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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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苦しまぎれの一作

13/06/21 コンテスト(テーマ):第三十四回 時空モノガタリ文学賞【 探偵 】 コメント:6件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1983

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 ひさしぶりに電話をかけると、はん子はすぐぴんときたらしかった。
「また、あれね」
「あってくれないか」
「しょうがないわね」
 毒づきながらも、それから一時間後、二人がよく行くホテルのラウンジに彼女は、ぼくより少し遅れてやってきた。
 ふいに呼び出すときはきまって、創作上のことだとわかっているらしく、ソファに座るなりはん子は、単刀直入に切り出した。
「こんどのテーマは、なに?」
「探偵」
「なるほど。あなたにはちょっと、不向きなテーマね」
「一応書いて、投稿サイトに送ったんだけど、あれじゃなあ………」
「どんなのよ?」
 彼女はこちらにぐいと身をのりだした。ぼくが書く作品の多くは、彼女のアイデアがもとになっていて、だめなものはだいたい、ぼくが一人で考えて書いたものだった。なんだかんだいっても、はん子はぼくの創作上のよき理解者で、だからこそ休日にいきなり呼び出しても、すんなりやってきてくれたのだ。
「宇宙から飛来した侵略者と、探偵をからめたものを書くには書いたんだけど………」
「あいかわらずね。あなたはアイデアに詰まると、いつもそれなんだから。エイリアンさえひっぱってきたら、なんとかなると思ったら、おおまちがいよ」
「もともとぼくはSF畑の人間で、ミステリーはからきしなんだ。その点、きみはよくミステリーを読んでるから」
「探偵物ねえ………あの手この手で難事件、殺人事件を作っては、解決していくんだけど、さすがにもう、でつくした感はまぬがれないわね。心理描写とか、複雑な伏線とかは、あなたには望めそうにないから、結局、エイリアンの殺人者とか、被害者がゾンビだったりとかの、あなた得意の荒唐無稽の線をねらう以外ないかもね」
 はん子はそれからしばらく考えこんでいた。総合格闘技をやっている彼女の体格は、いまではぼくよりはるかにがっちりしていて、以前みたときよりはるかに逞しくなっていた。
「わたしがあなたを殺すなら、どうするかなといま、考えていたの」
「いまのきみなら、そんなに時間はかからないだろう」
「じっさいにやってみないと、それはわからないわ」
 二人がそんなやりとりをしているとき、いきなり閉じたままの扉から、すっとなにかが侵入してきた。扉はぼくたちのすぐ横にあったので、ぼくもはん子も、まともにそれを目撃した。
「なんだ、あれ?」
 苦もなく扉を貫通したものは、やがてラウンジ中央までやってきた。人の姿はしていても、その顔にはおよそ人間らしい表情はみとめられない。
「おい、あいつ、もしかしたら―――」
 人間以外の生き物といいかけたぼくの唇は憐れなまでに震えて声にならなかった。
 壁際にならぶテーブルのほとんどを客が占めていて、そいつはゆっくりとそれらの客を物色しはじめた。
 そいつから伝わってくる、冷え冷えとした殺気に、青ざめるものも少なくなかった。
「こちらにくるぞ」
「やるっていうなら、相手になってやろうじゃないの」
 両こぶしを握りしめて、はん子が臨戦態勢になったそのとき、そいつは、ひとつ手前のテーブルの前で立ちどまった。
 その席にはさっきから、ずんぐりした男性が座っていて、その顔はひろげた新聞に隠されて見えない。
 そいつは、いきなり右腕を男にむかってさしのばした。と、突然その腕が、なにやら無数にからみあう蛇のようなものになったかと思うと、男のひろげた新聞を引き裂き、さらには男性の胸ふかくに食い込んでいった。
「わあっ」
 ぼくははん子のところにかけよった。さすがの彼女も、男が床に倒れるのをみて、あぜんとして言葉をなくしている。
 そいつは、男から腕をひきぬくと、床をすべるように移動して、また扉をすりぬけて出て行った。
「まあっ」
 はん子がのぞきこんだときいきなり、むっくりと男性が起き上がってきた。
 てっきり死んだとばかり思い込んでいただけに、二人の驚きようはひとかたではなかった。
「驚かせてすまない。私は、いまのエイリアンを追跡している、銀河帝国から派遣された探偵です」
「死んだんじゃなかったのですか?」
「私は、死なないのです。なぜなら、ゾンビだから。あいつは凶悪なエイリアンで、生命エネルギーのひとつのイドをもとめて、星から星を移動しているのです。しかしいま、イドをもたないわたしを狙ったことにより、やつの生命力は低下しているはず。これからあいつを捕獲にでかけます」
 いうなりゾンビ探偵は、エイリアンがすりぬけていった扉を、こちらは手で押しあけて、出ていった。
「ゾンビとエイリアンが出てきて、あなたが書く作品のような内容になってきたわね―――」
「一応、探偵も出たけど………」
 あくまで歯切れの悪いぼくをみて、彼女は吐息まじりにいった。
「次回作を、期待するわ」


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このストーリーに関するコメント

13/06/21 W・アーム・スープレックス

凪沙薫さん、実感のこもったコメント、ありがとうございます。

同じように苦しんでいる方がおられるのを知って、ほっとしました。このタイトルがすべてを語っています。とはいえなぜか、凪沙さんの作品、ステキなものができるような気がしてなりません。ミステリーは案外、部外者の手になるもののほうが、面白いのではないでしょうか。

13/06/21 yoshiki

W・アーム・スープレックスさんらしいお話の展開でメン・イン・ブラック を見ているようで楽しめました(*^_^*) ゾンビも嫌いじゃないです。

13/06/21 W・アーム・スープレックス

YOSHIKIさん、コメントありがとうございます。

楽しんでいただけて、なによりです。はん子を登場させるときは、本当にアイデアが浮かばないときで、したがってこれ、半ばノンフィクションなのです。またいつかあらわれると思いますが、そのときはそのようにご了承ください。

13/07/05 鹿児川 晴太朗

拝読いたしました。
久しぶりにはん子さんが出てくる作品を見た気がしますが、リアリティのある切実な悩みに裏打ちされているためか存外に読み応えがあり、これはこれで一つのシリーズとしてアリなのではないだろうかと思っています。
「ぼく」とはん子の掛け合いが秀逸で、仮に特に事件がなく二人の会話文が連ねてあるだけでも、ずっと読んでいられそうだと思いました。

13/07/05 W・アーム・スープレックス

鹿児川晴太郎さん、コメントありがとうございます。

はん子の存在を認めていただき、彼女もよろこんでいることと思います。
以前、はん子とは何者と問われたことがあり、読んでいただいたとおりの人物意外の何者でもありませんが、鹿児川さんのご意見に気をよくして、いつか「ぼく」とはん子のかけあい漫才―――でも書いてみよえかと思っています。はん子がOKを出せばの話ですが。

13/07/05 W・アーム・スープレックス

意外―――以外
書いてみよえかと―――書いてみようかと
のまちがいです。失礼しました。

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