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たまおさん

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どうか、お幸せに。

13/08/09 コンテスト(テーマ): 第十四回 【 自由投稿スペース 】  コメント:0件 たまお 閲覧数:1406

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 学校が終わり、家へ帰る途中に雨が降ってきた。空を見上げてみたら、薄暗い雲なんて無く、眩しい太陽と青空が見えた。
「……狐の嫁入りか」
 なんだがすごく久しぶりだな、昔はよくあった気がするけど。人の間だけじゃなくて、狐の間でも結婚率が低下しているのかな。この前新聞でそういう記事を見たけど、結婚率が低下している理由に男が頼りなくなってきているからって書いてあったな。男はもっと頑張らないといけないよね。
 とりあえず、運よく近くにあった屋根のあるバス停に避難する。この辺は田舎で人がほとんど通らないから、バス停は貸し切り状態だ。ベンチに腰掛けてまた空を見る。晴れているのに、雨が降っているなんて不思議な気分だ。狐の嫁入りというのだから、今まさに夫婦が誕生しているのだろうか。そう考えたら僕はつい、頭を下げてこう言っていた。
「どうか、お幸せに」
 言い終わった途端、クスクスと笑い声が聞こえ、僕は驚いて顔を上げた。目の前には誰もいない、横をみると少し離れて見知らぬ女の子が座っていた。
 いつからいたんだろうか。全く気付かなかった。女の子は僕の学校と同じ制服を着ている。黒くて長い髪、人形のように整った顔をしていて、なんだか大人っぽい雰囲気を出している。一目見て、綺麗な人だなと思った。白くて細い手で口を隠して、小さく肩を揺らして笑っている。笑い方まで綺麗だな。
「今の……お幸せにって、この天気が狐の嫁入りだから言ったの? 」
 いきなりの質問に動揺してしまう。さっきの言葉を聞かれていたと分かって更に動揺してしまう。やばい、落ち着くんだ僕。こんなだから最近の男は頼りないとか言われてしまうんだ。ここは冷静に対処するんだ。もう顔真っ赤だろうけど。
「ま、まぁ、めでたい事だからね」
 うわぁ、言ってて更に恥ずかしくなってきたよ。言葉にも詰まっちゃってるし。穴があったら入りたい。
「そっか。俗信を信じてるんだね」
「いや、信じてるわけじゃないけどね」
「そうなの?」
「雨を鬱陶しがるより、この雨は祝福するべきものなんだ、そう思った方が良い気がする」
「何が良いの?」
「気分が」
 クスッと、また笑った。こういう笑い方が絵になる人だなぁ。
「そういうものなのかな……。ねぇ、この雨は何なのかな」
「はい? 」
 いきなり何を言い出すんだろうかこの人は。間抜けな声が出てしまったじゃないか。
「狐の嫁入りの雨は、嫁にいく狐の父親が流した涙、とかあるじゃない」
「そういえば言うね。狐が口づけを交わした時に垂れる涎とか」
「それ、何だか夢がないわ」
「そうかな? 汚い気もするけど、それくらい熱い口づけだったって事でしょ?」
「なんだか卑猥ね」
「え、ちょ、ちょっと」
 少し距離を離された。そんな、ディープなアレの事を言ったわけじゃないのに……。
「そういう意味じゃないって!」
「どういう意味?」
 僕が返答に詰まると、可笑しそうに笑われた。そこでからかわれたのだと気付く。
 きっと僕はむくれた顔をしている。それがまた可笑しいのか、なかなか笑いは収まらない。
「わ、笑いすぎ」
「ふふっ、ごめんね」
 少しだけ頬を上気させた顔に、僕は見惚れた。
 なんだか、すべて許してしまえる顔だなぁ。美人ってお得。
「でも、やっぱり涎は夢がないわね」
「そうかなぁ。……結婚ってそもそも夢なんてないと思うけど」
 芸能人は結婚して離婚しての繰り返しだし、離婚事態珍しくない。
「だったら結婚には何があるの?」
「……わかんないよ」
「ドライなのね、あなたって」
 なんだろうこの話の流れは。僕は何故、見知らぬ女の子と狐の結婚について話しをしているんだ?
 少しの沈黙。雨音だけがその場を支配する。
「ねぇ」
「え、な、なに?」
「嫁にいく狐は、幸せになれるのかな」
「…………」
「いつかこの気持ちが冷めたりしないかな? 浮気とかされて、捨てられたりするかもしれない」
「そ、それは考えすぎじゃ……」
「そうなった時にも、あぁ結婚してよかったって、幸せだったって、思えるのかな?」
 そう言う女の子の表情は、とても悲しそうで、少し胸が締め付けられるような感じがした。
 この女の子が何を思ってこんなことを聞いているのか分からない。まだ彼女だって出来たことのない、ただの高校生である僕にそんなことを聞いたところで明確な答えが出てくるだなんて、きっと期待はしてないんだと思った。
 きっと、答えが欲しいんじゃない。言葉が欲しいんだ。
 取り繕った言葉でも、心なき言葉でも、何でもいい。
 何か、何でもいいから、安心したいのだ。
 記憶の片隅から映像が流れ出る。そうだ、これは一緒だ。昔同じような話をした。誰と?
 思い出せない。
 でも、この女の子は望んでる。
 出会ったばかりの人に求めるくらいに。
 応えたい、そう思った。
 だからだろうか、僕はまたしてもバカみたいなことを言っていた。
「狐の嫁入りの雨が何かって聞いたよね?」
「……うん」
「雨は多分、嫁にいく狐が流した嬉し涙なんじゃないかな」
「嬉し涙?」
「そう、嬉し涙。好きな相手と結ばれるんだし、あまりの嬉しさに涙を流してるんだよ」
 恥ずかしすぎる。こんな恥ずかしい事はこれからの人生できっとないだろう。顔が熱くなっていくのが分かる。
 女の子もぽかんとしている。いきなり何をいってるんだ、こいつは、とか思ってるんだろうか。かまわず僕は話を続ける。
「結婚のスタートラインで、嬉しくて涙が出るくらい幸せなら、きっとこの先もずっと幸せなんだと思うよ。少なくとも不幸にはならない……と思う」
 言い切った。顔はもう赤を通り越して変な色になってるんじゃないかと思うくらい熱くなってる。
「ぷっ……! あはははは!」
 笑われた。それも最初に見た、あの上品な笑い方じゃない。お腹を抱えて、大きく口を開いて、目に涙をためながら、大きな声で笑っている。今、僕の頭から蒸気出てないかな? 大丈夫だよね?
「わ、笑いすぎ!」
「あはは……ごめん。うん、そういうの、夢があって好きだなぁ」
 涙を指で拭いながら、笑顔で話す姿を見てまた胸が締め付けられた。
「でも、さっきは結婚には夢がないって言ってたくせに」
「う……」
「慰めてくれたんだよね? ありがと」
「うぐぐ……」
 今なら雨に打たれても、雨の方が蒸発するんじゃないのかな。体も冷えていいかもしれない。うん、そうだ、このまま帰ろう。
「雨、止んだね」
 そう言われて視線を空に移す。雨は止んでいた。くそ、僕を冷やすものがなくなったじゃないか。
 雨が止んでしばらくの間、 僕も女の子も、何も言わず立っていた。二人で空を眺めていた。
 きっと今、二匹の狐が同じ道を渡る決意をして、歩いて行ったんだろう。その先に、何が待ってるかわからない。
 けど、それでも進んでいくのだ。
 夢は無いのかもしれない。未来だって分からない。それでも、きっと進んでいくのだ。
 そこには、揺るぎない何かがきっとあるから。
 不安も何もかも抱えて進んでいける、特別な何かが。
 それが何かも、結婚の意味も、今は何も分からないけど、きっといつか知る時が来る……と思う。
 この雨を降らしている狐は、きっとたどり着いたのだ、その答えに。
 だから、僕は思った。
 幸せの道に、乗れたらいいな、と。
「ありがとう」
 小さくそんな声が聞こえて振り返ると、そこに、あの女の子はいなかった。
 雨上がりの空気は独特の匂いがして、何故だか少し寂しくなった。
 また会えるかな、そんなことを考えながら僕は雨上がりの道を歩き出した。


 次の日、学校の帰り道でまた狐の嫁入りにあった。空を見ると、そこにはやっぱり薄暗い雲なんて一つも無い、綺麗な青空が広がっている。
 あの女の子が誰だったのか、同じ学校の制服を着ていたけど、学校にそんな子はいなかった。
 近所の人に聞いても、そんな女の子は知らないとしか返ってこない。
 そして僕はふと思い出した。あの時、同じような話をした記憶。
 それは姉の結婚式だった。
 あの時、僕はまだ中学生だった。姉はそんな僕に聞いたのだ。
「これで良かったのかな?」
 そういった姉の顔は不安でいっぱいだった。中学生に不安をぶつける程に切羽詰っていた。そんなことを聞くなんて新郎に失礼だと、お父さんは怒っていた。お母さんは姉の心境が分かるみたいで、必死に慰めていた。
 それでも姉の表情は晴れなかった。
 僕はその時、何て言ったのかを実はよく覚えていない。
 結局、姉は現在、子供も生まれて仲のいい家庭を築いている。
 何であの時、あんなにも不安がってたのかと拍子抜けするほどに、姉はあっけらかんと結婚式は幸せだったと語る。僕はあまり理解できなかったし、納得いかなかった。
 いつだったか、「あの時のお姉ちゃんはマリッジブルーだったのよ」と、お母さんから教わった。
 結婚前に、どうしようもなく不安に駆られるのだとか。
 それは仕方ないことなんだと、お母さんは言った。それはそうだ、これから二人三脚で歩いて行かないといけないのだ。
 これまで一人で歩いていても色んなことに躓いていたのに、二人で歩くだなんて、もっと不安になって当たり前だ。
 だとすれば、あの女の子もそうだったのだろうか。
 マリッジブルー。
 結婚前の、憂鬱。
「狐の嫁入り……か」
 青空から落ちてくる雨粒を手のひらで受けながら、ため息をついた。
 分からないことは多い。
 不確かな事ばかりだ。
 けど、分かっていることもある。
 この雨は、何処かの狐が流した嬉し涙だという事だ。
 だからこそ僕は雨に打たれながら、
「どうか、お幸せに」
 またあの一言を言うのだった。


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