1. トップページ
  2. アン ノルド パル

クナリさん

小説が出版されました。 『黒手毬珈琲館に灯はともる 〜優しい雨と、オレンジ・カプチーノ〜』 マイナビ出版ファン文庫より発売中です(表紙:六七質 様)。 http://www.amazon.co.jp/dp/4839958211 twitterアカウント:@sawanokurakunar

性別
将来の夢 絵本作家
座右の銘 明日の自分がきっとがんばる。

投稿済みの作品

12

アン ノルド パル

13/07/16 コンテスト(テーマ):第三十六回 時空モノガタリ文学賞【 無口な人 】 コメント:16件 クナリ 閲覧数:2489

時空モノガタリからの選評

最終選考

この作品を評価する

私が高校二年の時、突然右膝に人の顔が現れた。
人面瘡というらしい。
現れたものは仕方ないので、制服のスカート丈を長くして隠した。
当時私はクラスの影のような存在で、お陰で膝の顔に気付く人はいなかった。

部屋で一人の時、私はその顔に名前や性別はあるのか尋ねてみたが、顔は全く答えない。
無口なヤツだなと思って見ていると、その口に涎が滲んでいた。
「お腹空いてんの?」
チョコレートの欠片を与えてみたが、顔は口を閉じたまま、両目が爛々と私を見ている。
「まさか、私を食べたいわけ」
試しに私は手の爪を切り、顔の口元に近付けた。すると顔はその爪をぽりぽりと食べた。
爪の行方は気になったが、私は強い好奇心から、今度は適当に伸ばしていた髪の先を数本切り、顔に与えた。顔は喜んで髪を啜った。
ちょっと面白いなこれ、と思った私は、その日から髪や爪を与え続けた。

顔の血色は日増しに良くなったが、相変わらず一言も喋らない。
「あんた、ごちそうさまとか有難うとか無いわけ」
そう言うと顔はプイとむくれるので、聞こえてはいる筈。まあ、声帯とか無さそうだし仕方ないかなと思った。
切り過ぎて髪形が変になる前に、私は美容院へ行き、人生初のショートにして、切った髪をもらい、少しずつ顔に食べさせた。
一日の中で私が声をかける相手は家族以外にはこの膝だけで、相変わらず友達はいなかった。それでも髪がすっきりした頭とともに、何だか気分が軽くなった気がして、きっかけをくれた顔に少し感謝した。

半年程経った頃、急に顔が物を食べなくなった。
「ね、どしたの。何か食べなよ」
顔は頑なに口を閉じている。しかし、その眼光が飢えた獣のように鋭く私の指を捉えていた。
――あ、こいつ、私の指を食べたがっている!
そう察し、私は素早く手を引っ込めた。さすがに、自分の指を与える気にはなれない。
しかし私の恐怖など知らぬ風で顔は断食を続け、次第に痩せて行った。

私は高校三年になった。
痩せこけた顔は、まだ右膝にいる。今にも餓死するのではと心配だったけど、どうしようもなかった。
ある土曜の深夜、私は帰宅すると自分のベッドに倒れ込んだ。
つい先刻まで私を抱いてくれていた、担任の先生のことを考える。学校でただ一人、私を見つめてくれるあの人は、もう家族の待つ家に着いているだろうか。
その時、野太い声が部屋に響いた。
「男は、選べよ」
声は右膝からだ。
「え! 今、喋った?」
私は先生に膝を見られないよう巻いた包帯を取り、右膝を見た。
「見てたの? 信じらんない。覗き魔!」
「何巻こうが、間近であんなことしてりゃ嫌でも分かるわ、ぼけ!」
「あたしの勝手でしょ!」
「向こうの家族に迷惑だろが!」
「ばれてないもん」
「子供がいるのに子供に手を出すような奴、よせや」
「何怒ってんのよう」
「お前にじゃねえよ。分別の無いあの大人に怒ってんだよ!」
「ていうか何で今まで、口きかなかったのよ」
「俺はお前の寄生虫みたいなもんだぞ。情が移ったらどうすんだ!」
言ってから、顔は少ししゅんとして、「寄生虫ってこたねえかな……」と呟いた。
「……傷付くなら、言わなきゃいいのに」
「うっさい! とにかくお前、俺に飯の世話するなんざ相当の寂しがり屋だぞ。危なっかしい」
「なら、話し相手してくれればいいじゃん」
「膝と喋る気かお前は。人に見られてみろ、『ヤダあの子ちょっと変』からいじめは始まるんだぞ。ただでも友達いねえのに」
大きなお世話だ、くそう。
「そうだ、何で何も食べないのよ」
「爪や髪じゃもう駄目なんだよ。でも、お前の肉をもらう訳にもいかんし」
「……すっかり情移ってんじゃない」
「ほっとけ! とにかく、俺はもう栄養失調で消滅する。いいな、くれぐれも男は選べよ」
「え……うん」
すると顔はみるみる縮み、まず目鼻が消えた。口も消えるその寸前、
「ごち。サンクス」……
そして、私の右膝はただの膝に戻った。
「誰が、別れ際に言えって言ったのよ」
その呟きを最後に、部屋が無音になる。ぞっとするほど静かで、自分の部屋じゃないみたいだった。
そうか、一年近く、ここは二人部屋だったんだもんな、と思った。

先生と別れた私は大学生になり、やがて同級生の彼氏が出来た。
初めてホテルへ入った時、彼がシャワーを浴びている間につい、
「彼、どう思う?」
と右膝に訊いた。
ただ一時、寂しい私の傍にいてくれた貴重な友人の、恐らくは頬の辺りを撫でてみる。
人に話せば、夢でも見たんだろうとあんたごと笑われるだろうから、決して誰にも言わない。
でもあんたが確かに存在した証拠に、私の髪は、今も短いよ。

彼が浴室から顔を出し、
「電話? 誰かと喋ってるの?」
と訊いて来た。
勿論私は、
「うん、昔からの友達」
と、事実のままを答えるのだった。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

13/07/16 かめかめ

まさか人面瘡がいいハナシになるとは……Σ(´∀`;)

13/07/16 光石七

ホラーかと思いきや、いい奴でしたね。
姿は消えても主人公の心の中には彼(?)は生き続けるでしょう。

13/07/16 泡沫恋歌

クナリさん、拝読しました。

人面瘡でも、身体に付いてるんだからやっぱり身内だよね。
自分の分身みたいで、一緒に居たらお互いに情が移っちゃうよ。

ホロリとする良い話でした。

13/07/16 そらの珊瑚

クナリさん、拝読しました。

人面瘡に乗っ取られてしまうお話はよくありますが、いい意味で裏切られました。
孤独な少女と無口な人(ですよね?)のコミカルな会話にある種友情めいたものを感じ、それだけにラストが少し切なかったです。

13/07/17 草愛やし美

クナリさん、拝読しました。
この設定、凄いですね。人面瘡、そういうのありましたが、長らく聞いてない名称でした。
ホラーの得意なクナリさんなので、独特のあの世界が……と予測しながら読み進んでいきました。いいように裏切られ、ほっとしました。ある意味友達よりも深い関係で身内になったこの人面瘡を、私も愛しくさえ感じました。本当に自分に現れたら、とても話しかけることなんかできないでしょうね、怖いの嫌いですので……。(大汗)
これはこれでやはりクナリ流ホラーなんでしょうね、面白かったので一気に読み終えました。ありがとうございました。

13/07/18 平塚ライジングバード

クナリ様、拝読しました。

クナリさんやっぱり巧いですね〜☆文章力&発想力が羨ましいです。
「一人暮らしなのに一人暮らしの気がしない人間味のある住まいです。」
…という訳あり物件の不動産広告を思い出しました(笑)♪

13/07/18 クナリ

読み返したら、主人公より先生より、この人面瘡が一番人格的にまともな気がしてきました。
こんな話に、皆さんコメントありがとうございます。

かめかめさん>
いいハナシなのか何なのか、自分でもわかりませんが(^^;)、こんな関係性の相手がいたら楽しいだろーなーと思って書きました。
って、いなくなってますが……。

光石さん>
こういう掛け合いが好きなんですよね。
ばかっぽいやり取りの中でも、思いやりが伝われば、相手のことを忘れないんじゃないかと思います。
作中では人面瘡ですが、現実の人間関係でもそうだったらいいなーなんて思ったり。

泡沫恋歌さん>
そうなんですよ、目の前でご飯ぱくぱく食べられたら、つい親近感が沸いてしまうと思うんですよね。
霊能者とかが「祓ってしんぜよう」とかいってきても「いえ、間に合ってます」と追い返すくらいの絆が生じてしまいそうです。
人面瘡が生意気なほど、やりがいのある育てゲーみたいな感じになっちゃうかも。

そらの珊瑚さん>
のっとられてしまう話は怖いんで(いまさらッ)、人面瘡が憑いている女の子のラブコメとかあったら読んでみたいんですけどね。ラブコメ好きなんで。
日々仲良くどたばたしながら、時には人面瘡に「あんたなんかいなければよかったー!」とかいってけんかしたり、いってしまってから後悔したり。
そう、いちおう人面瘡が無口な人であります。…人?

はぐれ狼さん>
こういうテイストが、実はすごく好きなんですよ。
取りようしだいでは深刻な状態なのに、本人たちの性格によってポップなものになってしまう、みたいなのが。
まあいつも暗いので、たまには軽く(^^;)。

草藍さん>
人面瘡自体、もっと掘り下げてみたい題材で、ホラーとしてもすばらしい素材だと思うんですけども(おっとよだれがッ)、今回はこんなんであります。
こいつ、ちゃっかり帰ってきたりとかしたら楽しいんですけどね。イヤか。
主人公の娘の肩辺りにいきなり現れて再会とか。もっとイヤか。
愛しく感じていただけるとはうれしいです。
タイトルも、変だけど深い友情があったらいいなと思って、「an old pal」のカタカナ表記から付けました。

平塚ライジングバードさん>
お褒めの言葉、ありがとうございます。
もう、さびしい子供にはうってつけの遊び相手(?)だったと思います。
さびしいと、「もうこの際幽霊でもいいから、頼むから自分と会話してくれッ」みたいな精神状態になっていたら、こんなやつでもウェルカムなんでしょうけどね。

13/07/18 yoshiki

読ませていただきました。
ホラーっぽい題材をうまくまとめてあり、とてもお上手だと思いました。
どんなアイデアも書き方一つでまったく別のものになるという、お手本のようなストーリーでした。面白かったです。

13/07/19 青海野 灰

僅かな気持ち悪さも吹き飛ばす、爽やかで少し切ない良いお話でした。面白かったです。
既存作品とは雰囲気を変えながらも、教師との関係の描写辺りにクナリテイストが伺えますね。
沈黙を貫いていた彼が口を開いたら意外とよく喋るとか、実はすごく優しいとか、良いギャップにはとても好感が持てます。
レスで仰っているどたばたラブコメもぜひ読んでみたいです。

13/07/19 クナリ

yoshikiさん>
ホラー方面に行くのとどっちが面白くなるかなー、と考えたのですが、コメディ好きの自分が勝ってこんなんなりました。
こういう主人公+切っても切れない相棒、みたいなの好きなんですよね。
ドラえもんぽいというか。

青海野さん>
一度口を開いたら、ぜんぜん無口じゃなくなったので、厳密にはテーマにのっとってないのかも…。
そうですねー、なんかしょうもない大人が出てきましたねー。クナリは、ふさぎがちな女子中高生を出すと必ず苦悩させたり過たせたりしますねー。だめな人間ですねー。
ラブコメ、いずれ挑戦してみたいです。

13/07/21 芝原駒

拝読いたしました。
短編としてきれいにまとまった話で驚きました。かなりの怪奇現象ながらも動じない主人公のあり方が魅力的でした。
当初、人面瘡は女性なのかと思っていたのですが、口調以外に特徴を描写するところがなかったのは少し残念でした。

13/07/22 クナリ

芝原駒さん>
はじめまして、コメントありがとうございます。
自分がいろんなことを「なんか不思議だけど、まあそんなこともあるよね」みたいな感じで無頓着に過ごす無神経者なもので、こういう性格の主人公をよく書きます。
人面瘡の描写をもっと入れれば、もっとリアルに想像できたかもしれませんね。
ご指摘、ありがとうございました!

13/07/25 クナリ

凪沙薫さん>
いいやつにしてしまいました(^^;)。
こういう、非日常を日常として共有できる関係って好きなんですよね。
どこから来てどこへ消えたのかはわかりませんが、確かなひとつの人格として主人公の記憶に残り続けると思います。
ウサギが寂しいと死ぬって、慣用句というか、ことわざみたいなものなんですかね?
一人(?)で孤独に草とかもぐもぐやってるほうが性に合ってそうなイメージですけどね〜。


13/08/06 

まさか友達になるとは!
びっくりな展開でした!!
少し不気味だけど、
その分話の柔らかさが際だってるなと思いました。

13/08/08 クナリ

風さん>
お読みいただき、ありがとうございます。
どうも根が小心者というか、プレッシャに耐えられないたちなので、
なんかもう友達にしてしまえい、という無意識の逃避がこのような展開に発露したのかもしれません(?)。
不気味なやつが以外に話が合ったりすると楽しいかなあ、と思うんですよね。
かわいいものには、こちらが下手に出てしまうので…。


ログイン