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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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神々の整形

13/07/29 コンテスト(テーマ):第三十七回 時空モノガタリ文学賞【 神 】  コメント:3件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:2123

時空モノガタリからの選評

最終選考

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 のれんをくぐって、ひとりの男性客がはいってきた。昼食時、ランチ目当ての客たちで食堂はごったがえしていた。にもかかわらず澄花は、その客の特異な風貌に、ふと目をうばわれた。
「どうしたの?」
 会社の同僚の美歌が、怪訝そうにたずねた。
「ほら、あの男の人―――」
「あら、あなたがそんなことをいうなんて………」
 めったに異性の話を口にしない澄花だったので、美歌も興味にかられてその男性客に目をやった。
「まるで、神さまみたい」
「なんだ、そんなことなの。てっきり、澄花のタイプの男かとおもったわ」
「だってあの人の、まるで後光がさしているかのような崇高なまでの顔立ちは、だれもが思い描く神さまの、典型みたいじゃない。 あの彼もしかしたら、本物の神さまじゃないかしら」
「あれいま流行の、整形なのよ」
「なんですって」
「やっぱり、しらないのね。アメリカではじまったんだけど、いつのまにか日本にもはいってきて、じょじょにだけど、確実にひろまりつつあるみたい」
「あんな顔に、整形するの?」
「そうよ。中高年が多いらしいわ。そりゃ、年くってイケメンもないわね。いまあなたがいった、後光がさすような、崇高な顔立ちに整形する男性がふえているのよ。そんなのを『神々の整形症候群』というんだっけ」
「そんなことして、なにになるの?」
「あなたの視線をひきつけたでしょ。それは冗談。でも澄花、あの人が店にはいってきただけで、なんだか店内の雰囲気が変化したとおもわない?」
「………まあそう、いわれれば」
 さっきまではみんな勝手にさわいでいたのがいまは、居住まいを正したような秩序が客たちの間にうまれていた。あきらかに、例の客の来店が影響しているようだった。
 美歌は湯呑の蕎麦湯をのみほして、
「いまの世の中、神も仏もない時代っていわれるけど、ほんとうに昨今の殺伐な事件をみていると、そのとおりだとおもう。せめて容姿だけでも、という人々の切なる願いが、神々の整形となってあらわれたんじゃないかしら」
「ふうん」
 二人は、店を出た。会社に続く道をかえっているとき、通行人の中に澄花は、ふたたび神の顔をみた。そしてまたひとり、こんどは通りかかった車の運転席に。
 目をこらせば、ほかにも『神々の整形』をした連中はいくらでもみつかりそうだった。 澄花はそして、通行人たちのなかにはそんな連中にたいして、立ち止まって手をあわせるものがいるのをしって目をみはった。
「かれらがいるおかげで、人々がしぜんと、敬虔な気持ちを抱くようになっているのがわかるでしょ。神々の整形症候群も、捨てたものじゃないわね」
 あくまで肯定的な美歌の言葉に、澄花もうなずかざるをえなかった。
「ほら、あそこをみてよ」
 と美歌は、なにか眉をひそめるようにして、すぐ向こうを指さした。
 そこは公園の出口付近で、植込みの囲いの上に、じっと腰をおろすボロを着たひとりの男の姿があった。
「ホームレスよ。いやね、あの男の不潔で、下品な顔ったら。公園のきれいな花がだいなしだわ。あんなのにくらべたら、神々の整形をした人々の、すばらしさが際立つというものよ」
 ひそひそしゃべっていたつもりが、もしかしたらきこえていたのか二人がそばまできたとき、ふいにそのホームレスが笑いかけてきた。
「きゃっ」
 あわてたあまり、彼女の片足が浅い側溝にはまりこんでしまった。その弾みで、とびはねた泥が男の顔にあたり、ますますその薄汚さに磨きがかかった。
「ごめんなさい」
 美歌のかわりに澄花があやまった。その刹那ちらと彼女は、男の顔に目をやった。やせこけた頬、おちくぼんだ眼、髭がおおう顎―――たしかに、その風貌からは品性のかけらさえうかがうことができなかった。
「絡まれたらどうするの。はやくいきましょ」
 美歌は澄花の腕をひっぱって歩きはじめた。そしてちかくに神の顔をみかけると、「神さまー」と大声をあげながら、一散にかけだしていった。
 去っていく二人をみおくっていたホームレスは、公園のほうに足をかえした。
 静かに彼は、繁みに向って手をさしのばした。
 すると一羽、また一羽とよってきた鳥たちが、その手の甲にとまりはじめた。人々が蔑んで忌避するその顔も、鳥たちにはそうは映らないようだった。
 鳥たちは、まるで言葉をやりとりするかのように、しばらくのあいだホームレスに頭をちかづけていた。そのあいだにも、神々の整形をした連中がそばをなんどか行き来した。しかし、鳥たちがそちらにむかって翼をひるがえすことは、一度としてなかった。
 どうやら人間だけが、勘違いしているらしかった。


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このストーリーに関するコメント

13/07/29 草愛やし美

W・アーム・スープレックスさん、拝読しました。
なるほど、神の崇高さを持ちたい人間が、五万といるけれど、中身はどうだかわからないですものね。
人間は、男女間もそうですが、まずは顔の第一印象でその人を判断しています。優しそうにみえたけれど、DV男だったとか、よかれと思った女性が、冷たい人だったなんて、数えればきりのない事実を知っているというのに、勘違いしてしまうようです。
「神々の整形症候群」という発想、ユニークで面白かったです。さすがスープレックスさんだなあと思いました。

13/07/29 W・アーム・スープレックス

草藍さん、こんばんは。コメントありがとうございます。

「神」という、取り組むには壮大なテーマを、身近な人間であらわそうとしたら、「神々の整形………」が思い浮かびました。たしかに、勘違いばかりしている我々ですが、だからこそそこに、創作としての題材がみちあふれているのでしょうね。

13/08/01 W・アーム・スープレックス

凪沙薫さん、コメントありがとうございます。

西洋の神と東洋の神では顔もことなるでしょうね。やっぱり我が国のやおよろずの神なら、八百万もあるのですから、よりどりみどり、結局人間の顔におさまってしまうのかも知れません。

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