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W・アーム・スープレックスさん

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将来の夢
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亀の池の前で

13/08/12 コンテスト(テーマ):第三十八回 時空モノガタリ文学賞【 ライバル 】 コメント:1件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1613

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 そこは結構名の知れたお寺で、土日、祝日ともなれば、大勢の参詣客でにぎわった。
 ただ、その寺の名前がややこしくて、いまだにぼくははっきりおぼえていなかった。
 大方の人はこの寺のことを、『亀の池のお寺』でとおしている。ぼくがはん子に電話したときも、「亀の池のお寺で二時に」ですんなり通じた。
 いつもはカフェなどで合っていた二人が、なんでまたそんなお寺を待ち合わせ場所にえらんだかというと、そこにはいろいろ今回のテーマのモデルがころがっているからというはん子の意見を尊重したからだった。
「ほら、あの二人―――」
 と、はん子が、むこうからあるいてきた女性ふたりを、それとなく目で示した。約束の時刻に二人落ち合ってから、十分後のことだった。
「あの二人は、なにかにつけ、張り合ってるみたいだわ」
 いわれてみると、なるほど彼女たちは、服装から、身につけているもの、それに化粧にいたるまで結構金をかけているのは一目でかった。。
「ライバルかな」
 それが今回の投稿サイトのテーマだと電話のときにぼくが告げるとはん子は、ぼくをこの亀の池によびだしたのだった。
「よく観察するのよ。あとで書くときの参考に」
 人物の描写がいまいちのぼくには耳の痛い彼女のアドバイスだった。
「会話も聞けたらいいんだけど」
「そばにいけばいいじゃない」
 そういったときにははやくも歩き出していたはん子のあとを、ぼくもいそいでしたがった。
 二人の女性たちの横に、池の亀をみるふりして立つと、はたしてふたりのやりとりが耳にはいってきた。
「お父さん、そんなに具合がわるいの。あなたも看病疲れがでないようにね」
 女性が、親身になって相手を気遣っているのを聞いたぼくは、これはあてがはずれたなとはん子をちらとみた。
 はん子はこんどは、参道のほうからこちらにちかづいてくる二人の男を目で示した。
「あの男たちならきっと、まちがいなくライバル同士よ」
 ぼくも期待しながら、亀の池のふちにやってきた二人の男性にそれとなくちかづいた。
「上司に叱られたぐらいで、おちこむな。おれなんていったい、これまで何度、ぼろくそにどやしつけられたことか。いやなことは、右の耳から左の耳に聞き流すんだ。こんど仕事で挽回すれば、今回のことはチャラさ」
 ひとりがそういって、しょげている男の肩を、励ますように叩いた。
「かれらをライバルとはいいがたいな」
 こんどもはん子は、ぼくの言葉にうなずかざるをえない様子だった。
「おかしいわね。この社会の人間はみな、ライバル同士ばかりだと思っていたど。………あれをみて」
 と彼女は、石畳のうえを乳母車を押しながらやってきた母親たちをながめた。
「あの二台の乳母車からして、お金をかけあってるわ。きっとあのふたり、腹の底では相手をライバル視しているのにちがいない。赤ちゃんの服や、ガラガラやおしゃぶりだって、おなじよ。もしもあなたが作品にするとしたら、赤ちゃん同士がおしっこの高さを競いあうところも描くといいわ」
 ぼくは彼女のアイデアを頭に刻みこんだ。
 乳母車を押して親たちが、ぼくたちのまえにやってきた。
「あら」
 一台の乳母車が、石畳のすきまにタイヤを落としてしまった。押しても引いてもそれはビクともしない。
「わたしがやるわ」
 もう一人のほうが、乳母車を抱えあげようとするが、やはりあがらず、ぎゃくに足をすべらせて膝を石畳に痛打した。それでも彼女は、膝まづいたまま、懸命にもちあげようとする。
 みかねたはん子が、ひょいと乳母車を石畳から引きはなした。親たちは丁寧に礼をいった。膝から血がにじみでているのをみて、片方が、ハンカチでそれをぬぐった。みかわす笑顔が、爽やかだった。
「あれも、ライバルとは、ほど遠いんじゃないか」
 乳母車とともにはなれていく彼女たちを見やりながら、ぼくははん子にいった。
「こんなはずは………」
 さすがにはん子も憮然としている。
「これじゃ、あなたの作品、いつまでたってもできないわね」
「まあ、なんとするよ。ぼくだって、アイデアのひとつやふたつ、ないこともないんだから」
 そういうぼくを見かえすはん子の目は、あきらかに信じていなかった。
 そこへ、小学生らしい子供たちが数人、かけよってきて、亀の池をのぞきこんだ。
「わあ、たくさんいるぞ」
「ほら、あそこの岩のうえの二匹、おなじぐらいでかいや」
「あ、同時に首をのばしたぞ」
「のびる、のびる。おれのほうが長いんだって、首ののばしっこしてるみたいだ」
「きっとあの二匹の亀、ライバル同士なんだよ」
 子供の口から、ライバルの言葉が出たところで、ぼくもはん子も、やったーと二人、手と手をあわせて飛びあがっていた。


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このストーリーに関するコメント

13/09/07 W・アーム・スープレックス

凪沙薫さん、コメントとはん子へのお褒めの言葉、ありがとうございます。

彼女は総合格闘技をやっているので、力ではとてもかなわない「ぼく」ですが、なんとなくウマが合って、今に至っています。いつも叱咤激励してくれますが、なかなかそれにこたえることができずに苦労する「ぼく」です。
これからもちょくちょく登場すると思いますので、また見てやってください。

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