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アフロ蛇丸さん

筆名「無言ダンテ」 カドカワエンタテイメントNEXT大賞B評価 コスモス新人賞佳作 インディーズ・ストーリー・フェスティバル入選 第45回北日本文学賞三次審査通過 第46回北日本文学賞三次審査通過

性別 男性
将来の夢 作家
座右の銘 人生七転び八起き。

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熱の探求

13/07/13 コンテスト(テーマ):第三十五回 時空モノガタリ文学賞【 無慈悲な人 】 コメント:1件 アフロ蛇丸 閲覧数:1473

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 兎の血も紅い。それは兎にナイフを突き立てて確認したのだから事実だ。その少年の息は荒く激しく、身体は小さく震えている。頬が興奮の為か朱色に染まっていた。

 通っている学校の兎小屋に深夜訪れたのは、その衝動をどうしても抑えられなくなったからだ。ここ何ヶ月かの間、自分の中で膨らみ育ち続けてきたある欲望。それに思いを馳せると興奮から勃起してしまうほどに焦がれてきた。
 無論、それが犯罪であるということは理解していたが、その衝動によって齎される焦燥感はあまりにも強く、若い彼には抑えきれるはずもなかった。そんな方法など、両親も学校も教えてはくれなかった。

 目の前で胴体を引き裂かれている兎はもうぴくりとも動かない。当然のこととはいえ、少年にはそれが不思議だった。先程までこの兎は、少年が与えた人参を美味しそうに齧っていたのだ。この兎が死んだということを理屈では理解していても、どうしても信じられなかった。
 兎に触れてみると、またほんのりと温かい。いや、これは兎にとっての死なのだろうか。死というものの概念が理解できない少年には、これが兎の生の終焉とは思えなかった。

 少年は顎を掻き小首を傾げると、ナイフをもう一度、兎の身体に突き立てた。一度、二度、三度と突き立てるが、兎はぴくりとも動かない。動いていた頃は一刺しする度に小さな悲鳴を上げ、逃げようともがいていたというのに。

 本当にこれは、兎にとっての死なのだろうか。心臓が止まり動かなくなるということ、それが死なのだろうか。だが、それでも兎の身体はまだ仄かに温かい。それとて、少年にとっては真実だった。

 擬態というものがある。死を装うという、自己防衛の為の手段だ。こんな兎がそれを使っているとは思えないが、その可能性も捨てきれない。

 生というものに興味が湧いたのは、校庭の片隅で蟻の行列を見ている時だった。少年が蟻の行列に水を掛けると、蟻はパニックを起こしながら必死になって足掻いていた。何匹もの蟻が小さな水溜りによって生死の境を彷徨っている様は、あまりにも滑稽であまりにも魅惑的だった。
 足掻いていた蟻が、力尽きて水溜りに沈む。それは間違いなく命の終焉だ。だがその時、少年は不意に思った。命とは、生とは一体どういったものなのだろうか。命が如何に素晴らしいものでも、絶対的な存在の前では無力と化す。それはどうしても変えられない事実であり、真実ではないのか。

 それから少年は、虫などの小さな命をわざと危険に晒し、それをじっくりと観察してきた。だが虫で満足していたのは僅かな日数だけで、それが蛙になり、小鳥になり、そして兎になった。

 生に対する探求の対象が、時を経るにつれ大きくなっているということに、少年は気付いていた。それが心の底から恐ろしくもある。抑えきれない衝動は次々と生贄を欲し少年を駆り立て、最後には己をも殺すだろう。それを実感している。だが、その衝動を抑えることが、自分の求めている生というものの探求を妨げる結果になることもまた明らかで、少年にはこれから先の人生を、この衝動を抱えたままに悶々と生きていくことはできなかった。

 例えばダ・ヴィンチは芸術の為に禁忌とされていた肉体の解剖を行い、それを克明に記していた。その暴挙は全て、彼の探究心と向上心が齎した結果であろう。ならば、自分が生を探求する為にささやかな命を刈り取り何が悪いだろうか。
 ひとつひとつの行動に明確な理由があり、己の糧となるのならば、それが外道であれ根拠となるはずだ。ダ・ヴィンチはそれを証明しているとも思える。

 兎の身体がいつのまにか冷たくなってしまっていた。蛙では全く分からなかった。小鳥も小さすぎて、熱を感じられなかった。この兎で初めて感じたものだったというのに、それも時間が過ぎれば失われてしまう。

 それは少年にひとつの真実を齎した。生と死とは、この熱のようなものなのだ。元々生と死に明確な一線などありはしない。間違いなく生と死が混ざり合う部分があり、生に近づくにしても死に近づくにしても、それは温度の問題なのだ。兎は生の温度が下がっていき、とうとう果ててしまったのだ。

 少年は歓喜に打ち震えた。とうとう命というものの真理に辿り着いた。この行為は無駄ではない、無駄ではないのだ。自分は命を刈り取ることに、意義を見つけたのだと。
 少年の目は妖しく鈍色に輝く。それは明確に、次の獲物を探す目だった。


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このストーリーに関するコメント

13/07/15 かめかめ

少年の科学的な探究心と、性的欲求が混在することに違和感を覚えました。

齎されるが読めなくて辞書引きました。難しいよ|゚Д゚)))

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