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ポテトチップスさん

20代の頃、小説家を目指していました。 ですが実力がないと自覚し、小説家の夢を諦めました。ですが久方ぶりに、時空モノガタリ文学賞に参加させて頂きます。 ブログで小説プロットを公開してます。ブログ掲載中のプロットを、小説練習用の題材にご自由にご利用下さい。http://www.potetoykk.com

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心の天秤

13/07/01 コンテスト(テーマ):第三十五回 時空モノガタリ文学賞【 無慈悲な人 】 コメント:0件 ポテトチップス 閲覧数:2261

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 高木正人は携帯電話のボタンを押し電話を掛けた。深夜0時過ぎの公園には人の姿はなく、耳に当てた携帯電話の発信音が2回3回鳴り響くが、相手が出る様子はなかった。
 高木は電話を切り、虚しく発光する液晶画面を見つめたまま小さくため息を吐いた。7月初旬の夜気は少し蒸し暑さを残していて、昼間の職場での出来事をいつまでも引きずらせるようだった。
「高木は無慈悲な奴だよな。俺は課長の立場を理解した上で毎日、課長の指示に従いながら営業成績を伸ばしているって言うのに、高木は課長の指示に従わずに自分のやり方で営業成績を伸ばしてやがるしさ」
 喫煙所で同期入社の桑畑常春が、タバコの煙を口から吐きながら高木に言い放った。
「何がいけないんだよ? 課長は考えが古くさいんだよ。他の営業の奴らだって、陰でみんな課長のことを悪く言ってるだろ。違うか桑畑?」
「他の奴と高木は違うんだよ。高木はこの会社で一番営業成績が良いだろ。そんな高木が上司である課長の指示に従わずにいてみろよ、どうなるかぐらい想像がつくだろ」
「どうなるって、どうなるんだよ?」
 桑畑はため息を吐きながら2本目のタバコに火を点けた。
「社長命令で課長は今月いっぱいでリストラされることが決まったらしい」
「ちょっと待ってくれよ、課長のリストラは俺の責任だとでも言うのかよ?」
「ああ、俺はそうだと思ってる」
「だけど、課長の指示に従っていたら一軒も契約が取れないよ」
「そりゃ分かるけど、やり方ってのがあるだろうが」
 高木はスーツのポケットからタバコを取り出し吸おうとした時、携帯電話の着信音が鳴った。つい今しがた自分から電話を掛けたのに、電話に出ようか躊躇った。高木は鳴り響くコールの最中、俺は愚痴を言いたくて電話を掛けたのだろうか? と、一瞬頭で考えた後、親指で通話ボタンを押した。
「もしもし、母さん……」
『どうしたのこんな夜更けに電話掛けてきて。着信履歴を見て何かあったのか心配で掛けてみたわ』
「う、うん……まあ、何て言うかちょっと……」
『何があったの?』
「いや……、ねえ、母さん、俺って子供の時から無慈悲な子供だったかな?」
『そんなことないわよ。近所の年下の子供にも優しく接する子だったじゃない』
「そうだったかな、憶えていないな」
『何、誰かに何か言われたの?』
「ううん、何も言われていないけど、俺って無慈悲な人間かなって疑問に感じてこんな夜更けに母さんに電話を掛けてみた。ごめん」
『人間は無慈悲な心も慈悲深い心も両方持ってると思うわ。だから心の葛藤が生まれるのよ』
「確かにそうかもね」
『そうよ。それに慈悲深い心も時に、相手の心の重荷になってしまうことだってあるでしょう。両方持ってるからこそ人間で、両方持ってるからこそ日々生きれるのだと母さんは思うわ。ただし、どちらか一方に傾き過ぎてしまうと、人を傷つけてしまう結果につながるかもしれないから気をつけなさい』
 電話を切った高木は公園を出て、ゆっくりと自宅アパートに向け歩いた。途中、4台設置してある自販機のライトが照らす路上前で、6人の中学生風の少年少女が地べたに座りタバコを吸っていた。その前を通り過ぎようとした時、一人の長髪で髪を金髪に染めた長身の少年が立ち上がり「お兄さん、お金貸して」と言った。
「ごめん、お金無いんだよ」
長身で金髪の少年は高木に近寄り、高木を睨みつけてきた。高木は走って逃げる気力も戦う気力も湧かず、スーツの内ポケットから財布を取り出し、中に入っているお札をその少年に渡した。6人の少年少女は「カラオケに行こうぜ!」とはしゃぎ声を上げながら、前方の暗闇の路地の向こうに消えて行った。その暗闇を見つめたまま高木は、今年2月の夕方、桑畑と課長が事務所で話していた会話を急に思いだした。課長は桑畑に中学生の子供が2人いると話していた。高木はこれから高校・大学と、お金がかかる2人の育ち盛りの子供を持つ課長の今後を心配した。もし自分が原因で課長はリストラに遭ったのだとしたら、ここ最近の自分はやはり、無慈悲な人間に傾いていたのではないかと、高木は今更ながら後悔感がこみ上げてきた。
 6人の少年少女が消えた暗闇を見つめたまま棒立ちになっていた高木は、深夜1時を過ぎた人気のない路上で、目の前の路上を明るく照らす自販機に顔を向け『誰もいないのに……』と、思わず苦笑いを浮かべた。

終わり


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