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蒼夜宮 さん

不明。

性別 女性
将来の夢
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とある真夏の日の午後

13/07/18 コンテスト(テーマ): 第十二回 【 自由投稿スペース 】  コメント:0件 蒼夜宮  閲覧数:1223

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目が覚めた。
いや、正しくは意識がはっきりしてきた、と言うべきか。
生きていたという実感はあるのだがどうにも記憶が曖昧だ。
最後の記憶はいつだっただろうか・・・
・・・。

思い出したい欲求をはるかに上回る別の欲求が僕の全身を駆け巡った。
起きたい。
どこか安心する匂いに包まれて僕は眠っている。
が、そろそろ起きたい。


母さんがそろそろ起こしに来てもいいころじゃないか。
意識がはっきりするにつれてそんな思いが芽生えた。
どうにも来そうにないので日曜日午後まで寝てしまったときの特有の憂鬱感を抱えゆっくりと起き上がる。

この時期特有の耳を劈くような蝉の声があたりに響き渡っている。
一瞬の静寂、少し湿気た爽やかな風が体に吹きつけた。

全身をえもいわれぬ快感が駆け抜ける。
あぁ・・・
この瞬間のために僕は生まれてきたのかもしれない・・・!
本能のままに全身を震わせ風を感じる。
風がとこからともなく太陽の匂いを運んでくる。
さて、たまっている課題でもし・・・

ぐっ

見上げていた青空が180度回る。

「まま!こえ、おにいたんにあげゆの!」

耳元で鼓膜が破れそうなほどの爆音がした。
目も回って吐きそうだ。
回り続ける景色と声と爆音と・・・
誰か目眩を止めてくれ・・・



目が覚めた。
いや、正しくは意識がはっきりしてきた、と言うべきか。
生きている実感はある。
そして掴まれた記憶とはっきりと自分が自分でないという意識が確かにある。
僕は・・・
僕は、蝉だ。
耳を劈くようなあの声は・・・

僕を覗く人間とプラスチック越しに目が合った気がした。

幼い僕であった。

「ね?おにいたんに似てゆでしょ?
それ、おにいたんにあげゆね!」
「僕はこんな間抜け面してないよ」

こっちだって好きでこうなったわけではないのだ。
我ながら腹が立った。
と同時に背筋の凍る思いだった。
この会話、かつてしたことがあった。

「僕は蝉が嫌いなんだ。
煩いし、迷惑でしかないだろ?」

この後僕はどうしたっけ・・・?
思い出したいような思い出したくないような。

彼はゆっくりと蓋を開け僕を掴んだ。
手に力がこもるのが分かった。


目が覚めた。
いや、正しくは意識がはっきりしてきた、と言うべきか。
生きている実感は確かにあった。

僕は図書館で寝ていた。

その手には今朝妹がくれた蝉の抜け殻が握られていた。


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