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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
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雨の惑星

13/07/22 コンテスト(テーマ): 第十三回 【 自由投稿スペース 】  コメント:2件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1299

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 惑星インベルの地上に雨はふりつづいた。
 惑星探査船が着陸したその日もどしゃぶりで、それからきょうまでの十日の間、すさまじいまでの豪雨の連続だった。
 ユウマたち三人の職務は、雨のなかをあるきまわっては、この地上に生育する植物を調査採取して探査船にもちかえることだった。
 大気はそのまま呼吸することができた。
 新鮮な空気を直接胸いっぱいすいこむ夢をみなかった宇宙の航行者はおそらくいないのではないだろう。
 分厚い生命維持スーツから解放されたかれらは、顔に直接あたる雨粒の感触を、はじめのうちは楽しんでいた。長期の宇宙空間での、密閉された生活からの解放―――調査対象惑星を訪れた連中がまず願うのがそれだった。。
 それでも毎日毎日、こうまで雨にうたれていると、さすがにげんなりしてきた。
 シノブも最初は、宇宙船技師にたのんで作ってもらったコウモリ傘をさしていたが、はげしい雨のまえにはたいして役にたたないことがわかると、すぐやめてしまった。
「こういう手もあるんだぜ」
 とサモンが、地面に張り付くように生えている大きな葉を電子ナイフで切断して、頭の上にひろげた。するといきなりその葉がかれの頭を柏餅のように包みこんだ。
「わあっ!」
 ユウマとシノブが笑いながら手をかして、サモンの顔から葉をとりのぞいた。
「サモンのおかげで、この植物が動くことがわかったよ」
 サモンはまた雨の中に顔をさらすと、水草のように雨に浸かった丈の低い植物群をみおろした。
 どの草花も、くすんだような灰色をしている。この惑星の雨にふれていると、あらゆる色彩は溶けて流れおちていくのだろうか。
「………どれもこれも、地面すれすれに生えている。まるで雨が、上にのびようとする植物たちを頭ごなしにおさえつけているようだ」
 サモンのつぶやきに、ユウマもシノブもうなずいた。
 まったくここにいたら、気持までが雨の圧力に屈してしまいそうだった。
 そのとき、彼らの耳にセットされたマイクに、基地からの報告がきこえてきた。
「気象衛星の観測では、まもなく雨がやむらしい。分析の結果、じつに五十年に一度の天気がおとずれるそうだ」
 三人はとびあがって歓声をあげた。
「雨がやむなんて、信じられない」
 着陸したときから、頭上には黒々とした雨雲以外なにもみたことのない三人だった。晴れたらいったいどうなるのか、すぐには想像することもできないのは無理もなかった。
 一時間後、ユウマたちは仕事もなにも忘れて、しだいに明るくなりはじめた西の空を凝視していた。
 雨がまばらになってきて、やがてぴたりとやんだ。
 ちぎれた雲の間から、目にも鮮やかな青空がのぞいたとおもうと、みるまに空いちめんさわやかに晴れ渡っていった。気がつくと、あれほど足元にあふれていた雨水がいつのまにかどこかに引いてしまっていた。
 三人を驚かせたのは、その直後のことだった。
 それまでどこにもなかったはずの木々が、またたくまに何十メートルにも成長したかとおもうと、まもなく青々とした繁みを空いちめんにひろげた。その足もとでは草が、花が、みるみる華麗に色づきはじめて、地上にはなやかな色彩の乱舞がはじまった。 
 本当の驚きは、それからだった。
 光をあびて植物が衝撃的な成長をみせたそのおなじ地面から突然、むくむくと、人間とおぼしき人影が、次から次と陸続とたちあがってきたのだ。
「惑星の人間たちだろうか」
 三人があっけにとられているあいだにも、いま出現したばかりの何十、何百、何千という人間たちは、一分一秒を惜しむかのように、たがいに手をとりあって、かろやかに踊りはじめた。
 かれらが、じぶんの、そして仲間たちの生を心から愛していることが、その歓喜にみちあふれた表情から容易によみとることができた。
 かれらは、まだ茫然とたちつくしているユウマたち三人を尻目に、なにもかも忘れて一心不乱に踊りつづけた。
 ヒュウという、不安をいざなう音をたてて風がふきだしたのは、それからわずか一時間もたたない間のことだった。
 いやな予感に、眉をひそめるユウマのとなりで、まさかといった表情のシノブがつぶやいた。
「え、もう―――」
 サモンも手をひろげて、嘘であってくれといわんばかりの顔つきになった。だが、たしかに皮膚が、つめたいものの存在を感じた。
「雨が―――」
 その声はふりはじめた雨音のためにじゃまされてユウマの耳には届かなかった。
 はやくも三人がたちつくす地面は流れる雨水の通り道とかわり、そこここで、岩にあたる波のように、白い飛沫をたちのぼらせた。
 空を覆わんばかりに繁っていた木々が、みるまに萎縮してゆくのと歩調をあわせるように、すべての草花が色を失っていった。そのころにはあれほど踊りに酔いしれていた人々の姿もまた、どこへいってしまったのか、いくらさがしてもみあたらなかった。
 三人は、雨の中にひろがるなにもない灰色にくすんだ世界を、言葉もなくみわたした。
 かれらの目には、むしろそれこそが馴染のある光景といえた。


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このストーリーに関するコメント

13/07/29 W・アーム・スープレックス

OHIMEさん、コメントありがとうございます。
まだまだ未熟ものです。投稿しても、すぐには読み返すのが、こわいぐらいです。コメントをいただいて気づかされることが多く、ずいぶん参考になります。ただそれが次回に生かされないのが、辛いところです。
これからもお互い、創作に励みましょう。傑作というのは作品ではなく、ずっとずっと書き続けることだと、だれかがいっていました。

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