1. トップページ
  2. モノクロ追いかけっこ

来良夢さん

まだまだ未熟……書くのは好き。

性別 女性
将来の夢 作家
座右の銘 おいしいものは正義。

投稿済みの作品

0

モノクロ追いかけっこ

13/07/13 コンテスト(テーマ):第三十四回 時空モノガタリ文学賞【 探偵 】 コメント:0件 来良夢 閲覧数:1489

この作品を評価する

 白黒の帽子の下から睨む顔と目が合って、わずかの間立ちすくんだ。
 何してるんだよ馬鹿。男の子が横から飛び出し、パンダの帽子を被った女の子の手を引いて逃げていく。呆気にとられて、思わず眼鏡をかけ直した。幼い2人組はすぐそばのベンチの陰に隠れ、周りを気にしてかがみこむ。男の子が深刻そうに眉をひそめ、女の子に耳打ちした。何事かと思ってそっとベンチに腰かけてみる。「まずいことになったな、お前のせいで犯人に気づかれた」「どうしましょうリーダー」「ひとまずここでやり過ごすんだ」吹き出すのをこらえて、唇がふるふると震えた。警官ごっこ、いや、さっき虫眼鏡が見えたから探偵ごっこか。あんな着ぐるみの頭みたいな帽子を被っていたら、目立って仕方ないと思うけれど。「ほら、ちゃんと変装もし直せ」「うん」私はタバコを取り出した。煙を吸い込みながら背後の2人の様子を想像する。兄弟かな。それとも友達同士か。あのくらいの年頃で恋人なんてこともあるだろうか。口元が緩んでタバコを落としそうになる。
 散歩中の犬が吠えてきて、飼い主に悔しそうに引かれていった。犯人のやつ、なかなか動きを見せませんね。こちらの様子をうかがってるのかもしれない。タバコはまだ十分な長さがあった。これ以上じっとしていると退屈だろうな。たまには無邪気な鬼ごっこに交ざるのもいい。私は立ち上がって脇目もふらず歩き出した。幼い足音が続く。秋の並木道には夕暮れ前の平穏な時間が流れていた。小学生の集団がいる。学生のカップルが歩いていく。老人が手を振り合う。柔らかいオレンジ色の光の中で険しい顔をしているのは、たぶん手を取り合って進む2人の追跡者だけだ。
 ふと思いついて、タバコの吸い殻を道に落としてみた。パンプスのつま先でしっかり踏み消す。数歩進んで、こっそり首を回した。食いついてる、食いついてる。探偵たちが虫眼鏡で大げさに覗き込んで芋虫のような白い残骸を挟んで話し合っている。きっと『何かわかりましたかリーダー』とか『これはきわめて重要な手がかりだ』とか。リーダーくんは透明なビニール袋を取り出して、つまみ上げた吸殻を中に放り込んだ。ビニール袋いっぱいに、空き缶、吸い殻、割り箸、ペットボトルの蓋、チラシ、あとなんか、いろいろ。犯人が増えたらその分街が綺麗になりそうだ。
 日が沈もうとしていた。薄紫の空にあの人の顔が浮かぶ。ああ、もう帰らないと。あの人のことだからまた炊飯器を準備し忘れて寝ているだろう。さっきから電話にも出ない。もう少し遊びたかったけれど仕方がない。タバコをもう一本落として終わりにした。早足になりながら目を閉じると、死骸の欠片のような吸い殻に手を伸ばす2人が瞼の裏に浮かんだ。マンションの管理人と入口でぶつかりそうになり、頭を下げつつエレベーターに乗り込む。家に夕飯の材料はあっただろうか。
 「ただいま」家の中は予想外に暗かった。リビングで横になっている彼の白い足だけが玄関から見える。「もう、やっぱり寝てる」真っすぐ台所に行こうかと思ったけれどやめて、顔の近くにしゃがんだ。「ねえ、今日可愛い子たちに会ったの。小っちゃい男の子と女の子でね、なんか昔の私たちみたいだなあって思った」
昔のこと、覚えてる? 乾いた細い髪をくしゃくしゃと撫でる。夜が2人を覆い始める。
 立ち上がろうとしたとき、インターフォンが無機質な呼び出し音を鳴らした。眠くなり始めた頭を抱えて応じる。『すいません、――さんのお宅でしょうか』ぼんやりする頭に浮かんだのは女の子のパンダ帽だった。機械的な男の言葉に上の空で頷く。タバコの臭いが服にしみついている。あとでちゃんと洗わないと。『少しお話を伺いたいのですが。ご同行願えますか?』それは命令だった。もうすぐ夕飯のはずだったのに。ふんと鼻を鳴らして通信を切る。「ごめん、先に何か食べててね」ぴくりとも動かない彼に言い残して、私は靴を履き直した。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン