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W・アーム・スープレックスさん

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将来の夢
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無慈悲剣

13/07/01 コンテスト(テーマ):第三十五回 時空モノガタリ文学賞【 無慈悲な人 】 コメント:2件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:2013

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 磯貝小也太が矢追道場に通いだしてすでに三か月がたつ。小也太は、矢追道場主、矢追精之進の使う無慈悲剣を習得したい一心で、稽古に通うようになった。
 無慈悲剣とはどのような剣か。入門前に耳にした噂では、それはまさに鬼のふるう剣だという。
「たとえそれが己の親であっても、いざ勝負となった場合は、一瞬のためらいもなく斬らねばならない」
 精之進は常に、門下生にそう語った。
 道場での稽古はまさにその教えに違わぬすさまじいもので、精之進の竹刀のまえに高弟たちもが泡をふいて悶絶する場面が繰り返された。
 他流派では鳴らした小也太だったが、精之進の気迫にみちた剣技に対しては手も足もでなかった。彼と同時期に入門してきた曽根春馬もまた、かなりの使い手ではあったが、やはりまるで歯が立たなかった。そんなよしみからか二人はウマが合い稽古の後などにはよく、近くの飲み屋に立寄っては、自分たちの不甲斐なさを魚にやけ酒をくみ交わした。
「いやはや、矢追先生にはとてもかなわん」
 すっかり脱帽状態の春馬をみて小也太は、苦々しげに歯噛みした。彼もまた師の実力は認めていた。彼はしかし、小也太ほど素直でも単純でもなかった。毎日のように完膚なきまでに叩きのめされ続けているうちに次第に、憤りのようなものが芽生えはじめていた。
「無慈悲剣か………」ふと呟いた小也太の顔に、なにやら閃くものがあった。「先生は、ことあるごとに、自分の親でも勝負とあらば、躊躇なく斬るといってたな」
「ああ、おっしゃってた」
「本当だろうか」
「え?」
「ためしてみないか。師が本当に自分の親を斬れるのかどうか」
「なにをいってるんだ?」
「先生の無慈悲剣が、言葉通りのものかどうか、たしかめるのだ」
 精之進の母親――別宅で精之進の姉夫妻と暮らしているとだけはまだ入門して日が浅い二人にもわかっていた。まずその母親を拉致し、同時進行で精之進に果し合いを申し込む。男装させた母親を、試合の場に立たせ、刀を握らせる。顔は頭巾で覆っておく。勝負がはじまり、精之進が迫ってきていままさに斬りつける瞬間、頭巾をとって母親の顔をさらす。精之進はそのまま刀をふりおろすことができるかどうか………。
「それまで母親を、どうやって立たせておくんだ」
「当て身で失神させた母親の体を杭で固定させ、後ろからおれが、両腕を突き出す。おれは若い頃国で、人形浄瑠璃の使い手をやっていたことがある」
 話をきているうちにだんだん、春馬も興を覚えはじめた。いまになって彼にも、全身から痣がきえる暇がない精之進の荒稽古が癇に障りだした。
「やってみるか」
 話に夢中になっていた二人は、背後でじっと耳を傾けていた中間風の男に、むろん気がつかなかった。

* *

 朝のうちに二人は、精之進の母親の家の前でまちぶせし、母親が外にあらわれたところを、小也太が忍び寄り当て身をくらわせ春馬とともに首尾よく連れ去った。
 すでにその時には、駄賃を握らせた童に、精之進宛の果たし状をもたせてあった。試合の刻限は当日、午後まだ浅き八つ半、場所は裏山の無人寺境内ときめてあった。
 逸早く境内にきた二人は、意識のない母親に羽織袴を着させてその身を杭にしばりつけ、さいごに小也太は羽織の後ろから腕をのばして刀をかまえた。
 そこに、精之進がやってきた。小也太は声高に、いざ尋常に勝負と、宣戦を布告した。
 精之進は刀を抜きはらうと、まっしぐらに突進してきた。小也太は母親の顔から頭巾をはずした。精之進が気合もろとも刃をふりおろしたのはその直後だった。
 その瞬間、これまで瞼を閉ざしていた母親が、かっと目をみはったかと思うと、二人羽織よろしく後ろからのばしていた小也太の手から刀をとりあげるなり、火花を散らして精之進の攻撃を受け止めた。
「おみごと、精之進! 私が編み出した無慈悲の剣、よくぞ迷わず放ちましたね」
 彼女はそして、背後の小也太をかえりみた。
「お前たちの企みは、中間をとおして私の耳に入りました。精之進が母の私とわかって斬りつけられるかどうか―――私もまた興味をおぼえて、わざとそなたのなまくらの当て身で気絶したふりをよそおい、成行を見守っていたのです。いまはもう引退し息子に道場をゆずりましたが、私こそもと矢追道場主であり、無慈悲剣の創始者なのです」
 それを聞いてふるえあがる小也太を、精之進は刀の先で指した。
「すべては、この男のはからいですか?」
「その男と、そこの茂みに隠れているもう一人です」
「二人をいかがいたしましょう」
「無慈悲剣、その神髄をかれらにみせてあげましょう」
 母と息子の無慈悲に徹した剣が本物だとわかった小也太は、肉親をも斬れる剣なら他人のおれなどひとたまりもないなと悟った時にはそれは、現実のものとなっていた。
 


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このストーリーに関するコメント

13/07/02 yoshiki

読ませていただきました。

恐るべし無慈悲剣! 面白いストーリー展開だと思いました。

最後怖いですね。やられてしまうのでしょうか(・・?

13/07/03 W・アーム・スープレックス

yoshikiさん、コメントありがとうございます。

これで小也太が無事息災だったら、無慈悲剣ではなく、慈悲の剣になってしまいます。べつにかまわないですが、それではテーマから外れてしまいます。意表を突くという点では、面白いかもしれませんが。

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