1. トップページ
  2. あまのじゃく

つぐさん

性別
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

あまのじゃく

13/08/01 コンテスト(テーマ): 第十三回 【 自由投稿スペース 】  コメント:0件 つぐ 閲覧数:1436

この作品を評価する

先ほどから私の左肩が重い。サークルでのスキー旅行の帰り、夜行バスの中はとても静かだった。なので、後ろのほうで誰かがいびきを掻いているのがよく聞こえる。昼間の元気と引き換えに、みんな疲れ果てているのだろう。私の隣の席からも寝息が聞こえてきた。それも私の耳元でだ。
私の左肩には斉藤の頭が乗っている。バスが揺れた弾みで体が傾いてきたのだ。意識がないにしろ、人の肩を使うとは図々しい男である。斉藤の顔に視線を向けると、一瞬だが見とれてしまい、不意打ちを食らったような気分になる。
『整ってるんだよなぁ……』
普段は意識しないが、あらためて見ると、彼女が途切れないのも納得してしまう。しかし、所詮は顔だけの話だ。こいつの醜態を見てきた私には、何がいいのかとても理解できない。
斉藤とは中学からの腐れ縁だ。気がつくと同じ高校に進学し、同じ大学に行き、同じサークルに所属する、というところまで来ていた。そして、いつからか斉藤は女に対してどうしようもないくらい、だらしなくなっていた。
なかでも酷かったのが、私が友人の家に泊まりに行った時のことである。その日は突然友人から電話があり『斉藤を含む男子5人が自分の家に遊びに来ているが、女子が自分一人しかいないので来て欲しい』と言われた。迷ったが、酒が出ると聞いてホイホイ行ってしまった私は馬鹿だったと思う。ほどよく酒が回ってきて、誰を先に潰してやろうかと周りが盛り上がってきたころ、私は友人と斉藤がいないことに気がつく。リビングから廊下を見ると、奥の部屋のドアが薄く開いていたので、中を覗きにいった。そこで、私はすぐに後悔することになる。
もともと友人は、男癖が悪いことで噂になっていたが、まさかここまでとは思わなかった。部屋の中は薄暗かったが、ドアの隙間から友人の姿が目に飛び込む。驚きとともに、猫みたいだなぁと、思考はあさっての方に向いていた。けれど、猫にしては可愛げが無い。むしろ、言葉にできない生々しい感覚が嫌悪感となって心中を渦巻いていた。友人に覆いかぶさる様にしていた斉藤と目が合い、はっとする。けれど、やつは止めるどころか気にしない様子で、部屋からよりかん高い声が聞こえた。
その後の記憶はあやふやで、朝目が覚めるとリビングは大惨事。潰しあいは相打ちになったようだ。斉藤は早々に帰宅し、友人もいつも通りの人間に戻っていた。「男の子相手に無茶しすぎだよ」と言われ、「お前だろ!」と言いそうになったが、飲み込むことにした。そもそも、私は潰しあいに参加した覚えはない。気づいたらみんな勝手に潰れていたのだ。不満に思いながらも、私は甲斐甲斐しく、潰れたやつらの世話をしてやった。
数日後、友人が私に「斉藤と付き合うことになった!」とわざわざ報告してくれた。タダで飲み食いしたとは言え、巻き込まれて損をしたのは私だけか、と理不尽に思う。
けれど、人騒がせをして斉藤と付き合った友人も長くは続かなかったらしい。後日、友人が「やり逃げされた」と言って嘆いている姿を見かけた。
その後、斉藤は私と仲の良い後輩と付き合った。後輩は癒し系の可愛らしい子で、斉藤のことが好きだと言っていた。よりによってなぜ斉藤なのかと疑問に感じたが、後輩があまりに嬉しそうなので、それでもいいかと思っていた。ところが、それもすぐに別れてしまい、斉藤は他の女に手を出している。何が気に食わなかったのか、私にはさっぱり分からない。女癖の悪さにはあきれたものである。
しかし、私にとって一番の疑問点はそこでは無い。それだけなら勝手にやってくれという感じだが、斉藤は私に対して口が悪く、ついでに態度も悪い。斉藤は何かにつけて、私に突っかかってくる。こちらは穏便に会話をしようというのに「うるせぇ」だの「うざい」だの言われて、蹴りをかまそうとしたり、殴るふりをしたりしてくる。いつだったか、睨まれて死ねと言われたときは、不覚にもちょっとびびってしまった。
私は、元々女らしい性分ではないが、女子に対して言うセリフじゃないと思う。やつに言わせれば「本当に殴ってないだけ気を使ってやっている」らしい。
 そのくせ、私が本気で斉藤のことを無視すると、食べる気が無くなったという食券を私にくれたり、缶ジュースをくれたりする。斉藤にとってはこれが、私への謝罪のつもりらしいが、私はどうも腑に落ちない。「餌付けのつもりか」と尋ねると「手懐けるのは手間がかかりそうだ」と返された。あいつにとって私は犬や猫なのか。私はこんなやつと人生の半分近く関わっている。
そんな斉藤が、何故かバスの中で私の隣の席に座ることになり、のんきに私の肩の上で寝息を立てている。首が痛くなるから窓側がいいと言ったのはそっちじゃないか。これじゃあ譲った意味がない。
「私は枕か……。」
そうつぶやくも独り言で終わる。ポッキーでも鼻に詰めてやろうかと考えていると、斉藤の手に握られたスマートフォンに気づく。緑に点滅するそれは、誰だか分からない彼女からのものだろう。先ほどまで、こいつが手元でいじっていたのを思い出す。
メールを送ってきた相手は、まさか今、自分の彼氏が他の女の肩で寝ているとは考えないだろう。こいつにとって私はただの枕でも、彼女からすれば少なからず嫉妬の対象になるんじゃないだろうか。斉藤の彼女を少し気の毒に思う。
彼女に対して同情したものの、この状況を少し面白がっている自分がいることに私は気がつく。いつも、私に対して悪態をついてくる斉藤が、こんなに無防備な姿で私の隣にいるという状況が珍しく、これじゃあ、普段の仕返しをされても文句を言えないんじゃないかと思う。そして、こいつが寄りかかって体を預けているのは他の誰でもなく、自分なのだという事に、認めたくないが、私は少なからず優越感をもっていた。『単純で浅ましいな』と自己嫌悪に陥る。
次第に、何で自分がこんなことを考えなければならないのかと、腹が立ってきた。体を押し返してやろうとするが、体力の無駄使いでしかなかった。諦めて自分も少し体重をかけ、そのまま寝たふりをする。
しばらく車内で揺られていると、肩が少し軽くなった。位置がずれたのだろう。起き上がる気配がしたので、やっと目が覚めたのかと思い、私は寝たふりを続ける。すると、先ほどよりも重く、頭が肩に食い込んでくるのが分かった。髪の毛が首にあたってくすぐったい。本格的に私に寄りかかって寝る気らしい。もうめんどくさいのでバスのゆれに任せて私も体重をかける。自分の頭を斉藤の頭の上に乗せ、自分の肩に頭二つ分の重さがかかる。それでも、姿勢はだいぶ楽になった。にしても、普通は場所が逆なんじゃないだろうか。
顔を覗き込むと、目は閉じられ口元は緩んでいた。しばらく見つめるが、動く気配が無い。こいつはもうとっくに起きている、そんな気がした。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン