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名無さん

名無 ななと申します。よろしくお願いします。 スマホからの投稿なので、読みにくかったら申し訳ないです。

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呆気なく

13/07/13 コンテスト(テーマ):第三十五回 時空モノガタリ文学賞【 無慈悲な人 】 コメント:5件 名無 閲覧数:1846

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ねえ、先生。
いつものように、そう話し始める彼女の声が、いまだ耳から離れずにいる。

彼女の声はいつも穏やかだった。にこにこと微笑みさえしていた。
ーーそうやって、本当の想いを隠すのが上手な子なのだと、分かっていたはずだったのに。



「ねえ、先生。私ね、鳥になりたいんだ。」
抜けるように青い空を、小さく切り取る窓。抗うように精一杯に開いて。
「鳥って、空を飛ぶために、できるだけ体を軽くしなきゃいけないでしょ? だからフンも垂れ流しだし、脳ミソも内臓も最小限なんだって。だから私も、鳥になるの。いらないもの全部棄てて、何も考えず、何も感じずに空を飛ぶの。」
人に語りかけておきながら、独り言のように空を見据えていう彼女の横顔。


「そうね、人間はみんな、空に憧れるから。」
私は、たしかそんな返事をしたように思う。
彼女の空への憧れは、この年頃の子が持ちがちな空想だと思っていた。あるいは逃避であり、あるいはナルシシズムであり。感傷である、と。
インスタントコーヒーに砂糖と湯を加えて混ぜる。茶色と白の粒が溶けていく様を想像する。
苦味と甘味。混ざり溶けて。飲み下す。
人生はコーヒーのようにはいかない。

「ねえ、先生。私が鳥になって、もうこの保健室に来なくなったら、どうする?」
にやりと笑って、そんなことを言う。
寂しいと、言って欲しいのだろうとはわかっていたけれど。彼女の人を試すような、挑発するような笑みに、ほんの少しばかりの意地のようなものを感じて。
「別に構わないわよ。仕事が減って助かるわ。」
こちらも試すように、言ってしまった。いつも自殺を仄めかすこの少女を、優しい校医の顔をして宥めていたというのに。
どうせ自殺なんてできないでしょうと。訳知り顔の大人の振りをして。
彼女はいつも通り、ふふ、と楽しげに笑った。


はたして彼女はその日の内に、学校の屋上から飛び降りた。
あまりにも呆気なく。私はなんてことをしてしまったのだろう。
不要な体を捨て去って。馬鹿な校医も捨て去って、彼女は、鳥になれたのだろうか。


今日も開け放した窓の外から、楽しげな鳥の囀ずりが響いている。
ピィピィという鳴き声が、彼女の笑い声と重なって溶けた。


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このストーリーに関するコメント

13/07/17 名無

はぐれ狼様
コメントありがとうございます。いつも本当に嬉しいです。
このあとのお話を、「無口な人」で書きたいなあと思ってプロローグ的な気持ちで書いたんですが、コンテストに投稿するには中途半端になってしまい反省してます(´・ω・`)
でもなるほど、この先生が救われるお話を繋げられたら素敵ですね。がんばって考えてみようと思います。ありがとうございます!


13/07/19 青海野 灰

切なく悲しいお話なのに、冷たく澄んだ青空のような、どこか静かな爽やかさすら感じました。
文体や表現も美しいですが、最後の締めが秀逸ですね。短めの文なのに深い内容があり、素敵です。
このあとのお話、とても楽しみです。お待ちしております。

13/07/20 名無

青海野 灰様
無慈悲な人というテーマ上、どうしても暗い話しか思いつけなかったので、爽やかさも感じて頂けたなら嬉しいです。案外この女の子は、清々と空を飛んでいるかも知れませんし。笑
それに、次を待ってくださるなんて感動です。上手くできるか分かりませんが、がんばります。ありがとうございます〜。

13/07/29 名無

凪沙薫様
A10神経…不思議ですね。ではこの女の子も、死ぬことでなく、誰かを愛することで鳥になれたのかも。そう思うとつくづく若くして死を選ぶというのは無慈悲だなと思います。死ぬことも一つの救いではあると思うのですが…。
考えさせられるコメントを、ありがとうございます。

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