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クナリさん

小説が出版されました。 『黒手毬珈琲館に灯はともる 〜優しい雨と、オレンジ・カプチーノ〜』 マイナビ出版ファン文庫より発売中です(表紙:六七質 様)。 http://www.amazon.co.jp/dp/4839958211 twitterアカウント:@sawanokurakunar

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将来の夢 絵本作家
座右の銘 明日の自分がきっとがんばる。

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神様砕き

13/08/01 コンテスト(テーマ):第三十七回 時空モノガタリ文学賞【 神 】  コメント:5件 クナリ 閲覧数:2030

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転校ばかりの、少女時代だった。
父の仕事が何だったのかは今も知らないが、廃屋のような家ばかり転々として来た。
母は熱心なクリスチャンで、薄暗い部屋の中、よくロザリオを拝んでいた。
艱難辛苦は神様の試練だから耐えなくちゃいけないのよ、と母はよく私と弟に諭した。そんなばかなと思いながら、私達はうなずいた。

私にとって、思いが共有出来るのは同じ境遇の弟だけだった。
私達はいつも二人で遊んでいた。男勝りだった私は、よく二歳下の、女の子のような顔立ちの弟に自分のスカートをはかせ、『王様と姫』ごっこを強要した。弟は恥ずかしがりながらも、付き合ってくれた。
私が中学生になる頃、母が「もう弟にスカートをはかせるのはよしなさい」と言って来た。
それからは、
「ね、遊ぼうよ」
と弟を誘っても、
「よその子と遊べってさ」
と断られる。
それは、寒気がする程の寂しさだった。唯一の相互理解者だった弟を母に取り上げられたと思うと、悔しかった。
これも試練ですかね、とよく胸中で毒づいていた。

私は気が強く活発で、男の子のようだった。
高校では女子達がそんな私に群がり、下手な男子よりももてた。未だに弟の分だけ胸に空いていた穴を、この子達で埋めようかと考えた。
初秋のある日、大人しいけれどいつも私を熱っぽく見ていた女子を、家に誘ってみた。その子は赤い顔で、やたら緊張しながら、でもどこか嬉しそうに着いて来た。
相部屋の弟はおらず、二段ベッドの下の段に二人で座った。彼女の赤面が増す。
「私といる時、顔、いつも赤いね」
「えっ」
困り出す少女の不安定さが可愛く、好感と、不思議な興奮が湧いた。
「男みたいな女が、好き?」
トマトのような彼女は、ばっと私を見た。
目が合って。
つい、魔が差す。
次の瞬間、私は彼女に唇を重ねていた。彼女は、逃げなかった。
ドアの脇に、弟が立っているのに気付いたのはその時だった。
私達はひゃあと叫び、彼女が部屋から転がり出て行く。
弟は、
「変なことするなよ」
と自分の勉強机に座った。その冷静さに、私の頭に血が上った。
「元はといえば、誰の!」
私は押入から赤いゴアド・スカートを取り出して、
「はいてよ」
「嫌だ」
拒絶され、逆上が加速する。つい弟をベッドに押し倒し、ベルトを外した。
「何で、一人で置いてくのよ!」
「やめろ!」
構わずに、弟のズボンを下ろした。スカートをはいたら昔の弟が戻って来る筈だと、ありえない望みにすがって。そう血迷うくらい、寂しさは私を侵していた。
「何をしてるの!」
いつの間にか、ドアの前に母が立っていた。
致命的な誤解が生じたのを、私達は感じた。
翌日、弟は叔父の家に引き取られて行った。
年頃の姉弟を同室にした自分が悪かった、と母が気色の悪い勘違いをしていた。

父は、家の面倒から逃げ、留守がちになった。
確かに私も、私と顔も合わせずにロザリオを拝む母と暮らすのは、苦痛だった。

数日後、学校から帰ると、台所で母が首を吊っていた。
私は慌てて母を下ろし、119番を入れた。
救急車を待つ間にふと見ると、母の左手首にあのロザリオがはまっていた。
家族の誰もに嫌気が差した時、母には、神様だけが残ったのだろう。だから、その御許へ行こうとしたのか。
私には、責められない。ずっと母を疎ましく感じていた、私には。
救急車のサイレンが近付いて来た。

母は一命を取り留め、入院した。
軽度の記憶障害を起こしていたが、それも順調に快復しており、じきに私と弟の『事件』に記憶が到達する。その時、母はどうするだろう。
改めてなお、神様の下へ行こうとするだろうか。
その時私は再び、母を懸命に助けるだろうか。
私達家族は、神様に勝てるだろうか。
勝たなければ、いけないのだろうか。
私はこの人に、生きて欲しいと願っているのだろうか。
その答は、私一人で出せば、必ず間違えてしまう気がした。

母の午睡中に、弟が病室へ入って来た。父と違い、結構頻繁にお見舞に来る。
「神様って、厄介だよね」
私が唐突にそう訊くと、弟は、
「人間の方が面倒だよ。だから勝てるよ」
心を見透かされた気がして、驚いた。
「俺も、多分同じようなこと考えてた。神様に負けるのは、一人でいようとする人だけだから、そうさせない。あと、お客さん」
弟の横から、あの子がおずおずと現れた。
「あれ」
「あの……大変だったって聞いて……」
おかしいな。私は孤独だったはずなのに、周りに人が増えている。
混乱しつつも、ひとまず、言わなければならないことを口にする。
「二人とも、あの日、ごめんね。それに、ありがとう」

試練とやらは、これからも続くのだろう。
きっと、神様ごときよりもずっと厄介な人々の間で。
仕方がない。だって、一人ではないのだから。

そして、母が起きる気配がした。


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このストーリーに関するコメント

13/08/02 メラ

面白かったです。底暗い雰囲気でありつつも、カタルシスのある見事な作品ですね。
人の心の歪み、そして悲しさ。これをこうして作品に仕上げるのは、作者の深い想いがなければできません。クナリさんの優しい心が伝わります。

13/08/02 クナリ

凪沙薫さん>
家族というのはつながりが切れないがためにこじれると大変で、当たり前につながっていると思ったものに裏切られたと思ったりするともうこれはたまったものではなくて、思春期にそんなことがあったりすると簡単に家族という単位なんて壊れてしまうんだろーなーと思っています。
その中でも、人間関係に光明を見出すことができればいいなあとも。
その辺が、自分の作品の中に発露されているのかもしれませんね。
救いというほど、明確な形になればいいのですが…。

メラさん>
ラストシーンの主人公には、何か明確にいいことがあったわけでもなんでもないんですが、相手に迷惑をかけるだけのことになる可能性があったとしても、何かしら自分が行動するからこそ返ってくるものもあるわけで、そんな思いからわずかばかりに仕込んだカタルシスでしたが、汲み取っていただけてうれしいです(長い)。
いーーーーえーーーーーやさしくはありませんよこれっっぽっちもーーーー。
自分に弟がいたら、おやつのオレオを二つにぱくっと開いて、クリームのついてないほうのクッキーのみを弟に与えると思われます。
薄情の権化です。

13/08/05 クナリ

凪沙薫さん>
ありがとうございます。
文言には非常にうなずけるものがあるんですが、
今の自分と村上春樹御大ではまったく違った感覚
なのでしょうね。
ラスト二行については、以前絵を描いていたときに
この感覚を味わいました。
一生懸命やったことが、ただの過去なのに、意外と
自分を助けてくれることがあったりして。



13/08/14 そらの珊瑚

クナリさん、拝読しました。

タイトルを読んだとき、神の像が振り下ろしたハンマーで粉々に砕けている絵が浮かびました。
いつかこの家族が神様に勝てますように。
きっと勝てる日がくるように思います。一人ではないのですもの。

13/08/17 クナリ

そらの珊瑚さん>
お読みいただき、ありがとうございます。
神様というのは自分にとってけっこう重要なテーマでして。
正確には神様を頂くだめな人たちと、その壊滅や再生に興味があるといいますか。
『誤った信仰(者)に対してガツンとやったるカタルシス』みたいなものを最終的には表現したかったりします(なんのこっちゃい)。
宗教自体は良いものだと思うんですけどね。
一人だと神には勝てないですねー。
自分の脳の中にいる存在ですからね、自分が他者の存在を認識できない状態では勝ち目がないですねー。

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