moetさん

フランス文学と、女性の描くみずみずしい文章が好き。 「ただ、いっさいは過ぎてゆきます」 高校生です よろしく。

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13/07/31 コンテスト(テーマ):第三十六回 時空モノガタリ文学賞【 無口な人 】 コメント:1件 moet 閲覧数:1136

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 僕はね、君のことが好きじゃなくなったんだ。
無口な僕がこんなことを言い出すなんて、と、君は驚くだろうけど、僕にはもう君が必要ないんだよ。
これからは、僕ひとりで生きていくんだ。
 おいおい、そんな顔しないでくれよ。僕だって、言いにくいことを言ってんだ。
君も素直にこの部屋から出て行ってくれないか。
あ、でも間違えないでくれよ、君のことが嫌いになったわけじゃない。
 ・・・なに?もう少しここにいたいって?まいったな。
よし、わかったよ。仕方ない、僕もそこまで酷な人間じゃないさ。君との出会いを少し、振り返っていくか。
 君と初めて会ったのは、たしか嵐の日だったかな。バス停?ちがう、大学の図書館だ。
雨が降り続ける中、あのだだっ広い本の家で、僕らは雨宿りをしていたんだ。暗くて、じめじめしていて、居心地はあまりいいものではなかったな。
 そんな中、窓際に座る君は静かに涙を流していたんだ。そう、ちょうど今の君みたいに。
こんなことを言ったら、君は怒るかもしれないけど、そのときに見た君は本当に綺麗だった。今までうるさかった外の雨の音や、風の鳴る声なんかも、僕の耳には全く届かなくなったんだ。
僕は、ずっと君だけを見ていた。
 それから、君と目が合って、僕はすぐに君の隣に座って、時間なんてわからなくなるくらい、とにかくずっと話をしたんだ。
好きな作家の話だったか、映画の話だったかはもう覚えてないな。でも、まあ、とにかく楽しかった。ふと見ると、いつの間にか君の涙は引いていて、僕の心を壊すような笑顔が目の前にはあった。
 君はすごいよ、本当に。僕はその笑顔をみたとき、泣きそうになったんだから。なんで?って聞かれても、なんて答えたらいいのかはわからないさ。でも、すごかった。あの日君と出会ったあの瞬間、僕は生まれ変わったような気さえしたんだ。
 ちょっと話し過ぎたな。君は、そろそろ行ってくれよ。僕はここにいるから。ずっと、ずっと、ここにいるから。
 僕に、君はもういらないんだ。必要じゃないんだ。
さよなら。今すぐ僕を忘れてくれ。








 真っ白で、無機質な部屋に真っ白なベットが一つ。薬品の匂いは、もう鼻が麻痺してわからない。君の、鼻をすする音だけが部屋中に響き渡っている。
 僕は、今度こそ言葉を吐き出そうと、大きく息を吸った。


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このストーリーに関するコメント

13/08/09 

最後の段落で、薬品のつんとした匂いがした気がしました。
この僕は、言いたい思いがいっぱいあるけど、
うまく言葉にできていないんですね。

死期の間際の美しい心情に浸らせていただきました。
ありがとうございます。

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