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黒沢 文章さん

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聖剣は幕開けの鍵となり

13/06/26 コンテスト(テーマ):第三十三回 時空モノガタリ文学賞【 迷う人 】 コメント:2件 黒沢 文章 閲覧数:1656

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 我が名はエクスカリバー。邪悪を撃砕する唯一無二の聖剣なり。
 火の神と夜の神とが世界を廻り、千年の眠りより私は目覚めた。

 万年森の鬱蒼と茂った樹々の間より、一人の少女が姿を現した。陽の光を反射した蜘蛛の糸のような銀髪が印象的である。肌は褐色であり、南方の出か、若しくはダークエルフの姿を私に想起させる。しかし横髪の間より窺える耳は尖っていない。南方の出の、一五、六の少女のようであった。

 聖剣の覚醒とは即ち、邪悪の権化である魔王の再来を予期している。同時に、この場所を訪れる次代の勇者の存在をも予知している。

 巨聖岩の周囲は幾分か拓けており、樹々の間を抜けた少女は私の元まで来ると歩を止めた。草の折れる音も止む。巨聖岩に突き立てられた私は少女の背よりも遙かに高い位置にある。少女は私を見上げ、私は眼下にいる少女に意識を集中した。
「美しい」
 少女は呟いた。意思の強さを窺わせる声音であった。
 私を見据える金色の両眼が勇ましい。口元は引き締まり、頬から顎にかけての線は丹精に鍛え上げられた刃の如き流麗さを感じる。全身を漆黒の外套で覆っており、少女自身を窺えるのは頭部と、そしてくるぶしより下の裸足の足先だけである。外套に浮かび上がる凹凸を推測する限り、ライトメイルのような軽鎧さえも着込んではいない。武器の類いもない。ただただ細い。魔王封印されしあとも万年森には数多の魔物が残滓のようにして住み着いているが、少女は最低限の装備、ましてや靴さえも履かずにここまで辿り着いたということのようだった。唯一の防具であろう漆黒の外套には複雑な術文が刻まれている。私に解読できないあたり、ここ千年の内に開発された新しい類いのものらしい。ただ、形状や術文以外に刻まれた深図形などを鑑みるに、どうやらそれが外套内に術力をため込むもの、外套内より外に術力が漏れ出ないようにするためのものであることは間違いない。私は意識を中空へと向けた。火の神が活発に輝いていることを確認し、意識を少女へと戻す。恐らく、術法によって発生させた冷気を外套内にため込んでいるのであろう。

 最低限の装備さえを不要とする身体能力、術法及び術具を使いこなせる一定以上の知識。勇ましい眼、何より少女の全身より発せられる只者ではない存在感。
 私は思考した。それは迷いでもあった。
 眼下に立つ少女には過去に例を見ないほど「勇者」としての素質があるのに異論はない。勇者とは運命的・宿命的な奇跡を備えてこの世に生を受けた者のことではない。唯一無二の聖剣である私に選ばれし者こそが勇者たり得るのである。先代の勇者もそれは素晴らしい素質を秘めてはいたが、しかしこれ程までではなかった。私はすぐにでもこの少女に私自身を引き抜いて欲しいと思う。しかし、私の刀身の奥底ではそれを容易に許可できない何かがあるのもまた確かなのである。

「聖剣エクスカリバーよ」
 迷う私へ向け、少女が意思の宿る凜とした声で語りかけてきた。
「私はお前が欲しい。私のために、お前が欲しい」

 そこへ一陣の風が万年森を抜けてきた。少女の外套が僅かに翻る。私はその風の中に確かに魔の瘴気を感じ取った。残滓のように住み着いた魔物のものではない、これは千年前に相対した魔王のみが放つことのできる一種崇高な負の瘴気であった。私は風の吹いてきた方向に意識を向ける。もう既にかの邪悪の権化は復活しているのかも知れない。
 私は意を決めた。私が迷っている時ではないのであろう。
 私は岩より突き出た刀身を淡く輝かせた。それを見た少女はまるで野生の獣のように優れた身のこなしで巨聖岩の上まで駆け上ってくると、躊躇いなく私の柄に手を掛けた。私は岩の中に張り巡らせていた聖座の鎖を全て断ち、刀身を解放する。少女はゆっくりと私を引き抜いた。

「我が名は聖剣エクスカリバー。邪悪を撃砕する唯一無二の剣なり」
 私が勇者と認めた者にのみ、私の意思は通じるようになる。私は私を見つめる少女に向けて語りかけた。
「我に選ばれし新たなる勇者よ。汝の名を聞こう」
 少女は私を火の神へと掲げ、笑い、そして名を告げた。

「私の名は魔王サタン。お前と、お前の選びし勇者によって封印された者」

 そうして少女は巨聖岩を降りた。樹々の間よりこちらを窺っていた幾匹かの魔物が少女と目が合うなりひれ伏した。
 私はここに来てようやく思い至ったのだ。少女が一切の装備なしでここまで辿り着けた理由を、何かを内に封じ込めるための外套の存在意義を、一陣の風が吹いた時にだけ――少女の外套が翻った時にだけ感じることのできた魔王の瘴気を、そして何より、「私のためにお前が欲しい」と語った少女の真意を。
 私の力が、私の認めてしまった勇者へと注がれていく。
 この者が魔王なのか勇者なのか、もう私にはわからない。


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このストーリーに関するコメント

13/06/27 光石七

拝読しました。
聖剣の視点というのが面白く、ラストも今後の世界がどうなるのか不安を抱かせてよかったです。少女に資質を感じながらも何を躊躇してるのだろうと思ったら……
長編ファンタジーの中の一節という印象を受けました。
楽しませていただきました。

13/06/27 黒沢 文章

>光石七さん

 感想をありがとうございます。
 ファンタジーということなのでもっとライトノベルっぽくしたかったのですが、どうにも僕の作風ではこれが限界のようでした。
 もっと会話で状況の説明をした方が良かったのかな……なんて今更ながらに思います。
 読んでいただき、本当にありがとうございました。

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