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光石七さん

光石七(みついしなな)です。 子供の頃から空想(妄想?)が好きでした。 2013年から文章化を始めました。 自分では気付かないことも多いので、ダメ出しを頂けるとありがたいです。

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神は……

13/07/31 コンテスト(テーマ):第三十七回 時空モノガタリ文学賞【 神 】  コメント:9件 光石七 閲覧数:2719

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「ありがとうございます。先生は神様です」
患者の家族が涙ながらに感謝してくる。難度の高い手術を次々とこなす私を「神の手だ」ともてはやす輩もいる。私はそのように言われるのが好きではない。もちろん心臓外科医としての矜持も、それなりに鍛錬を重ねてきた自負もある。担当した患者が元気な姿で退院していくのはうれしい。しかし、どこかやりきれない思いが残る。
 患者全員を助けられるわけではない。手術のため一旦停止させた心臓が再鼓動しないこともある。ICUで容体が急変して亡くなることもある。私が本当に神ならば、このようなことは起こるはずがない。
 そもそも神などいるのだろうか。「神は愛なり」が口癖だったクリスチャンの同級生がいた。私は彼に意地の悪い質問をぶつけたことがある。本当に神が愛であるならば、何故病気や怪我が存在するのか? どうして犯罪や戦争を放っておくのか? 悪人が苦しむのは天罰だと理解することができるが、罪のない子供や善人が重い病気にかかったり事故に遭ったりするのは何故だ? 彼は静かに微笑み、こう答えた。
「神の御心は僕たちにはわからない。でも、イエス・キリストを遣わしてくださるほど神は僕たちを愛してくださっている」
私は全く理解できなかった。その後彼とは当たり障りのない会話しかしなかった。
 私は神ではないし、神という存在自体に疑問を抱いている。ただ一人でも多く命を救うためにスキルを磨き、患者一人一人に最善を尽くす。私はそれしかできないし、それでいいのだろう。たとえ神でなくても、神がいなくても、私を必要としている患者がいる限り医者としてできる努力する。これが私の歩む道だ。

 ある日、一人の妊婦が転院してきた。珍しいことではないが、夫の顔を見た時「おや?」と思った。見覚えがある。あのクリスチャンの同級生だ。
「穂積……。中学以来だな」
「愛甲の評判は聞いている。よろしく頼む」
胎児が左心低形成症候群と診断され、うちの病院に移ってきたのだ。手術以外助かる道はないが、世界的に死亡率の高い手術であり術後生存率も低い。特に難しいとされる第一段階の手術で多くの成功実績を持つ私を頼って、患者が各地から集まってくるのだ。
 穂積の子供は生後三日目での手術となった。

「手は尽くしたのですが……」
私は穂積夫妻に頭を下げた。救えなかった命。悔しさとやりきれなさがこみ上げる。
「どうして死んだんですか?」
奥さんが顔を歪めて私に問い詰める。
「神の手じゃないんですか? あんなに祈ったのに……! どうして私たちの子供ばかり……」
半狂乱の奥さんの肩を穂積が抱いた。
「先生は全力を尽くしてくださった。君の信仰はどこにある? 神様がなさったことだ」
穂積は泣きじゃくる奥さんを強く抱きしめた。

 その後、穂積が私の元に来た。即座に謝罪の言葉を口にする。
「助けられなくてすまない」
「愛甲のせいじゃない。こちらこそ妻が申し訳なかった」
穂積は私を責めず、自分が謝った。
「親として当然の感情だ。謝ることはない」
「いや、リスクの説明は受けてたから……。前の子も死産だったし、妻は余計辛いんだと思う」
穂積の言葉に私は驚いた。二人も子供を失ったのか……。
「穂積も辛いだろう? 泣きたければどこか部屋を……」
「ありがとう。でも、神があの子を召されたんだ。御心に従うしかない」
悲しみを堪えながら穂積は言う。
「……本当にこれが神の御心なのか? 最愛の我が子を奪い取られて、それでも神は愛だと言えるのか?」
私は思わず異を唱えた。
「ああ、神は愛だよ。それは間違いない」
穂積は言い切った。――こいつは一体何を信じているのだろう? 何があっても神の愛、神の御心なのか? 半ば呆れながらも、妙に穂積が輝いて見えた。

 久々に娘が起きている時間に帰宅できた。娘は喜んで私にまとわりついてくる。私にとっても貴重なひとときだ。
「なんでミカが生まれてきたか知ってる?」
ちょっと大人びた問いかけに、つい顔がにやけてしまう
「どうしてかな? 教えて」
わからないふりをする私に、娘はにこにこして答える。
「神様がね、ミカに言ったの。パパとママの子供になりなさいって」
「そうかあ。じゃあ、神様にお礼言わなきゃな。ミカをパパたちの子供にしてくれてありがとうって」
娘の頭を撫でながら思う。この子がいない人生なんて考えられない。この子を奪う者は神であっても許さない。だが――この子を与えたのも神なのか?
(神は愛だよ)
穂積の顔が心に浮かんだ。


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このストーリーに関するコメント

13/07/31 平塚ライジングバード

光石七様、拝読しました。

神というテーマに正面から向き合った良作でした♪
「穂積、お前は間違ってる!」という感じで終わると思ったのですが、
結果的に様々な思想がフラットに描かれていて、非常に考えさせられる
つくりになっていました。

13/07/31 泡沫恋歌

光石七さま、拝読しました。

これは深いテーマですね。
キリストの教義に真っ向から取り組んだストーリーだと感心しました。

神様のことを考える時、いつも思うのは・・・
「悪い奴がのうのうと生きて、罪のない子どもが死ぬのはどうして?」
という素朴な疑問です。

どんな悲惨な目に合っても「神は愛だ」と言える人は強い人だと思う。
いや、反対に弱いから「神は愛だ」と言って納得しようとするのかなあ?

いろいろ考えさせられました。これは秀作ですね。

13/07/31 草愛やし美

光石七さん、拝読しました。
神とは……? クリスチャンでない私達にとってはわからない未知の世界に思えます。昔、クリスチャンの方々の合宿に参加させていただいたことがあります。(息子通しが友達だったからです)
その折の彼らの会話を思い出しました。彼らのなかには、不幸な生き方をしておられる方々が大勢おられました。でも、恨みも僻んでもいない、神様ってそういうものなんだと漠然と思いました。エデンの園を信じ、現世がたとえどんなに辛くとも、きっと来世どこかで落合って幸せな世界に行けると、信じておられました。否定する気持ちより、彼らの心が愛で満ちていてよいなと思いました。家が仏教徒の私ですが、神様は神様でよいのだと思います。
神様とは?というテーマに沿った作品として、良作だと思います。2千文字で書かれたものとして素晴らしい深みのある作だと感心しました。ありがとうございました。

13/07/31 青海野 灰

素晴らしい作品でした。
どうしようもなく打ちのめされた時に、神を頼ってしまう弱さもとても分かります。
僕は宗教は信じていませんが、周りに迷惑さえかけなければ、個人の心の拠り所としては信仰はとてもすぐれたものなのでしょうね。
何があっても神を信じ抜く穂積に、そういった人達の強さのようなものを感じました。
とても面白かったです。

13/07/31 yoshiki

とても良い作品だと思います。

シリアスに正面切って神、信仰に向かい合っているお話ですね。
参拝に行った帰りにバスが事故に遭うという事が以前ありましたが、これを聞いて神なんてこの世にあるものかと私なんぞ思いましたが、そう簡単なものでもないようです。心のよりどころとしての信仰は人を強くするのでしょうね。信ずる者は救われるのでしょう、きっと(*^_^*)

13/07/31 光石七

皆様、コメントありがとうございます。
中途半端な私がこんな話を書いていいのか、という思いもありましたが、いろいろ感じ取ってくださり感謝致します。

>平塚ライジングバードさん
信じるものも考え方も人それぞれだとは思いますが、世の不条理に対して誰もが持つであろう疑問を私なりに書いてみました。
読まれた方の心に小さな一石を投じられたら、という気持ちで書いたので、考えさせられたとのコメントはうれしいです。

>泡沫恋歌さん
ニュースなどを見るとやはり疑問に思いますよね。
信仰を持つ人は強いと私も思います。

>OHIMEさん
穂積の台詞は三浦綾子さんの著作からイメージしました。
信仰の力ってすごいですよね。
『塩狩峠』とか、マザーテレサとか……

>草藍さん
私の家も仏教の門徒ですが、神様は存在していいと思います。
神様を信じる方は善悪の基準がはっきりしていて道徳心も高い気がします。

>青海野さん
「苦しい時の神頼み」とよく言いますが、「宗教=弱い人がすがるもの」という認識はちょっと違うと私は思っています。
信仰者は強いですね。自分の弱さを本当に知ってるから強い。

>yoshikiさん
確かにそのようなニュースを見るとやりきれないです。
でも……やはり簡単なものではないですね。
信仰は人を強くする、私もそう思います。

>凪沙薫さん
とても三浦綾子さんの小説には及びませんが、雰囲気を感じていただいたのならうれしいです。
難しいですよね、神とか宗教とか。

13/09/25 

神様について、そのあり方を提示してあるわけでなく、
読み人が自分で考えられるところがすごいと思いました。
宗教のこととかあまり考えたことがなかったのですが、
信仰心がどういうものか、新しい側面から見ることができました。

13/09/25 光石七

>風さん
初めまして。コメントありがとうございます。
どの考え方が正しいのか、はっきり明言できませんが、読まれる方と一緒に少し考えてみようと書いたものです。
何か感じるものがあれば幸いです。

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