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ポテトチップスさん

20代の頃、小説家を目指していました。 ですが実力がないと自覚し、小説家の夢を諦めました。ですが久方ぶりに、時空モノガタリ文学賞に参加させて頂きます。 ブログで小説プロットを公開してます。ブログ掲載中のプロットを、小説練習用の題材にご自由にご利用下さい。http://www.potetoykk.com

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神へ怒りをぶつける男

13/07/29 コンテスト(テーマ):第三十七回 時空モノガタリ文学賞【 神 】  コメント:2件 ポテトチップス 閲覧数:1618

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 村の真田神社の境内で、白い装束を身にまとった神主による五穀豊穣祈願祭が村人の見つめる中、終わろうとしていた。
「皆様、御祭神であります大神様に今年の豊作を祈念させて頂きました。今年もきっと、大神様が豊作を皆様にお与えくれるでしょう」そう神主は言って、集まった村人に一礼した。
 村に建つ普段はひっそりと佇む真田神社の境内の片隅では、村の主婦方が作った豚汁が大きな鍋で煮だって、湯気とともに美味しそうな匂いを周囲に漂わせていた。
 白瀬忠義は使い捨てカップに入った豚汁を割り箸で口に運びながら、自分より40歳も年上の老人、能木野佐吉に話かけた。
「野佐吉さん、今年は豊作になるべか?」
「わがんねえなあ、こればっかは天候次第だ。んだげど、御祭神様にお祈りしたがら、豊作を願うべ」
「んだない」
「あんだ、新しいトラクター買ったんだってな。うちの婆っぱから聞いだぞ」
「んだ。借金して買ったんだ。300万もしたんだ」
「あんだの所の田んぼは、土が良くねえがら、トラクターで良い土作りが必要だべ。だがら買って良かっだど思うぞ」
「そう野佐吉さんに言ってもらえっとありがてえ。んだけど、今年、不作になっだら俺、首つるしがねえぞい」
 白瀬忠義が1ヘクタールの田んぼに田植えを終えたのは、後2日で5月が終わろうとした日であった。田植えを終えた白瀬は、軽トラックを運転して一人住まいの借家に帰った。玄関ドア横の郵便ポストを開けると茶封筒が一通入っていて、裏面に書かれている送り主の名を確認すると、白瀬はその茶封筒を両手で丸め、玄関近くに置いてある焚き火用のドラム缶の中に投げ捨てた。
 3年前に離婚した東京に住む元妻には、子供の養育費として月に6万円を送る約束を交わしていたが、自身の生活が苦しく1年前からその養育費を送っていなかった。毎月送られてくる茶封筒は養育費の催促の手紙だった。
 白瀬は部屋に上がると、朝に炊いたご飯を茶碗に盛り、梅干をのせて侘しい晩御飯を食べ始めた。
 6月は雨の多い高温多湿の日が連日続いた。雨が降る中、朝から白瀬は田んぼの草取りをして1日を終えた。草は採っても採っても翌日には新しい草が生命力豊かに生えていた。白瀬は汗を流しながら、豊作を願いつつ草取りに勤しんだ。
 7月に入り草取りをしていると、軽トラックに乗った能木野佐吉が前の農道を通りかかり、車から降りた。
「やってっが」
「どうも、野佐吉さん。お蔭様で順調に稲が伸びでる」
「どれどれ」と言いつつ、野佐吉は稲に手を伸ばした。
「なんでえ、あんだ、いもち病にかがってんべえ」
「なんだい、いもち病って?」
「あんだ、いもち病知らねえのがい?」
 去年から稲作業を始めた白瀬は、いもち病を知らずにいた。
「なんなんだい、いもち病って?」
「稲の病気だ。このままだと伝染して全ていもち病になっで、稲が枯れちまうぞい」
 白瀬は焦ったように早口で「どうしたらいいんだい、野佐吉さん?」
「伝染を防ぐ防除が必要だ。いろいろ方法はあるげど、薬剤による防除が一番効果がある」
 その日、農業資材店でいもち病の薬剤を購入し田んぼに撒いた。効果が効いたのか7月が終わる頃にはもうすぐ穂が出るまでに稲は大きく成長していた。
 8月の第1週目は晴天の猛暑が続いたが、翌週は打って変わって肌寒い雨日が続いた。テレビの天気予報を観ると、この先1週間は5月上旬の気温に逆戻りすると伝えていた。
 白瀬は軽トラックを運転して農道を走っていた。車内の備え付けの時計は午後9時を表示していた。
 能木と書かれた表札の下のチャイムを鳴らすと、しばらくして寝巻きを身にまとった野佐吉の妻である里子が、迷惑そうな表情で玄関ドアを開け現われた。白瀬は夜分遅くに訪ねたことを詫び、どうしても旦那さまにお話をお聞きしたいことがあると伝えた。しばらくして、寝巻き姿の野佐吉が玄関に現われた。
「どうしだ、こだ時間に?」
「申し訳ねえ。天気予報観でだら、この寒さがあと1週間続ぐみでえだけど、稲は大丈夫でしょうが? それが聞きだぐでこだ時間に伺いました」
 野佐吉は一本も毛のない頭を擦りながら
「今年は凶作になる。こだ時期に1日でも冷夏の日があったら米は凶作になる。今年は諦めろ」
「んだけど俺、借金してトラクター買ったばっかだで……」
「諦めろ。こればっかはどうしようもねえ」
「なんだい、5月に五穀豊穣祈願祭したのに真田神社の御祭神の大神様は酷い神様だべ」
「んだごどねえ。神様を批判したところで何も解決しねえぞ。ただ自分が虚しくなるだけだ」
 能木の家を後にした後、白瀬は自分の田んぼに向かい、車内から寒さに耐える稲を黙って見つめていた。



 




 


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このストーリーに関するコメント

13/07/30 つるばた

読ませていただきました。

ポテトチップスさんの作品をいくつか読んだのですが、文章がわかりやすくイメージしやすいので、映像を観ているように頭に入ってきました。面白いプロットを練って、エンタテイメント系の小説を書かれたらいいんじゃないかと思いました。

ポテトチップスさんの書いた長いもの(原稿用紙300枚くらい)を読んでみたいなと思いました。
私はただの小説好きの素人ですが、プロの文章を読んでいるように感じたので、コメントさせていただきました。出過ぎたマネをしてすみません。
頑張ってください。

13/07/31 光石七

拝読しました。
これは気持ちがよくわかりますね。
ご利益を求めて祭りをしたり参拝したりするけど、結果は出たりでなかったり。
でも、神社の神様に文句を言う人ってあまりいないような……
日本人の特性でしょうか?

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