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梅子さん

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無口なおとうさん

13/08/04 コンテスト(テーマ):第三十六回 時空モノガタリ文学賞【 無口な人 】 コメント:3件 梅子 閲覧数:1312

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「とーちゃんがいない間な、こいつが俺の代わりに美代のとーちゃんしてくれるからな!仲良くするんだぞ!」

「すごーい!おっきいー!おとうさんありがとう!」


ドアを開けて、ただいまと言いながら部屋にはいる。午後10時、ラップしてある晩御飯と“おとうさん”がダイニングで私の帰りを待っていた。
10年前、お父さんが自分の代わりにと置いて行った大きい大きいテディベア。お母さんが着せたTシャツからはお父さんの匂いなんてすっかり消えてしまっていたし、テディベアと変わらなかった私の身長もうんと伸びて今ではすっかり“おとうさん”を追い抜いてしまっていた。

着替えて、晩御飯をあっためて、“おとうさん”の前に座る。テレビをつけて、今日あったことなんかを“おとうさん”に報告しながらふたりでご飯を食べる。お父さんが死んでしまって、お母さんが夜の仕事を始めてからずっと変わらない光景だ。

おはようもおやすみなさいも、嬉しかったこと、悲しかったこと、恋愛の話はなんだかはずかしくてできないけれど、私は毎日“おとうさん”とたくさん話をする。無口な“おとうさん”は返事なんてしてくれないけれど、「うんうん。」と聞いてくれているような、そんな気がしてならないのだ。

そんな私を見て、お母さんはいつも悲しいようなつらいようなそんな笑い方をする。部屋の片隅にあるお父さんの仏壇に未だ手を合わせない私をお母さんは一度だって叱らなかった。わかっているのだ、お父さんは死んでしまった。もう10年も経つのに、それでも私はまだ“おとうさん”にしがみついて、お父さんをちゃんと送り出してあげられずにいるのだ。

明日にはもう二十歳になる、あと10年もせずにお父さんの歳を追い抜いてしまうのに。もう10年経ったら私はお父さんをしっかり送り出してあげれるようになるのだろうか。

今日はバイトも忙しかったし、もう寝てしまおう。風呂に入って“おとうさん”におやすみをして、寝室に行こうとした、その時、

「美代」

お父さんの声がした。

耳を疑った。10年経っても忘れない、間違いなくお父さんの声だった。
焦る私をよそにお父さんは話し続ける。

「美代、聞こえるか?お父さんはな、今病院で病気と闘ってる。家には帰れないからな、美代には寂しい思いをさせると思う。ごめんな。こいつは少しはお前の支えになったか?」

“おとうさん”だ。
目の前の“おとうさん”が突然私に語りかけてきたのだ。

「それでだ。美代は今日で二十歳になってるんだよな。二十歳の美代かあ。美代はかーちゃん似だからな、きっと美人になってるんだろうな!まさかまだ結婚なんてしてないだろうな!確かにとーちゃんとかーちゃんは…」

ぼろぼろとこぼれる涙が止まらなかった。
たまにがががとノイズが入って聞こえづらいけれど、懐かしいおしゃべりなお父さんの声だ。「その話はいいわよ!」と今より少し高いようなお母さんの声もする。

「怒られちまった、ははは。美代、もうとーちゃんがいなくなってからどのくらい経った?美代の制服姿、見たかったなあ。運動会も行ってやれんでごめんなあ。」

そうだ、小学校の頃、運動会では子供たちが親と一緒に参加する競技があったのだ。その年はパン食い競争だった。一緒に出たいとお父さんの病室で幼かった私は駄々をこねて「よくなったら一緒に出てやるから!な!」となだめるお父さんを大層困らせてしまった。

そのあともお父さんは次から次へとたくさんのことを私に話してくれた。いつも言っていたおやじギャグ、そのたびに聞こえる二人の笑い声。懐かしい家族の光景が目の前にあるみたいだった。

「少し話しすぎたかな、美代、とーちゃんはな、お前が大好きだ。優しくて賢い自慢の娘だ。20歳にもなればなもっといい子に成長してるに違いない。お前は優しい子だから、その分苦労することもあるかもしれない。それでもお前はしっかり乗り越えていけると、とーちゃんは思ってる。だってとーちゃんとかーちゃんの自慢の娘だからな。」

「とーちゃんはかーちゃんと結婚してお前と出会って本当に幸せだ。美代、出会ってくれて本当にありがとう。本当に大好きだ。」

「二十歳の誕生日、おめでとう、美代」

かちゃり、と音がして、そこにいたのはいつもの無口な“おとうさん”だった。



次の朝、“おとうさん”にいってきますをして、そして、仏壇で笑っているお父さんに手を合わせた。

きっと全部知っているだろうお母さんは何も言わなかったけれど、隣で一緒に手を合わせた横顔は穏やかだった。


ありがとうお父さん
そして“おとうさん”。


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このストーリーに関するコメント

13/08/06 青海野 灰

「神様」の後に拝読致しました。泣きそうになりました…
「にげられないかみさま」から連続で心を掴まれ、ファンになってしまいそうです。
テディベアの中にタイマーで再生されるカセットレコーダでも仕込んであったのでしょうか。
幽霊とかの奇跡めいたものではなく、もういない現実の人間の工夫による愛と救いに、胸が震えました。
大変面白かったです。次作も楽しみにしております。

13/08/07 梅子

>青海野灰様
にげられないかみさまに続きコメントありがとうございます。
ファンだなんて滅相もない...!ですがそう言っていただけて嬉しいです。
お父さんの声についての説明は一切加えておりませんでしたので不安でしたが汲み取っていただけたようで安心しました。
また楽しんでいただけるような作品が書けたらなと思います。
ありがとうございました。

13/08/10 梅子

>凪沙薫様
コメントありがとうございます。

そうですね。様々に記憶媒体が発展してきた今日、大切な思い出や面影をしっかりと残せるようになっていると思います。
しかしそれがすべてよいことなのかは私としては疑問でもあります。

この前は心が痛くなってしまうような話でしたので、今回は救いのある話を書こうと思っていて、優しい気持ちになれたと言っていただき光栄です。

ありがとうございました。

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