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かめかめさん

http://ameblo.jp/kamekame1976/ ブログデシセイカツバクロチウ

性別 女性
将来の夢 印税生活
座右の銘 ハワイに行きたいと思ったら、一歩踏み出さないといけない。 ハワイは向こうから近づいてこない。

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 搏  動

13/07/29 コンテスト(テーマ):第三十七回 時空モノガタリ文学賞【 神 】  コメント:0件 かめかめ 閲覧数:1674

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目が覚めた。
暗い。
ただ、暗い場所にいることだけはわかった。
男は右脛に、風が吹きつけるような冷たさを感じていた。
首が胸につくほど、がっくりとこうべを垂れた状態で目覚めたため、首と肩が凝って容易に身動きもできない。

「けーけーけーのーおーまーけーつーき」

愛らしい少女の声が途切れると同時に、左腿に熱いものが触れた。
反射的に左足を動かして逃れようとするが、足が動かない。
異変に気付き闇雲に暴れるが体は固定されているようだった。首だけがかろうじて動く。痛む首を思い切り伸ばして左足を見下ろす。
熱いと感じたものが痛みであったと気付く。

左の太腿に短刀が突き刺さっていた。
それを握った十歳ほどに見える少女が短刀を引き抜くと、血液が太ももから滝のように迸り出た。長い黒髪を一つにまとめた少女の袴が血濡れてぬめる。
流れ出す血のあまりの量と勢いに、男は映画のワンシーンを見ている気分になった。
しかし、それは現実だとすぐに理解した。
左足にじんわりとした暖かさと血が流れ出す不快感、ズキズキ疼く痛みを感じた。
赤く染まっていく左足を呆然と見つめる。右の脹脛からも出血しているのが見えた。
一体、何が起きたのか理解できない。
男はただ呆然と少女が歌うのを見ていた。

それから30分はたっただろうか。いや、20分?それとも5分?
男がどれほど叫び、恫喝し、嘆願し、泣き、説得しようとも、少女はただ歌いつづけ、ただ切り裂き続けた。

「どーちーらーにーしーよーおーかーな」

楽しげに歌いながら少女は男の顔をのぞきこむ。

「やめろ……。もう、やめてくれ……」

男は叫びすぎて掠れた声を、小刻みに震え続ける喉の奥から絞り出す。
少女は手にした朱色の柄の短刀を男の頬に、ひたと這わす。
男はびくりと体を震わせた。
少女が歌の続きを口ずさむ。

「てーんーのーかーみーさーまーのーいうとおり」

歌いながら、男の頬の上を短刀でぴたぴたと叩く。右頬、左頬、右頬、左頬。
短刀の切っ先が男の瞳をかする。そのたび男はぎゅっと目をつぶるが、すぐまた目を見開き少女が操る短刀から目を離さない。
いや、離せないのだ。

男は両手両足を開いた状態で、太い欅の幹にくくりつけられていた。
右脛、左腿、右手首、左肘、右胸、左脇、右肩、左頬。
男の体のあちらこちらから血がしたたって欅の根元に落ちている。
少女の歌が終わるたび、足元から徐々に上に向かって切り刻まれていた。
少女は、ただ歌い、ただ切った。
体から大量の血液が流れ出し、男は青い唇を寒さに震わせていた。

「けーけーけーのーおーまーけーつーき」

少女の歌が終わると男は思わず目をつぶった。
右の目か?左の目か?どちらから血を流すのか。
男の予想に反して、右の耳たぶに焼け付くような痛みを感じた。
おそるおそる両目を開く。両目とも見えている。ほっと息を吐いたとき、

どくん

男は背中に大きな震えを感じた。
自分の鼓動とは明らかに違う、もっと大きなものが脈打つのを。

「てんじんさまのおとおりだ!」

少女が叫び、闇の向こうへ駆けていく。
短刀から逃れられたというのに、男は、先ほどとは比べ物にならない恐怖に
ガタガタ震えだした。
おそろしいものが、男の背後にいる。
男は背中を通して、そのものの律動を感じた。

どくん

脈打つはずなどないのだ。
男の背中が触れているのは、一本の大きな欅。

いや、はたして本当に背中にあるのは欅の木なのだろうか?

おかしくはないか?

なにかおかしくはないか?

なぜ一度も見ていないのに、背中に触れるものを欅の木だと思っていたんだ?

あまるほど血を吸ったこのものは、いったいなんなんだ?


男はもう一度だけ、背中に搏動を感じることができた。

どくん

そして男は、深淵を見た。


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