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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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エイリアン、武士道を知らず

13/08/05 コンテスト(テーマ): 第十四回 【 自由投稿スペース 】  コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1725

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 その武芸者は、十日ほどまえ、ふらりと村にあらわれて、滝のそばの岩穴にすみついた。
 それは粗末な身なりで、けっして豊かとはいえない村人たちのほうがまだ、贅を凝らしてみえたほどだった。
 武者修行中ということらしいことだけは、風のうわさで村人たちの耳にも伝わっていた。
 男は小柄で、肩幅もせまく、これで本当に刀がふりまわせるのかと疑いたくなるほどきゃしゃな体つきをしていた。毎日大地と格闘している農民たちの目にそう映ったのも無理はない。
 男は、たまに村人たちと顔をあわせると、きまってにこりと笑みを浮かべた。
 武芸者が笑うなどということがあるのだろうか。そりゃ、武芸者も人間なのだから、笑ってもおかしくはないのだが、斬りあいによって勝敗を決する剣士は常に、きりきりした緊張感に表情を引き締めているものだという固定観念が村人たちにあったのだ。
 まあしかし、本来人がいい村のものたちは、じぶんたちの村で男が修行をすることを、暗黙の了解で、ゆるしていた。べつにだれにわるさをするわけでもなく、沢蟹やタニシ、山に生えている芋やアケビを食べて暮らしている彼に対して、文句をいうものはさすがにいなかった。
 ただ、村の悪童たちにとっては、そんなどこが頭やら尻尾やらわからないような人間ほど、からかいがいのある対象はなかったとみえ、ときどき滝のほうにでかけては、男にむかって奇声をあげたり、なかには露骨に「ばか」と叫んだりした。
 八郎太という悪童たちのリーダー格が、いつもみんなを扇動して、滝までやってきた。
 いるいる。滝のふちの岩場に立って武芸者は、こちらに背をむけるかたちで立っている。
「きょうは、石を投げてやろうぜ」
 いつも罵声を浴びせるだけでは満足しなくなって、八郎太はそんなことをいいだした。
「だいじょうぶかな」
  度胸では八郎太におとらない仙吉だったが、さすがにためらいをかくせなかった。
「さむらいだぜ。エイと無礼うちされたら、どうするんだ」
「子供にからかわれて、刀を抜くさむらいがあるものか。そんなことしたら、みんなからもの笑いだ。それに、茂みの影から投げるから、だれだかわからないさ。もし追いかけてきたとしても、このあたりの地の利は、おれたちのほうがよくしっている。簡単に逃げられるよ」
 仙吉もそれにはうなずいた。逃げ足にかけたら、だれにもひけはとらないだけの自信があった。
  ここにいる五人は、空を飛ぶ鳥を石礫で落とすほどのコントロールの持主たちばかりだった。広い川のこちら側から、向かい岸の喧嘩相手に見事命中させることだってできるほどだ。あそこにいる武芸者なんか、目をつむっていたってあてられるだろう。
「やってやろう」
 みんなは足元から手頃な石ころを拾った。
 五人のなかで一番巨体の樽五郎なんかは、小さな西瓜ほどもある大きな石を握っていた。
仙吉は、目をみはった。
 あんなのがまともにあたったら、命だって失いかねないだろう。
 村相撲でもいつも優勝している樽五郎だから、その腕力は半端じゃない。それはよせ、死んじゃうぜ。仙吉が声をかけようとしたときには樽五郎ははやくも、ブンと腕をふりまわして石を、武芸者めがけて放り投げていた。
 うなりをたてて樽五郎が投げた石は、まるで武芸者に吸い寄せられるかのように猛スピードでとんでいった。
 当たる。だれもがそう思ったにちがいない。
 だがその直後、みんなの耳にかえってきたのは、人間にあたる重たく鈍い音ではなく、堅いものに当たってはね返る甲高い音だけだった。
 仙吉は、あれっと目をみひらいた。
 樽五郎の投げた石はたしかに男の頭にぶちあたったはずだった。男が首をすくめた様子はない。膝もまげていない。男はあくまでその場にじっと立っていた。
「おかしいな」
 投げた樽五郎がしきりに首をかしげるのに、八郎太が、
「みんなも投げろ」
 とけしかけると、他のものたちはてんでに石を投げ始めた。
 だが、飛ぶ鳥に命中させることのできるかれらの石礫も、すぐむこうでじっとしている男には、なぜかかすりもしなかった。
「こんなはずは………」
 みんなはふたたび石を拾うと、むきになって投げはじめた。しかし投げても投げても石は、どういうわけか男の向こう側の岩に当たるばかりだった。
「どうなっているんだ」
 そのうち途方にくれだすみんなにむかって、それまで背をむけていた男がふりかえりざま、明るい声でよびかけた。
「残念ながら、おまえたちの石はみな、はずれだな。こちらにこないか」
 緊張にすくみあがるかれらをみて、男はかろやかに笑い出した。
「案ずるな。だれも無礼うちにしたりはしないから。だいいち、わしはいま、刀をもってない」
 たしかに男の腰にも、彼の周囲にも、刀はみあたらなかった。そのことは悪童たちを気丈にさせた。八太郎をあたまに、ぞろぞろと男のところに歩み寄っていった。
「どうしておらたちの石は、あたらなかったんだろう」
 おのずとその疑問が八郎太の口からすべりでた。
「石の速度より、わしの動く速度のほうが、はやかっただけさ」
 こともなげに男はいった。
「え、おさむらいさんは、ちっともうごいてなかったけど」
「おまえたちの目にはとらえられなかったんだ」
 それをきいた悪童たちが不審そうに眼をみかわすのをみて男は、またからからと笑いだした。
「どうだ、相撲でもとらんか」
 相撲ときいて、樽五郎の目がにわかにぎらぎらとひかった。
 いちばんチビの茂作が、人一倍胸をはって、
「この樽五郎は、村相撲の横綱だよ。おとなのだれも、かなわないんだから」
 すると男は、じぶんの胸をひとつ、どんと叩いた。
「遠慮せず、かかってこい」
 いいながら、岩場から雑草のはびこる砂地におりていった。
 そのかれのあとを、手にぺっと唾をはきかけながら、はやくもファイト満々の樽五郎が追いかけた。
 樽五郎は二度三度、その場で四股をふんだ。さすがに迫力満点で、さっき石が当たらなかった分、これで挽回してやろうという意気込みが、ありありとその顔にあらわれていた。
「はっけよい」
 仙吉が行司になって柏の葉の軍配をあげた。
 樽五郎はあたまから猛烈なぶちかましをしかけた。このぶちかましで彼は、このまえの相撲大会で、なみいる屈強な大人たちを次々と土俵の外にはじきとばして優勝したのだった。
 あきらかに、男のほうが小柄で、これではひとたまりもないなとだれもがおもったそのとき、どしんと樽五郎が地面に手をついた。
「あれ、足がすべったのかな」
 樽五郎と男のからだが衝突したとたん、樽五郎はなにもしないうちに前におちていた。
「おさむらいさん、もう一番だ」
「いいだろう」
 おらは本気になるぞと、鼻を腕でこすりあげると樽五郎は、獰猛な犬のような顔つきになって、男に飛びかかっていった。
 が、またしても彼の体は、あっけなくうしろにもんどりうった。
「樽五郎、どうしたんだ」
 八郎太には、彼が自分から倒れているようにみえてならなかった。
「おかしいな、当たったとたん、体から力がぬけちゃうんだ」
「マジで本気でかかれよ」
 子供でありながら、米俵を二表、軽々とかつぎあげることができる樽五郎だった。八郎太たちがどなりつけるのも無理はなかった。
 すると男が、みんなにむかって、
「おまえたち、束になってかかってこい」
 これにはみんなは、かちんときた。周囲の村の悪童たちとの喧嘩では、全戦全勝をほこる八郎太たちだった。
「おい、みんな。わかってるな」
 八郎太のめくばせに、仙吉と茂作はうなずいた。小兵のかれらは男の足を、八郎太と樽五郎は上半身を、あとひとり機敏な桂介はバッグに回る。一瞬にしてかれらは、じぶんたちのポジションをふりわけたのだ。
 五人はいっせいに男にとびかかっていった。
 その五人が、男のからだにふれたとおもった瞬間、みんなばらばらと地面にはじけるように倒れてしまった。樽五郎がさっき口にした、脱力の意味が、いまかれらにも理解できた。まったくからだに力がはいらなかった。
 このとき童たちは、じぶんたちが相手にしている男の、底知れない力量を身をもって感じていた。
「おさむらいさん、幻術でもつかうのか」
 まだ信じかねない表情で八太郎はたずねた。
「合気柔術といってな、ふれたとたん、相手を無力にしてしまう技術なんだ」
「どんな相手でもかい?」
「どんな相手でもだ」
「おさむらいさんは、その術の修行に、ここへきたのか?」
「いやちがう。これは、金をもらっておしえるんだ。拙者といえども、雲をくっては生きていけんからな」
「金のかわりに、畑でとれた野菜で、おらたちにもその合気なんとかいうの、教えてくれないか」
「何十年とかかるし、やったからといっておぼえられるものでもない。最初からやめといたほうが賢明だ」
「おさむらいさん、これからもちょくちょく、きてもいいか」
「ここはおまえたちの村だ。好きにすればいいだろう」
 それをきいたみんなは、歓声をあげてよろこんだ。
 なんだか得体のしれない男ではあったが、それだけに、魅力にあふれていた。ふしぎな技でじぶんたちを脱力してしまう彼が、刀をとったらいったいどんな凄技をみせるか、かんがえただけで身震いがおこるほどで、もうそれだけでかれらは男を、村のだれよりも崇拝する気持ちになっていた。
 八郎太たちは、男から時田斉加年という名をききだすと、そのおぼえにくい名をくりかえし口にしながら、親たちのいる里におりていった。
 
 ☆  ☆  ☆ 
 
 モニター画面は、五人の子供たちをいつまでもとらえつづけていた。
 音もなく飛び、姿を不可視化しているスパイアイが送りつづけるそれは映像だった。
 むろん子供たちに、その気配をさとられることは、百パーセントなかった。
 この村には五十一人の大人と、約その半分の子供たちがいた。いや、たったいま、よそからきた男をひとり、確認したばかりだった。
「コイツハ何者ダロウ?」
 シュラはモニターに、男の映像を再現した。さっきの子供たちとのやりとりの場面だった。
「村人タチニヨルト、武者修行者トイウコトダ」
 ビシャがこたえた。
「刀トイウ原始的ナ武器ヲフリマワス………」
 そのことがよほどおかしいとみえシュラは、水蒸気のためつねにぬれている顔を、なみうたせるようにして笑った。
 これが人間だったら、ぷっと吹き出し、歯をむきだしにしてげたげた笑い転げたところだろうが、もともと脆弱な身体で、おまけにこの惑星の重力下ではとてもそんな芸当はできないかれらだった。
 それにしても、こんな刃物で斬りあいをする種族がいたとは………。
 まったく宇宙はひろい。これまで超近代的兵器を駆使する惑星の人間を相手にばかりしてきたかれらにとって、そんな子供のおもちゃのような武器を扱うこの世界の人間が、むじゃきそのものにおもえてしかたがなかった。
 いま二人からうかがえるゆるぎない余裕も、そんなあたりからきていた。
 有人惑星をみつけては、その惑星の人間たちを捕獲し、精神を洗脳し、肉体を改造して侵略のための兵士にしたてあげ、次々に支配してきたかれらだった。すこしは歯ごたえがあるほうが、かれらにしてもやりがいはあった。今回目星をつけた惑星は、あいにくそれはなさそうだった。侵略は、てもなく成功するだろう。
「そろそろ、はじめようか」
 シュラがいった。
 この星にきてすでに三日。下準備はすでに終わっていた。スパイアイによる観察、村のものたち全員が飲料水にしている水源地の確認、さらには天候の変化や周辺の村の人口調査にいたるまで、かれらはすべて把握していた。
「まず、最初のひとり捕らえよう」
 なにごとにつけ用心ぶかいビシャが提案した。
「そんな必要があるかな。さっさと全員とらえてしまったほうが、てっとりばやいんじゃないか」
「まあそう短気をおこすな。肉体に巣食うウィルスや細菌、そして病原菌の有無をたしかめないことには、あぶなくて手がだせない」
 かれらがいまいる着陸用小艇内はむろん、完全滅菌されていたが、ビシャのいうとおり、外からどんな病原体が侵入するかはだれにもわからなかった。パワースーツの酸素吸入孔には無論、殺菌フィルターがとりつけてあったが、潔癖症のビシャにはそれだけでは不安だった。
 まずひとり確保し、徹底的に血液を調べあげ、なにかひっかかればただちに抗体を作る必要があった。
 三十分後、シュラとビシャのふたりは、パワースーツに身を包み、船外に出た。仮にこのとき表にだれかがいたとしても、不可視処理されたスーツを着た二人の姿は、かれらをこの地上に連れてきた着陸用小艇同様、人間の視覚でとらえることは不可能だったにちがいない。
 あらゆる惑星のどんな過酷な条件下でもやっていけるように加工されたこのスーツの着用により、かれらの脆弱な肉体に負担をかけることなく通常の動きこなすとが可能だった。
 何千度の高熱にも、何トンという衝撃にも耐えれたし、そのパワーたるや、村に棲息するこの国最強の熊の頭をも、一瞬に粉砕することができるほどだった。
 だからこのときのふたりも、まさに威風堂々とした足取りで、研究材料の捕獲にでかけたのだった。それならなにも身を透明にすることもないだろうにと思うが、それにはちゃんとした理由があった。
 かれらの体にはたえず、両生類がそうであるように、大量の水分が必要だった。乾燥化は大敵で、長時間続くと致命的なことになりかねなかった。これが高温の惑星などだと、最初から完全密封にして、水蒸気発生装置により加湿をはかるところだったが、この地上のゆたかな大気を利用しない手はなく、スーツの胸部にあけた穴から、新鮮な酸素をとりこみ、それを水蒸気にかえて全身にゆきわたらせるようになっていた。
 胸部に開いた直径三センチ程度のメッシュ地でふさいだ通風孔―――これが唯一のアキレス腱といえないこともなかった。だが何びとが、パワースーツの威力を無視して、この急所を攻撃することができるだろう。
 そしてその万が一の可能性さえ、姿を透明にすることによって完全に打ち消してしまったのだった。
 シュラとビシャの二人は、あの男のいる里山の方向をめざした。
 あの男がターゲットにえらばれたのは、彼が単一行動しているということもあったが、たまたま彼の居場所が、着陸用小艇のそばにあったという単純な理由によるものだった。この地上に、かれらをおそれさせるものなど皆無だった。病原菌の問題さえクリアすれば、あとは一網打尽に、村人狩りをはじめるつもりだった。
 男は、岩穴にはいなかった。
 二人のヘルメットに装着された生体探知装置によって、ターゲットは、森の中にいることが判明した。念のため、スパイアイを男のいる位置までとばして、モニターに映し出したところ、男はひとりで刀をふりまわしていた。
「アンナ有効範囲ノ短イモノデイッタイ、ナニガデキルトイウノダ」
 かれらは、ひとつの警戒心もいだくことなく、森のなかを進んでいった。
 やがて前方のひときわ巨大なクヌギの樹のしたに、男の姿をみとめた。
 男はいまも、両手ににぎりしめた刀で、周囲の空間を意味もなく切り裂いていた。ときおり、なにかを切断する音がひびき、直後に葉をしげらせた枝が、つぎつぎに彼の足元におちてきた。シュラの肉眼には、閃く刀がいつそれを切ったのか、どうにも捕らえられなかった。
 しかし、そんなことも、かれらの歩みをとめることはなかった。無造作なまでにずかずかと、シュラとビシャは男のところにちかづいていった。
 ふいに男は、刀を鞘にもどした。そしてぴたりと、いっさいの動きをやめた。
 シュラは、男のまぶたが、半ば閉じられているのをみた。この惑星の人間は、刀をふりまわして疲れたら、立ったまま眠る習慣があるのか。
 いずれにしろ、ちょこまかうごきまわられるよりは、好都合だった。シュラは前を、ビシャは男の後ろから、迫ることにした。
 あたりの空気が、ピーンとはりつめている。さっきからどこからも、コトリとさえ物音がしなくなった。
 シュラはこの、時間が凍りついたような状態をふりはらうかのように、じぶんにいいきかせた。おれたちの姿は相手の目にはみえていない。相手は凝固したように動かない。おそれるものなどなにもないのだ。
 彼はそして、男をつかもうとして、腕をのばした。
 なにかが目のまえできらりとひらめいた。
 シュラがみたものは、それだけだった。
 胸に鋭く熱いものを感じた瞬間、すべては終わっていた。
  
 *  *  *
 
 時田斉加年は刀をおさめた。
 なにかがじぶんにせまってくる気配がした。
 研ぎ澄まされた彼の神経は、そのせまりくるものの存在を心眼に描きだした。それがなにかはわからなかった。だがすでに、彼の鍛錬に鍛錬をかさねた身体は、二体の物体に対して攻撃体勢をとっていた。
 武術の神髄は、一瞬にして命をやりとりすることに尽きる。
 逸早く相手の隙、油断を的確に見破ると同時に瞬時に、その場所に致命的な一撃をくわえなければならない。
 この刹那、斉加年にはいっさいの意識はなかった。意識したときにはすでに、彼が放った突きは、まず前の敵を、返した刀で背後の敵の胸を、あやまたず抉ったあとだった。
 すべてが武術家の勘のなせる業だった。
自分の前後で、なにか大きなものが物音を立てて倒れる気配がした。堆積する木の葉の上に、目にみえないものの重みで、なにかひとのかたちのようなものがあらわれはじめた。
 これはなにか………。
それがなにものかは、ついに斉加年に知るにいたらなかった。
 だが、これだけは理解できた。じぶんをねらった相手は、この国の武士というものを知らなかった。
 敵とむかいあったとき、臆することを恥じとし、相手を斬り殺さねばじぶんがころされるという絶体絶命の境地にたったとき、その研ぎ澄まされた精神は、五感がとらえるもの以上のものを感じ取り、常人には考えられない超人的な能力を発揮する。
 侵略者たちにとっての不幸は、この国独自の武士道を知らなかったことにつきる。

 
 



 


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