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masahiroさん

★素人ですが、気が赴くままに作品を書いてみ ようと思います。 ★詩が好きです。特に歌詞です。文学的な歌詞 を書くアーティストは本当に凄いと思います。

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無口な友情

13/07/31 コンテスト(テーマ):第三十六回 時空モノガタリ文学賞【 無口な人 】 コメント:0件 masahiro 閲覧数:1436

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 今となっては、お互い、無口な人という印象なのだろう。彼と出会ったのは大学3年に
なる直前の春休み。
 当時、両親と同居の私は地元運送会社の倉庫兼営業所でデータ入力のバイトをすること
になった。家に近い、それだけの理由で始めたアルバイト。そして、彼はその会社の正社
員として働いていた。彼は21歳。彼と一緒に仕事をすることはなかったが、年齢もほぼ同
じ、同じく地元出身ということで自然に会話をするようになった。

 彼は、
・学年は私の1コ下。高校は1カ月で中退。中学は、私がもし公立に進学すれば通うはず
 の学校出身。小学校は、私が卒業した学校の隣の学校出身。
・回りから伝え聞いたところによると暴走族出身、鑑別所出身云々・・・ということらし
 い。地元で族といえばあれしかない、日本一有名かつ凶悪、泣く子も黙る大夜悶怒
 頭” ― ダイヤモンド・ヘッド ― だ。
・営業所のムードメーカーだった。営業所に出入りするトラック運転手達や、事務の嘱託
 社員はおじさんばかりだったが、外回りも多い彼が営業所に戻ってくると一気に賑やか
 で明るくなる感じ。ごく普通の若者であった。

 ある日、倉庫の隅の方で「誰でもこれからどうしようか迷う時期があるんだよ。自分で
けじめつけろ。」彼が携帯電話で話しているのが聞き取れた。
 ― 暴走族の後輩から人生相談を受けているに違いない。 ― 
私はそんな妄想を一人膨らませた。
 ― 暴走族も本心ではいろいろ悩んでいるのか。俺らと一緒だな。―

 しかし、それはバイト先のトイレでちょうど小便をしているところだった。外から爆音
でエンジンを吹かすバイクの音が聞こえてきた。トイレの窓は高速道路真下を通る道路に
面している。暴走族が走っているのが分かった。彼はそのとき、廊下で何やら作業をして
いた。
 次の瞬間、彼がトイレに駆け込んできた。大きなガラス窓が開いていたのだが、凄まじ
い勢いでその窓枠に飛び乗り、何事か大声で叫んだ。唖然とした様子で彼を見つめている
と、それに気が付いた彼が凄まじい形相で「現役時代だったら、ぶっ潰してますよ!」と
一言吐いて行ってしまった。暴走族はグループによってエンジンの吹かし方が違うのだろ
うか、過去に敵対していた暴走族グループ、の後輩達だと思ったようだ。

 それ以来、僕は彼に対して無口になった。今まで通り普通に世間話はする。しかし、当
たり障りがないか?を常に気にしながら話題を選んで会話をするようになり、自然と無口
になっていった。
 彼に対して、元不良、という類の嫌悪感はまったくない。優等生とか不良とか云々の以
前に、この人は自分とは違う人なのだ、違うグループの人達で、自分とはコミュニケーシ
ョンは成り立たないのだ、機械で例えるならば、プログラムだのアルゴリズムだのが全然
違うのだ、という思いが明確に芽生えた。とにかく彼と私は違うのだ。
 一方の彼も、私に対してそんな気持ち ― 大学生のこの人とは違う ― を抱いていた
だろう。

 それから3カ月が過ぎた。彼は運送会社を辞めることになった。
 彼曰く、「赤坂でクラブを経営している先輩がいるんだけど、その人に誘われてホー
ル・マネージャーの一人として働くことになったんですよ。最初は見習いですけど。」そ
れ以上は無口である。先輩とは、学校の、ではなく、暴走族の、なのであろう。
 私も「そうなんだ。なんか、カッケぇー。」とだけ返して終わり。
 赤坂のクラブ ― どんな店?どんな先輩? ― その華やかなイメージから興味深々だっ
たが無口に対応した。こんな暗黙の境界線を感じながらの会話が彼との最後だった。
 彼も、私と似たような気持ちから先輩の誘いに興味をもったのだろう。いや、半永久的
に倉庫のようなところで朝から晩まで働く日常が続く、と思っていただろう彼にとって
は、その気持ちは私よりも遥かにに大きかったのかもしれない。
 そして、7年後、彼の近況を知ることになる。

 とある事件のニュース ― 暴走族OBグループが暴力団組長を襲撃! ―
 その犯人グループの一人に彼がいた。週刊誌によれば、襲撃された組長の組織と暴走族
OB達が闇商売を巡り対立、襲撃は大物OBの指示であるという。
 逮捕時の顔はあのときの形相そのものだった。彼と私の境界線は消えることはなかった
のだ。


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