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aloneさん

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探偵だけでは成り立たない

13/06/21 コンテスト(テーマ):第三十四回 時空モノガタリ文学賞【 探偵 】 コメント:10件 alone 閲覧数:2358

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名探偵さえいれば事件が解決すると思っては居ないだろうか? もしそうなら、それは甘すぎる考えというものだ。推理小説世界はそんなにも甘くはない。
もちろん名探偵というのは華となる主人公であり、彼が事件を解決することがメインなのだが、探偵と事件だけというのでは芸がない。
皆さんもお知りだろうが、シャーロック・ホームズに登場するジョン・H・ワトスンしかり、エルキュール・ポアロに登場するアーサー・ヘイスティングズしかり、ブラウン神父に登場するフランボウしかり。有名な名探偵たちには助手、または相棒と呼ばれる役が存在する。
彼らは物語を面白くするために用意され、手がかりを見つけたり提供したりすることで名探偵が解決に至る手助けをしているのだ。
そして、かくいう私も名探偵の助手をいま務めているところだ。

目の前には背中を刺された中年男性の死体。名探偵であるハウジズとともに、その助手を務める「私」ことトマスンは偶然にもその場に居合わせてしまった。
現場は山奥の洋館。私たちは突然の土砂降りに雨宿りをさせてもらっていたのだが、唯一の道で土砂崩れが起こってしまい、我々はこの洋館に閉じ込められてしまっていた。なんてベタなクローズドサークルなんだ。
メイドの一人が食事の用意ができたことを伝えるために洋館の主の部屋を訪れたが、なぜか返事がないということで無理やり部屋に押し入ってみると、なんとこのざまだ。背中にナイフが一本付き立っており、そこを中心に赤い染みが服に広がっている。
名探偵であるハウジズは見せ場と言わんばかりに死体に駆け寄り、その脈を取った。
「死んでいます……」ハウジズが重い口調で台詞を決める。
その場に響く驚きの声。まあ、見た時点で死んでいるとは思っていたが、その場のノリと雰囲気というものを尊重しなければならないからな。私も「なにッ?!」とそれっぽく驚いておく。
私はふと視線をその場に居た他の人々の方に向けてみる。驚く人々の顔、顔、顔。だが、その中にほくそ笑むやつが一人。
おい、明らかに犯人お前じゃねえか。もっと役をしっかり演じろよ!
私は視線を外し、なんとか見なかったふりを努める。
もちろんそこでそのことを指摘して事件解決というのが一番手っ取り早いのだろうが、私は助手だ。助手が事件を解決するわけには行かない。
だが、犯人役の失態についてはちゃんと上に報告しておいてやる。アイツは減給だろうな。
「皆さん、落ち着いてください」ハウジズが余裕のある声でみんなに語りかける。「私は実は探偵なのです。ですから私がこの事件の犯人を見つけ出してみせます。とにかく屋敷に居る人は皆、集まっていただけるでしょうか」
名探偵の言葉を合図に、時間が経過して場面が変わる。場所は食事も兼ねてダイニング。そこには全部で六人の人間がいた。その六人は老若男女さまざまだ。老いた執事に若いメイド、その他数名に、そしてあの犯人。
ハウジズは思慮深い名探偵を演じるつもりか、黙ってその場の人々の観察にあたっていた。まあ、ここは私の出番なのだろうと思い、私は話を始める。
「私は彼の助手をしているトマスンと言います。まずは皆さんのお名前を聞かせていただけますか?」
それぞれに名乗っている人々。犯人はもったいぶったように最後に答える。
「オレの名前はキルヒム・ゴージェイル。殺されたアイツとは旧友でな。ヤツに呼ばれてこの屋敷に来たんだが、急に雨が降り出したもんだからココに缶詰めってわけだ」
キルヒム・ゴージェイル……kill him go jail... 明らかに犯人じゃないかッ! 作者はもう少し普通の名前を付けてやれよ!
私は吹き出しそうになるのを抑えながら、メモ帳にその名前を一応記しておいた。

それからは現場検証やアリバイ確認。ベッタベタなことでベタベタと塗りたくったストーリーを進んでいく。
私は犯人が誰であるかもう分かっているのだが、間違った推理などをドヤ顔で名探偵に語って彼に一蹴されたりという助手の役目を務めながら、なんとか物語は最終局番を迎えた。
「犯人はあなただ! キルヒムさん!」
ハウジズは彼を指さし、最後のポーズをビシッと決めた。犯人であるキルヒムはしょうがなかったんだと泣き崩れ、物語は無事終わりを迎える。
晴れ上がった空の下を歩きながら、私はハウジズに話す。
「いやぁ、今回も大変な事件でしたね。でもさすがハウジズさん。やっぱり名探偵ですよ」
「いやいや、そんなことはない。論理的におかしなことを消していって、最後に残った真実を告げただけですから」
ハウジズは謙虚な人間を装っているが、顔はニンマリと歪んでいた。やっぱり俺はすごいとか思っているんだろうな。
私は内心溜め息を零した。助手というのも大変だ。


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このストーリーに関するコメント

13/06/21 光石七

推理小説の登場人物の目線で、楽しく拝読しました。
助手は大変そうですね。あくまで探偵を立てないといけないし、進行役、狂言回し的な役回りもこなさないといけない。
助手が活躍するミステリーがあってもよさそうな気もします。

13/06/22 alone

光石七さんへ
助手が活躍するミステリー。見てみたいですね、そういうのも。
けれど、助手が事件を解決に導いた場合は、その助手が名探偵ということになるんでしょうか……?
名探偵の助手を主人公にするはずが、助手が名探偵になってしまってはなんだか矛盾してしまう感じですね(苦笑)
キャラが推理小説だと理解しているメタな要素がないと、助手が主人公とうのは難しいのかもしれません。
それはそれで、苦労する助手の姿が見れるので、面白そうではありますけど(笑)

13/06/24 かめかめ

あなたの文章が好きです。
ものすごく面白かったです。ふふふと笑いながら読みました。

13/06/25 名無

助手目線のお話、とても面白かったです。
事件がベタだからこそ、助手さんのツッコミが冴え渡ってますね!
探偵小説の裏話を聞けたようで、楽しかったです。

13/06/25 alone

>かめかめさんへ
嬉しいお言葉、本当にありがとうございます。
面白かったと言っていただき、なんとか考え出して書いた甲斐がありました。
元々は「僕と愛犬と賢者の石」という作品の方をこのテーマに、と考えていたんですけど、字数が大幅にオーバーしたので、この作品を急きょ書きました。
スピード任せで出来に不安が残っていたので、笑っていただけて何よりです。
感想ありがとうございました!

>名無さんへ
ベタな事件で推理はなく、コントみたいになってしまいましたが、楽しんでいただけて良かったです。
名探偵が事件を解決するという暗黙の了解のようなものによって手柄を得られない助手には、メタなツッコみに徹してもらいました(笑)
『名探偵の掟』のような探偵小説の裏話作品に少しでも近づけていたようなら嬉しいですね。
感想ありがとうございました!

13/06/28 alone

凪沙薫さんへ
読んでいただきありがとうございます。
仰るような、出来ない探偵のために助手が裏でいろいろとやる、という感じの話にしたかったんですが、長さ的に推理は切り捨てたのでこんな感じの作品に仕上がりました。
でも黒子として証拠を意図的に残してたりしたら、現代では大問題ですね。
証拠のでっち上げ、とかで雑誌などにすっぱ抜かれてしまいそうです(笑)
探偵モノは、頭脳明晰な名探偵が活躍するのがやっぱり良いですが、出来ない探偵のために助手が悪戦苦闘するようなものもあっても良い気がしますね。
感想ありがとうございました!

13/07/05 鹿児川 晴太朗

拝読いたしました。
助手に焦点を当てた推理小説というのはとても新鮮味のあるもので、とても楽しく読ませていただきました。推理小説が基本的にお堅いジャンルだからなのか、少し捻ると実に色々なコメディが描けるのだなと感心もさせられました。
探偵よりも有能な助手が予定調和の世界を皮肉りつつも、自分に与えられた役割をきちんとこなす。その苦労人な人柄に強く魅力を感じました。

13/07/05 alone

鹿児川 晴太朗さんへ
探偵ばかりが活躍するのではなく、その周辺人物にスポットを置いた作品もあってはいいのでは、と思い、こちらを書いてみました。
意識したわけではありませんが、優秀な人が推理をする推理物が多いですから、そこを捻れば、仰る通りコメディに仕立てやすいのかもしれませんね。
もし助手が事件を解決しても、その世界での自分の役割を考えて探偵に手柄を取らせる。だれが名探偵かよく分からなくなりそうな世界観ですが、魅力を感じていただき嬉しい限りです。
コメントありがとうございました!

13/07/11 汐月夜空

>犯人役の失態についてはちゃんと上に報告しておいてやる。アイツは減給だろうな。
を読んで、え、全部狂言なの? と思いながらも、その後の助手の的確なツッコミと感情の動きにニヤリとしました。
名探偵の助手というのも大変ですね笑 とはいえ、いきなり助手が解決してしまっては、盛り上がりに欠ける。名探偵が解決するというところに、被害者も含めた当事者たちの動かせない期待があるのかもしれませんね。

13/07/13 alone

汐月夜空さんへ
探偵小説としてはアリなのかというような世界観ですが、少しでもニヤリとしていただけて幸いです。
事件を真っ先に解決できた人が居れば、その人が真相を話せば良いわけですけど、これは探偵小説。探偵が解決しなければ意味がない。
というわけで助手は犯人が分かっても、自分の脇役という枠組みから出ずに、探偵に手柄を上げさせる。
掌編ですから端折りに端折ってますが、過程を描くなら、名探偵に当事者たちの期待に応えさせるべく、助手が悪戦苦闘していることだと思います(笑)
コメントありがとうございました!

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