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汐月夜空さん

切ない話が好きな空想好きです。 なんでもない日常がなんでもある日常に変わる物語を読んだり書いたりするのが特に好きです。 ブログの方でも小説やエッセイ、ネタなどを書いておりますので、よければどうぞ。 twitterの方は私生活も含めて好き放題呟いてますので、汐月夜空のことが気になる方フォローお願いします。 ブログ:http://ameblo.jp/shiotsuki-yozora/ twitter:https://twitter.com/YozoraShiotsuki

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普通の探偵

13/07/08 コンテスト(テーマ):第三十四回 時空モノガタリ文学賞【 探偵 】 コメント:4件 汐月夜空 閲覧数:2136

時空モノガタリからの選評

最終選考

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「また猫探し? この暑いのに飽きないね」
「おや、そういう君は貴志君。この時間にここに居るということは、今日はテストだったんですね? いかがでしたか?」
 アブラゼミが騒ぎ立てる真夏の昼下がり、差し込む強い日光に反射して他のどの季節よりも緑が濃いシダレヤナギの並木の下で。
 麦わら帽にくたびれた白いワイシャツ、迷彩柄の短パン、右手で大きな青色の網を振り回す男が一人「ミミさーん! どこに居ますかー!」と真剣に何かの名前を読んでいた。
 そんな怪しい男を見つけて貴志はゲッ、とは思いつつも、自ら声をかけたのだった。
 彼の事は、良く知っていたから。
「まあまあだね」
 両手を広げ、自然と泳ぐ目をそのままに答えると、彼は笑って言った。
「やれやれ、そんなことでは私のような立派な探偵になれませんよ?」
「誰が探偵になるかっ!」
 思わず大声を上げる貴志。
 そうだ、誰がなるか。立派な探偵なんかに!



 貴志が彼と初めて会ったのは半年前のことだった。
 半年前、この街に強盗犯が逃げ込んだというニュースが流れ、午後から集団下校を行ったことがあった日があった。
 その時に、帰り道で今と同じように出会ったのだ。
 一緒に下校していた先生は怪しいと思ったのか、露骨に距離を取ったけれど、彼はわざわざ近寄ってきた。周囲に走る緊張。先生が力強く彼を睨みつけたその瞬間、彼は間の抜けた声で言った。
「あのー、すみません。この辺りで薄茶色の猫を見ませんでしたか。名前はモモさんって言うんですけれど」
「……はあ?」
 呆れた先生が細かく話を聞いたところ、彼が探偵であり、雪もちらつく寒い中で迷い猫を探しているところだということが分かった。
 今と同じように、という意味が分かっただろうか。
 彼は強盗犯が逃亡しているという緊急事態に、猫を探していたのだ。
 その事実は、探偵への憧れを持った貴志を含む少年たちの夢を完膚なきまでに叩き潰した。
「えー、強盗犯捕まえてよー」
「犯行現場に行ったりしないの?」
「何か他に事件を追ってるの? 殺人事件?」
 矢継ぎ早に飛んでくる質問に、彼は的確に答えた。
「駄目ですよ。そんなことをする権利は探偵にはありません。君たちが知っているような探偵のお仕事は、本来はすべて警察のお仕事なんですから。実際に事件が起きたときに、私たち探偵が出来ることなんて何もないのです。勝手に犯行現場を調べたり、犯人を見つけたりすることは出来ないんですよ。もし、それをしたとしたら、次に犯人に殺されるのは間違いなく私たちですから」
 「実際の探偵は弱いんですよ」と彼は苦笑しながら言った。
 先生はこれ以上は彼に悪いと思ったのか、皆に整列を促し下校の続きへと移った。「つまんないの」と友達同士で盛り上がる子供たちは、彼への興味を失ったのかあっさりと整列し、気だるそうに歩みを進めていく。
 そんな子供たちに後ろから、彼はもう一度尋ねた。
「皆さん、本当にモモさんを見かけませんでしたか? こんなに寒い日です。このままでは凍えてしまいます。何か御存知のことがあれば教えてください。お願いします」
 後ろを振り返ると、ぴしっと頭を深く下げている彼。子供相手にも礼儀を尽くす相手が珍しいのか、子供たちはきょとんとした後に頭を抱えて過去を振り返り、やがて誰かが言った。
「あの、さっき、あっちの塀の下に茶色の猫が居たような……」
「本当ですか!? あっちですね。ご協力ありがとうございます!」
 白い息を吐きながら走り去っていく彼の肩には、ふんわり雪が積もっていた。
 この寒空にどれだけの時間歩き回っていたんだろう。
 ほら、行くぞ。という先生に言われ歩き出した子供たちに、探偵への憧れはもうない。
 そこにあったのは――。


 結局、その時の事件はあっさりと解決した。
 強盗犯は警察が捕まえたし、モモは彼が見つけて保護した。
 誰も傷つかなかったし、誰も傷つけなかった。
 事件の解決としては上々ですね、と後に会ったときに彼は言った。
 そうだね、と貴志は応えた。
 モモは発見時、雪の上で震えていた。冷たくなった体で、力のない目で、小さな声で、必死に助けを求めていたらしい。
 彼がしたことは必要だった。探偵としての職務を果たしていた。
 それは貴志たちが知ったつもりになっていた、犯人を追いつめる名探偵なんかよりもよっぽどカッコイイと思う。
 彼は一つの命を救ったのだ。

「仕方ないなあ。手伝ってあげる」
 貴志が言うと、彼は本当ですか、と目を輝かせた。

 貴志は別に探偵になりたいわけじゃない。
 だけどもしもなるのならば、彼のような普通の探偵になりたいなと思う。


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このストーリーに関するコメント

13/07/08 光石七

拝読しました。
決して華々しい仕事ではないけれど、どんなことにも誠実に取り組む探偵が素敵です。
名探偵でなくていい、普通の探偵がカッコイイ。
温かい気持ちになりました。

13/07/11 汐月夜空

光石七様
コメントありがとうございます。
名探偵と呼ばれる人は現実には存在し得ないよなあ、それなら良い探偵のあり方ってどんなものなんだろう??
というところから掘り下げました。
温かい気持ちになったとの言葉、嬉しく思います。

13/07/12 そらの珊瑚

夜空さん、拝読しました。

まさに普通の探偵ですね。
>誰も傷つかなかったし、誰も傷つけなかった。
事件が起きて、誰かが悲しむこともなく、淡々と進行していくのが良かったです。
なんだかほっとするお話でした。この探偵さんのキャラクターゆえ、でしょうか。

13/07/27 汐月夜空

珊瑚さん、コメントありがとうございます。

ほっとするとの言葉嬉しく思います。皆様の癒しになれたら嬉しいです笑
最近淡々とした文を書くことが多くなったなあと自分でも感じています。
もう少しドラマティックに書いてみたいとも思いますが、もう少し時間が出来てからかなあと思っています。

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