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天田珠実さん

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三輪亜津子探偵事務所

13/07/15 コンテスト(テーマ):第三十四回 時空モノガタリ文学賞【 探偵 】 コメント:1件 天田珠実 閲覧数:1341

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あろうことか依頼人の夫はスパイだった。
「ご主人はスパイでした。」と依頼人に報告するわけにはいかない。
依頼人の最終報告は3日後に迫っていた。亜津子が佐竹亮の調査を依頼されたのは妻佐竹美保からであった。出張から帰国してからの夫の様子が今までと違う。
浮気をするような人ではないが、もしかしたら・・・というものであった。
要職にある夫の調査を依頼するにあたりどうすべきか何処の探偵に依頼すべきか迷ったあげく「こちら様に参りました。」とのことである。
亜津子の探偵事務所は江ノ電の通る海が見える場所にある。この事務所の依頼人は目立たないであろうことを予測してやってくるのであった。佐竹美保も例外ではなかった。夫はもとより誰にも知られたくないという思いで都心から離れているということと女性の探偵事務所なので安心感があるからという理由からであった。

佐竹美保が調査依頼をされた翌日、三浦豊が亜津子の友人の紹介で事務所にやって来た。
これで開業以来事務兼秘書をやっている神田裕美と三人になっていた。
仕事の流れや合理化を考えると依頼人の内容によっては三人で打ち合わせ会議を行うことも必要ではあったが、佐竹美保の依頼については少なくとも新人の三浦豊には伏せておく必要を本能的に感じ取っていた。亜津子は紹介者に三浦豊のことを詳しく訊ねてみようと思っていた。大まかなことは友人から聞いてはいたものの更に詳しく聞く必要があると思いつつそのままにしていたのだった。友人は不動産業と行政書士の事務所を併用し、主に外国人向けのビザを取得する仕事をメインにしていた。友人から採用してあげてと依頼を受けたとき彼女の紹介ならばと快く引き受けることにしたのだった。しかし、開業から一年足らずの三輪亜津子探偵事務所の内情は苦しいものだった。女性二人の探偵事務所、男性が一人居たら・・・とも思っていたのである。

依頼人佐竹美保の件はあくまでも浮気調査を前面に出し、「浮気はないからご主人を信じて」と説得するより他ない。亜津子はそれで押し通すことにしていた。事実、なかったのである。佐竹亮の身辺調査をはじめてから亜津子の回りで不穏な動きが感じられていたが依頼人佐竹美保にも身の危険がないか秘かにそれとなく確認することにしていた。が、それは事務所の職員には内々にしていたのである。知らない方が良いこともある。知ることにより身に危険を及ぼしてはならないという配慮ではあったが、三浦豊については彼の素性を詳しく知るまでは隠す必要があるのだ。

亜津子は佐竹亮の報告は事務所ではなく場所を移すことにして事務所の誰にも気付かれないよう秘密裏に行うことにした。「依頼人の方は事務所には何時のお約束ですか?」と神田裕美が訊ねた。「明日、外でお会いしますから、今日中に書類の用意御願いね」亜津子は何気ない素振りで応えた。

佐竹亮が「スパイ」ではないかという疑惑は次第に膨らんでいった。佐竹亮が帰宅途中に会う人物に亜津子は疑いを抱きはじめていた。疑いが確信へと変っていったのは亜津子のよく知る人物と会っていたことだった。

佐竹美保は時間通りにやって来た。亜津子は駅の近くにある静かな地下の喫茶店に案内した。クラシック音楽の流れる喫茶店は今は少なくなったと思いながら「私は珈琲ですけれど何になさいますか?」と佐竹美保に訊ねた。「私も珈琲御願いします。」亜津子は鞄から茶封筒を取り出すと、写真と調査報告書を手渡した。「ご主人は浮気はされておりません。」「ひどくお疲れのご様子でしたが、その後何か変ったことはございましたか?」と打診した。「いいえ、特には・・・」佐竹美保は写真を眺めていた。「ご存じの方ですか?」「いいえ」佐竹美保は報告書にも目を通し、終わるのを亜津子は待った。「ご質問ございましたらどうぞ」「いいえ」佐竹美保は写真と書類を茶封筒に入れなおしていた。「ありがとうございました。御蔭さまで安心致しました。これからは主人の健康に気を遣います。」佐竹美保は深々と頭を下げた。「お写真と書類はこちらで保管させていただきますのでお入用の際はご連絡ください。」佐竹美保は怪訝そうな面持で頷いた。(何時かきっと必要になるかも知れない)と亜津子は心の中で呟いた。佐竹美保の安堵した様子を確認して、この件は落着したのである。いや、させたのであった。

地下の喫茶店に入った時のように一緒に出て、駅で見送り電車に乗るのを確かめると亜津子は駅を後にし、再び別の喫茶店に入って行った。


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このストーリーに関するコメント

13/07/20 天田珠実

凪沙薫様

今回が始めての投稿でした。
そして、始めてのコメントをとても嬉しく拝読させて頂きました。

2000字の制限でまとめるのは大変だと実感致しました。
凪沙薫さん おかげ様で元気になれました。
また、挑戦いたします。
今後とも見守ってくださいませ。

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