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クナリさん

小説が出版されました。 『黒手毬珈琲館に灯はともる 〜優しい雨と、オレンジ・カプチーノ〜』 マイナビ出版ファン文庫より発売中です(表紙:六七質 様)。 http://www.amazon.co.jp/dp/4839958211 twitterアカウント:@sawanokurakunar

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将来の夢 絵本作家
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そりゃ意地くらいあるよ、ミスター・クロウ

13/08/13 コンテスト(テーマ):第三十八回 時空モノガタリ文学賞【 ライバル 】 コメント:3件 クナリ 閲覧数:2568

時空モノガタリからの選評

最終選考

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鴉になったことはない。
けれど、人間に産まれて後悔している人間は大勢いるのに、鴉に産まれて後悔している鴉というのは皆無の様な気がする。

私の住む川沿いの家は、いつも鴉が沢山飛んでいた。そして川の上を飛ぶ鳶に、よく食べられていた。
群れの中に一際大きな鴉がいて、そいつは羽の中に一房、灰色の羽毛が混じっており、私は勝手に”炉灰”と名付けた。
炉灰は、人を恐れない。平気で私の前を歩き、時には威嚇して来る。
餌付けしてみようと、家の前の道路で何度もパン屑をあげたけど、見向きもしない。恐らくこいつの中で、私の序列はさぞ低いのだろう。
鳥類ながら、その気位はあっぱれだった。
少なくともその気高さにおいて、奴を、私の好敵手と認めてやろうと思った。



<鴉>
今日も仲間が一羽、鳶に食われた。退治したいのは尤もだが、俺にも確実な勝算はない。戦闘能力はよくて互角。慎重にならねば。
今は更に別に、鬱陶しいことがあった。人間の娘が、俺を餌付けしようとして来る。鴉が貰い餌を食べると、どうなるか知らないのか。

今日も娘が俺にパン屑を投げてよこした。飽食者の哀れみなど、と無視してやる。
すると娘は、そのパン屑を自分でひょいと拾って食べた。
驚いた。
俺に与えるものは、自分でも食うものということか。
つまらん気位だけがとりえの人間が、見直したものだ。



さすがにパンが勿体なくなって、私は炉灰にやりかけたかけらを、土を払って自分で食べた。
何だか炉灰が、こっちを凝視している気がする。
珍しいな、と思っていたら、目の前に突然黒い影が現れた。鳶だ、と思った時には、その爪が私の顔を叩いていた。
傷口から鋭い熱が広がり、涙が溢れてくる。縄張りにでもうっかり踏み込んでしまったのだろうか。
怖かった。でもそれ以上に、悔しくて腹が立った。
私は道端の小石を掴むと、上空の鳶に向かって投げつけた。当然届く筈もなく、小石は力無く落下した。
その小石を跳ね飛ばし、黒い矢が一筋、空へ舞った。
炉灰だ。



<鴉>
何故腹が立ったのかは解らない。
だが、泣きながらも鳶へ投石するその娘をやられっ放しにしておくことが、俺には出来なかった。丁度いい、いずれ討つべき仇だ。
俺は真一文字に奴へ飛び、嘴を突き出した。奴は、遂にお前が来たかとばかりに一声鳴き、身をかわしざまに爪を放って来た。俺の尾へ掠る。
俺は風上から旋回し、大円を描いて飛ぶ奴の懐へ、小円をなぞって飛び込む。間合いに入った。右の爪を放つ。
だが、俺の爪は奴の爪に弾かれた。体重差で、俺のバランスが崩れる。
奴の両足の爪がくわっと開き、俺の胸を掴みに来た。俺は体を縦にして奴の両足の間に滑り込み、嘴を腹に見舞ってやった。
手応えあり。だが同時に、奴の爪も俺の背と腹を削った。



空の上で、二つの影がぶつかり合っている。
互いに弧を描きながら、どこか鷹揚に飛ぶ鳶に、高速で一撃離脱する炉灰。
血の飛沫が、空に散った。



<鴉>
互いに秘術を尽くした応酬が続いた。
わざと失速してからの急襲も、螺旋を描いての急降下技も、見切られた。奴の、翼の風圧で俺のはばたきを無効化する技には舌を巻いた。
だが、尾羽を一枚切り飛ばしてやった処でとうとう根負けしたのか、奴は背を向けて飛び去っていった。群れの加勢を恐れたのかもしれない。ひとまず痛み分けだ。
地面に降りると、思った以上に全身の怪我は深刻だった。腹の傷から血が滴る。

駆け寄って来た娘が、何かを差し出した。人間が飲む栄養剤の錠の様だ。
施しを受けるリスクは、百も承知だ。だが、自分の手当てを後回しにまでしている娘を拒むことは俺には出来なかった。
俺は娘の手の平を傷付けない様気を付けながら、そっと錠を摘んで食べた。
手も顔も、ちゃんと消毒しろよ。



炉灰が私からビタミン剤を食べた翌日。
家の前に、ぼろ雑巾の様になった炉灰が横たわっていた。昨日よりずっと重傷だ。
私は思わず、悲鳴を上げた。

後で知ったことだ。
鴉というのは嫉妬が強く、群れの中で餌付けされた個体がいると、他の鴉達が総出でその一羽を苛め抜き、ついには殺してしまうという。

浅はかな考えで、歩み寄ったりしてはいけなかったのだ。
あのふてぶてしかった奴の、何という姿。
滲み行く視界の中で、彼が、かくりと首を折った。



<鴉>
人間になったことはない。
だが、人間に産まれて後悔している人間てのは多そうだな、と思うことはよくあった。
鴉に産まれれば、俺の様に後悔なく生きられたろうに。
まあ、あの娘なんかは、意地の強さくらいは俺と同等だと認めてやってもいいかもしれない。

辛気臭い泣き面を、最後に見せやがって。
傷が顔に、残らなければいいが。

やがて視界に、黒い帳が下りて来た。

また、空を飛ぼうと思う。


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このストーリーに関するコメント

13/08/17 クナリ

凪沙薫さん>
動物には感情はおそらくない(原始的なものは除いて)……と思ってはいますが、動物の擬人感情作品は好きだったりします。
こないだ青山霊園に行ってきたんですが、西洋風の墓石にけっこうカラスがとまってて、あー、絵になる鳥だなー、と思いました。
なんか、道端に落ちているコインを鹿の餌の自動販売機に入れて餌ゲット、なんてカラスがいるという話も聞きますし…すごいなー。

自分としてはやはり、人間最高ッ!ではありますが、一度くらい空を飛んでみたいですね。
歩道橋を歩いたりしてると、けっこうそう思います。
この視点のまま移動してみたいなーって。

13/08/25 そらの珊瑚

クナリさん、拝読しました。

なんで貰餌を食べてはいけないんだろうかと思ったら、そういうことだったのですね。鳥の世界も群れて生きていくってことは大変ですね(人間もですが)
ちょっと無頼なかんじの炉灰、彼独特のポリシーが感じられてかっこいいと思いました。

13/08/26 クナリ

そらの珊瑚さん>
お読みいただき、ありがとうございます。
ちょっとしたラストの彩のために、序盤に小さなハテナを仕込んでみましたー。<貰い餌
鳥の目って、どんなにかわいい鳥でも近くで見ると無機質で怖いんですが、カラスはもともとふてぶてしいわ不気味だわで、逆に人間味を感じることが多いです。
無頼な人間くささが出せていれば幸いです。
甘くないですよね、人間界も自然界も。

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