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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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男こないで

13/07/08 コンテスト(テーマ): 第十二回 【 自由投稿スペース 】  コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1497

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 いつもいく近所のコンビニに入ったひな子は、店内の雑誌棚のまえに立つ、印象も華やかなひとりの女性の姿をみて、おやと目をまるめた。
 三上緋那須。
 しばらくあっていなかった。またいっそう、きれいになっている。だまって立っていても、まるでグラビアアイドルのようにさまになっていた。
 以前の彼女なら、周囲からたちまち男性がよってきたものだが、いまは………。
 ひな子は広い店内をみまわした。
 男性客の姿はすくなくない。だが、どうしたわけか、だれも、緋那須のところにちかづいていこうとするものはなかった。
 いったい、これはどうしたことなの………。
 ひな子が、三上緋那須のところに歩みよっていったのは、その答えがしりたいあまりだといってもいいだろう。
 本来なら、彼女のそばにいくのは嫌だった。
 いっしょにいると、当然ながら、二人の容姿を比較される。
 どう転んだところで、彼女に勝てるわけがないと、惨めな敗北感にこれまでいったいなんどまみれたことか。
 その緋那須になぜか、男がちかよってこない。ありえないことだった。
「おひさしぶり」
「まあっ」
 特長のある切れ長の、二重の目をいっぱいに見開いて緋那須は、本当におどろいた様子でひな子を見つめた。
 ひな子がヨガ教室に通っていたときしりあい、彼女がリタイアするまでの半年間、教室のかえりに毎日のようにお茶をのんだりしていたので、仲がいいといえばよかったが、その間つねにさっきの比較の問題にひとしれずストレスをためていたひな子だった。
「二年ぶりかしら。どうしているの?」
「まあなんとかやってるわ。それにしてもあなた、あいかわらず、美しいわね。いまでも、モテモテでしょ」
 悔しいことに、これは嫌味でもなんでもなく、周知の事実なのだということをわきまえながら、ひな子は口にしなければならなかった。
「そうなのよ」
 ためらいもなくいいきる緋那須に、ひな子はただ笑うほかなかった。
 いつも緋那須はこうなのだ。
 ヨガ教室時代にも彼女は、自分のエネルギー源は、多くの異性たちから向けられる熱い視線よ、などと真顔でいったりしたものだった。彼女の場合は、そんな放言がまかりとうるぐらいきれいかったので、いつでもひな子はいまのように、なすすべもなく笑うほかなかった。
 しかし、きょうのひな子は、せめて一矢報いたい気持ちでいっぱいだった。
「だけどきょうは、ノーヒットね」
「ノーヒットって?」
「ほら。コンビニ内にはあんなに男性がいるのに、さっきからみていてもだれひとり、あなたにちかづいてくるものは、いないじゃない。さすがの三上緋那須も、株価がさがったのかしら」
 にんまりとほくそえみながら、ひな子は彼女をうかがった。
 その緋那須の顔が、まるでカウンターパンチを狙うボクサーのような目つきで、ひな子をじろりと見返した。
「それは、これのおかげよ」
 彼女はそういうと、ブラウスの裾をあげて、腰の横につりさげた、薄青色したなにやら四角いものをのぞかせた。
「なんなの、それ。いまはやりの、防虫剤?」
「ちがうわ。虫じゃなくて、男なの」
「男?」
「これ、『男こないで』っていう、男がいやがるにおいを発散させて、よりつかないようにする、いわば防男剤なの。新製品でね。ドラックストアや量販店でも手に入れることができるわ。痴漢やストーカーをちかづけさせないように開発されたそうだけど、わたしの場合は、まるでコバエのようにむらがりよる一般男性が対象ってわけ。効果抜群よ。あなたも、どう?」
「いえ、あたしには………」
 それからさきはなにもいえずにひな子が、ただ力なくうなだれるのをみた緋那須は、勝者の笑みなど浮かべるまでもないとばかりに、じゃあねと軽く手をふって、こちらの返事もまたずにさっと店をでていった。
 駐車場に止めてあった高級車にのりこみ、走り去ってゆく三上緋那須を、ひな子は憎々しげに見送っていたが、ふと、ここにきた目的をおもいだしたかのように、ゆっくりした足取りで店内を歩きだした。
 男たちがいるそばに、なんども足をむけたり、あるいは一人の男性のまえに立ったりと、じつに30分ちかいあいだ、そんなことをくりかえしていたが、とうとうあきらめたようにさいごに、出入り口のまえまでやってきて、早く出て行けとばかり眼前で自動扉がひらくのを、しょんぼりしながらみまもった。
「なによ、これ!」
 と彼女は、ブラウスの裾でこれまでかくしていた容器を、邪険にむきだしにした。
 こちらは『男くるわ』という新発売の、男性をひきつけるにおいを発散させる容器で、やはりドラッグストアや量販店で購入することが可能だった。 
「ひとつも効かないじゃないの」
 さっきの緋那須に対する憤りもこめて、ひな子は握りしめた拳で力いっぱい、その容器を叩きつけた。 


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