輝くのを、私はぼうっと眺めた。
「私、ばかみたいね」
唐突に、フラヴォアが言った。
「来もしない救済を待っていると、皆から思われてるんだわ」
「やっかんでるだけよ。あなたが、とても、」
私は少し言い淀み、赤面を自覚しながら、
「……綺麗だから」
と続けた。
しかし彼女は首を振り、
「分かってるの。いつか迎えが来るかもしれないなどと思っていたら、正気でなんていられない。決して来ないと分かっているから、ただ待つなんてことが出来るのよ」
思いつめた表情のフラヴォアの、小さな肩を押えて、私はそのまま唇にキスをした。
彼女は拒まなかった。でも、受け入れもしなかった。
「私があなたを連れ出せる、誰かだったらいいのに……私、……何もしてあげられないなんて」
「同情はよして。誇りを失うくらいなら、死んだ方がましよ」
「同情で、キスをしないわ。ただの友達にも」
私の頬に涙が流れる。
「でも、私は、無力なの……」
そう言った私に、今度はフラヴォアがキスをした。雫を拭う様に、頬に。
「私も、……あなたが大切よ。無二の親友だわ」

その日は、突然に来た。
フラヴォアに引取り手が現れ、今日も今日、孤児院を出て行くと言うのだ。
私は院内の廊下で、院長が一人になった処を見計らって、訊いた。
「彼女の引取り手は、どんな人です?」
「なぜ訊く」
「友達なんです」
元々無愛想な院長が、目を伏せながら、
「尚更知らない方がいい」
「街で、聞いたことがあります。孤児院の器量良しは、革命軍の兵士の為に『出荷』されるって」
窓からの逆光で、シルエットになった院長が硬質な声で答える。
「美しいことは才能だが、幸せになれるとは限らない」
「……フラヴォアは、そのことを」
「知らせてやるな。どの道、逃げられやしない」

その日の午後、馬車に乗ったフラヴォアは余所行きを着て、普段以上に輝いて見えた。
引取り手のことは、遠縁の貴族とでも説明されたのだろうか。
私は馬車のドア越しに、彼女に小さな布袋を渡した。
「干したハーブよ。飲みたくなった時、飲んで」
フラヴォアは袋の紐を腕にかけ、
「ありがとう。収穫休みには、必ず戻るわ。……あなたも必ず、出て行ける」
馬車が動き出し、柔らかな日差しの中、救済と祝福を信じて、フラヴォアは道向こうへ消えて行った。

数日後、フラヴォアが引取り先で死んだという報せが届いた。
死因は不明だったが、私にだけは判った。
あの袋には、カミツレと共にジギタリスを一房入れてあった。裏庭で、後者は猛毒だと教えたことがある。それを飲むべき場面に陥ったので、飲んだのだろう。

願わくば、あなたが尊厳を奪われる前に旅立てたことを。
生きるよりも、私と再会するよりも、誇りに殉じたいと願うなら、私はそれに手を貸そう。
あなたが、あなたの望むあなたでいようとすることを、私は否まない。
それで例え、あなたを失うことになっても。
最後にあなたを満たしたのは、私の、あなたへの肯定なのだから。

それ以来、私は安息日に門に立つようになった。
並の器量でフラヴォアの真似か、と笑う人もいた。
違う。
私は迎えを待っているのではない。見送っているのだ。何度も、何度も。
もう二度と帰り来ぬ、美しく気高い友人を。

名残のリラが舞う中、馬車の音と彼女の手を振る姿が路上に浮かぶ。
来る日も来る日も鮮やかに、あの日のままの輝きで。


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このストーリーに関するコメント

13/08/26 yoshiki

拝読いたしました。

二千字でこれだけのストーリーを描くのは素晴らしいと思います。

が、欲の深い私はもうすこし長い小説にしていただけたら、とも思いました。時代背景ともう少し知りたいし、もしかしたらすべて架空の時代、国かもしれませんが。

いや、いつも思うのですがタイトルの付け方がお上手。これでまず惹かれます。ジギタリスが毒草であったとはドラマチックですね。無知な私は初めて知りました。情緒的なお話の中にクナリさんカラーが光っていました。

13/08/26 草愛やし美

クナリさん、拝読しました。

たいそう可哀想なお話に胸がつまりました。
「美しことは才能だが、幸せになれるとは限らない」語った園長にも、どうしてやることもできない逆らえない強い力によるものだったのでしょう。
この主人公はいつまでも姿の見えないフラヴォアを見送りながら、わかっていても待ち続けるのでしょうね。
美貌をもっているゆえ、悲しい生き方をしなければならなかったさだめが悲しすぎます。フラヴォアの冥福を祈りたい気持ちになりました。

13/08/27 石蕗亮

拝読しました。
ジキタリスの意味を言わなくとも通じたところに二人の間柄の深さを読みました。
この結末はお互いにとっての最後の矜持だったのでしょうね。
引き取り手の招待を明かせない側と最後まで貴族の誇りを失わなかった二人が唯一自分の意思で選べれた行為に感銘しました。
良いモノガタリをありがとうです!

13/08/27 クナリ

はぐれ狼さん>
完成度高いですか! ありがとうございます。
いろいろ詰め込みつつバランスよく仕上げたいという思いは毎回持っているので、成功しているようであればー。
ジギタリスを実際飲むに当たっては、どういう展開をしたのか主人公にはわかりませんからね。
「死にたいと思うなら、手伝うよ」という自分の思いが通じたと思い込んでいますが、野草に疎いフラヴォアのことですから「あれ、これ何の草だっけ。まあいいや、いただきまーす」だったかもしれないわけで。
そうでなくとも袋を開けた瞬間、「まあ、どういうつもり? 友情は終わりだわ!」となったかも。
自分は展開の描写に頭が行きがちなので、映像面の描写を意識的に入れないとなーと思っているものですから、そこを言っていただけてうれしいです。


yoshikiさん>
ありがとうございます。
制約があったほうが燃えるタイプなものですから、「制限なしで好きに書いていいよ」と言われると途方にくれるかもしれませぬ。
たぶん、長くしたりしても、単に密度が薄くなるだけになりそうで怖いし……。
ゑ、時代背景……?
え、えー、まあ、そのー、いつかの時代の、どこかの国……みたいな……ええ。
ジギタリスが毒草と知ったのは結構昔で、あーなんかきれいな花だなーと思って調べたら「まじヤバい毒草。人間とか余裕で死ぬ」とか本に書いてあって、いや、そこらじゅうに生えてるじゃん!と驚いたのを覚えています。
すずらんの毒性とかも結構ショックでしたね。可憐なのになあって。


草藍さん>
可愛そうですねえ……本当はここから、彼女たちが不屈の反骨心で脱走したり救出したりする話がかければいいんですが、人生後ろ向きなクナリにはむりでしたねえ……。
昔の悲壮な運命をたどった人々のエピソードとか読んで、「そこで生きることをあきらめるなよ!」という人もいますが、どう生きたらいいかなんて今の自分たちにはもちろん、本人だってその当時の周囲の人たちだってわからないわけで。
どこで何をあきらめて生きていくかというのは、誰にもどうにもできない理みたいなものがあるなあと思います。


石蕗亮さん>
この話を書いた人間としては、主人公のメッセージはフラヴォアに届いたと思いたいですね。
少なくとも、フラヴォアが何のために引き取られたのか、それに気づいたときには。
主人公にとっては、フラヴォアが自分の意志で自分の人生を決めるための選択肢を贈ったわけで。何をされても、カミツレの香りを励みにいきぬくことも、フラヴォアにはできたわけですから。
どんな理由があろうと心臓の鼓動を継続し続けられる人が強い人間、生きることをあきらめたものは弱き愚者、という風潮を一時期結構目にすることがあって、それに対する反抗心みたいなものが自分の中に静かに存在していました。
生命は化学反応の連続であって、それをどうしても譲れないもののために自分の意志で停止することを選ぶのが、そんなに悪いことなのかと(いや、自殺とかはだめですが)。
もしかしたらそのあたりの価値観が、今回の主人公とフラヴォアの人生の一時期を切り取らせたのかもしれません。
こちらこそ、読んでくださってありがとうです!







13/08/27 クナリ

友人「これ、ジギタリスじゃなくて、一時的に仮死状態になる薬草とかで、『死んだと思われたフラヴォアが革命軍のとこから運び出されてそこを救出した主人公と二人で旅立つ』みたいな救いのある話じゃだめなの?」
クナリ「そういうの早く言ってください」


あとyoshikiさんへのレスで書き忘れましたが、タイトル毎回結構悩むんですが、今回のはmy神・乙一先生の『銃とチョコレート』や、シンガソングライタ橘いずみ(現『榊いずみ』)さんの『十字架とコイン』などから『○○と○○』ってなんか無機質っぽさがかっこいいなと思ってつけました。
ほめられてうれしいです。

13/08/27 そらの珊瑚

クナリさん、拝読しました。

悲しい物語なのに、とても美しいと思いました。少女たちの一途な思いに感銘を受けました。
生と死が時に友になるように、ラストシーンの「待つ」ことに「見送り」の意味を持たせ、ジギタリスという薬にもなる一方で、毒にもなるというハーブの二面性を考えれば、2人の少女も、ほんの少しの違いでその運命が入れ違ったかもしれない、という可能性もあり、ダブルミーニングというのでしょうか、それが奥行というか深さを与えているように思いました。
素晴らしい物語をありがとうございました。

13/08/27 青海野 灰

素晴らしい作品でした。クナリさんの掌編の中で一番好きかもしれません。
美しい情景と、悲しくも気高い死、決別さえ肯定して見送り続ける主人公の心理、そしてそれらを描き上げる作者の筆力に、圧倒されました。

花が色々出てくるので、花言葉を調べてみて驚きました。

リラ
「友情」「思い出」「初恋」「美しい契り」
カミツレ
「逆境に耐える」「逆境の中の活力」「親交」「仲直り」
ジギタリス
「熱愛」「不誠実」「隠されぬ恋」

なんだか全てに意味がありそうで、偶然だとしてもよくできてるなぁと唸らされました。計算だとしたら本当に尊敬します。いやすでに尊敬してるんですが。
一人で10票程入れたいくらいの良作でした。

13/08/29 クナリ

なんかコメント欄がますます豪華ッ。

そらの珊瑚さん>
二人の想いは、分類すれば「恋愛感情」と「友情」ですから、性質としてはそれぞれ一方通行だったわけですが、譲れないものに一途であるということについては共通しています。
だからお互いに認め合ったのでしょう。
人生の分岐を互いに巡り続けた後、同じ場所にたどり着いたのは心だけだったわけですが。どこかで、一部にせよお互いに自分の分身のように思っていたのかもしれません。
主人公の方が誰かに引き取られたとしたら、フラヴォアどうなったんでしょうねー。「おのれーなんであの子がーギリギリギリギリーゆーるーせーぬー」みたいな感じでしょうか(←台無し)。


青海野さん>
Hi!
今のところのナンバーワン・ヒットですか。
ありがとうございます。
そして褒めすぎです(^^;)。
リラの友情と初恋は知っていて、今回ちょうどいいなーと思ったたんですが、カミツレとジギタリスは知りませんでした。タイトルやがなッ。
ジギタリスの隠されぬ恋っていいですねえ。


凪沙薫さん>
独りよがりに相手を想う、ということに一途な主人公ですが、やさしくして愛されようなんて思っていない人なんですよね。
むしろ、自分の好きになった人の意志を批判なく尊重してしまうという、ちょっとだめなやつですが(^^;)。
「ストーリー」と「演出」は褒めていただけると嬉しい二大ポイントです!
ありがとうございます!

13/08/29 平塚ライジングバード

クナリ様

拝読しました。スケールが凄い作品ですね!!
どういう人生を送ったらこのような物語を描けるのでしょうか??
自分も様々な小説投稿サイトに顔を出したり、小説家志望の方に
お会いしたりしましたが、その中でも世界観の作り方は一段以上
飛びぬけているように感じます。
本当にうらやましい筆力です。いつか物語の作り方を教えてください☆

13/08/30 クナリ

平塚ライジングバードさん>
スケールでありますか。広がっておりますか。
お褒めの言葉、恐縮です。
くだらない人生を、くだらない感じで送って、くだらないことばかり考えているとたまには人様から認めていただけるものが現出するようです。
自分では、「よし、自分なりの世界観を構築しよう!」という意図を持って話を考えたことはないのですが、結果的に構築できているとすると、それなりに配慮しながら話を作ってきた成果が出ているということでしょうか。
飛びぬけてない飛びぬけてない(^^;)。
クナリの物語の作り方は、そうですねー、「やりたいことを一番効果的に演出できるにはどうしたらいいか」から逆算して作っています。
参考になれば幸いです(ならぬ!)。




13/09/02 光石七

某番組ではありませんが、「ナニコレ!?」と心の中で叫んでしまいました。
本当に2000字ですか?
すごく内容が濃いんですけど。
背景も、心情も、鮮やかに思い浮かべることができます。
ただただ脱帽です。

13/09/03 クナリ

光石さん>
結構試行錯誤してこの字数に収めたので、そういえば時間がえらくかかりました。
今読み返してみると、ああ、こんだけの字数になってしまったんだな…短いな…と感慨深い(?)ものがあります(^^;)。
自分の場合、制限なく好きに書くと話の密度がうっすうすになるので、まあこれくらいに煮詰められたほうがちょうどいいのでしょう。

評価していただけて、そんな苦労も報われるというものです。
ありがとうございました。

13/09/04 

木漏れ日の表現や、随所から光や影が感じられて目の前にその情景が浮かんできました。2人の友人の物語が、クナリさんの表現力で、いっそう輝いているのだと思います。
素敵なお話しありがとうございました。

13/09/05 クナリ

風さん>
いつも、特に情景の描写は最小限にするくせがある(と思う)ので、
目の前に情景が浮かぶというのはうれしいです。
異国を舞台にしている以上、異国感は出したいところなので。
表現力とは、これもうれしいお言葉です。けっこう淡々と文章を書く
(これは人から言われたのでそうなのでしょうッ)方なので、
魅力的かつ効果的な表現ができるように、これからも書いてまいります。
お言葉、ありがとうございました!

13/09/28 murakami

傑作ですね…。

「Solotary desertion」「ミニングレス・ノスタルジー」もとっても良かったです。

クナリさんの作品はどれも密度が濃いですね。それでいて読みやすく詩情があります。
2000字という制約の中でこんな風に書けるなんて、すばらしいです。

13/09/30 クナリ

murakamiさん>
ありがとうございます。
というかいろいろ読んでいただきましてとてもうれしいです。
読みやすさと、それなりの内容を入れ込むことをいちおう目標にはしているので、評価していただけて光栄です。
自分の場合は、ある程度の制約があったほうが書きやすいんですよ。
なので、こちらのサイトのスタイルはとてもやりやすいです(作品の質とは別ですが(^^;))。

16/12/22 あずみの白馬

拝読させていただきました。
バッドエンドをここまで綺麗に描けるのがすごいです。
願わくば彼女らに救いを……

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