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クナリさん

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将来の夢 絵本作家
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リトル スツル ディティクティブ

13/06/18 コンテスト(テーマ):第三十四回 時空モノガタリ文学賞【 探偵 】 コメント:10件 クナリ 閲覧数:2593

時空モノガタリからの選評

最終選考

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昭和のある時期。
ハインツ・コイルフェラルドが英国から東京の片隅に転校して来たのは、小学生の時だった。
彼は、外国人やそのハーフ、クォーターが大勢いる、全寮制の小中高一貫校に入った。
これは、彼が中学一年生の冬の時期の話だ。

異国情緒の濃い、煉瓦造りの男子寮のロビーの隅。ハインツはスツールの上、一人文庫本など読んでいた。
横から、同級生のミツキが声をかけた。
「少しいい?」
「男子寮に一人で来ると、損な噂が立つよ」
ミツキは、それをイエスの意味に取り、
「女子寮で、週末にミステリが起きたの」
「どんな」
「高等部の、キサラギ・サラ先輩知ってるでしょ。産まれつき目が見えないけど、優等生でしかも美人って有名な」
「美人は盲目と無関係じゃないかと」
「いいから、聞いて」

サラは、休日の夜、女子寮の談話室で点字の本を読むのが習慣だった。
この時間はあまり人が来ない。サラは一人で暖炉に火を入れた。
暖炉はスイッチで着火する形式で、正しく使っていればまず火事などは起こさない構造になっており、注意を怠らなければサラにも充分扱えた。
ソファへ座り、本を数頁読んだ時。
突然、ざん、と何かの音がして暖炉の熱が失せた。炎が消えたのだ。
「誰?」
応える者はいない。彼女は立ち上がり、愛用の白いステッキを構えた。
その時、談話室のドアが開き、電灯のボタンを押す音がした。サラには無意味なので、点け忘れていたのだ。
「どうした」
入って来たのは、サラの級友で男子寮生のカラキだった。談話室やロビーなどは、寮生同士で異性側の利用が許可されているので、これは問題ない。
「カラキ君、そこにいて。談話室からの出口はそこだけだから」
「え?」
「誰かが、暖炉を消したの。まだ部屋の中にいる」
カラキは周囲を見回し、
「誰もいないぞ」
「火が消えた時、水の音がしたの。人がやったのよ」
しかし、椅子や机の物陰にも人の気配はない。
「誰かの悪戯で、もう逃げたんじゃないのか」
「そんな暇はなかった。只の悪戯なら、もう白状している筈よ。もっと酷いことをしようとしていたから、出て来れないんだ」
「考え過ぎだよ。でも、気味は悪いな。送るよ、ロビーへでも……」
「逃げたらだめよ。ただ脅かそうとしたんだとしても、もっと別のことを企んでたとしても、……何で私なの? 女だから? 弱そうだから? 目が見えないから? 面白い? 失礼だわ。私を全部、ばかにしてる。怖いわよ、怯えたわよ、だから許せないの!」
カラキは、涙目で憤るサラを、何とかロビーへ連れ出した。他の女子寮生に彼女を任せ、談話室に戻ったが、人の痕跡は見つからなかった。
学校側は、暖炉の不調が招いた事故だったと見なさざるを得ず、それでこの話は終わった。

「状況からすると、カラキ先輩の仕業かなと」
そう言うハインツに、ミツキが、
「最初から部屋の中にいたとか言いたいの? サラ先輩は、あの時確かに彼は部屋の外から入って来たって言ってたそうよ。音で解るらしくて。外からどうやって火を?」
「サラ先輩の読書の習慣を、彼は知っていたんだろう。予め暖炉の中に、大き目の水風船でも吊るしておけばいい。着火すれば、熱で風船が破れて水が暖炉内に降る。サラ先輩が聞いた水音はそれだろう。謎の闖入者、湧き上がる恐怖……で、救いの騎士が姫の前に登場する」
ミツキが呆れ顔をした。
「確かに、彼はサラ先輩に気があるって有名だけど」
「その通りなら、実に幼いね。闖入者などいない以上、どの道サラ先輩の勘違いで片付けられてしまうってのも酷い。仮に風船が他人に見つかっても、アラ誰かの悪戯ね、で終わりだから彼はノーリスク。彼が談話室へ戻った時、風船の残骸も回収しただろうね。残り火があったら危ないからと、その時に水をかけたことにもできる」
ミツキはカウチにぺたりと座り込み、「最低」。
「いや、これはただの可能性だよ。ただ、あまり騒ぎにならないのは、今ではサラ先輩もそう察しているからかもね。怖かったろうに、それでも彼に恥をかかせないよう沈黙しているのなら、優しい人だよ。真相は結局謎だけど、何にせよこれは彼女の勝ちだ。勝因は、」
ハインツはいくつかの日本語を思い浮かべ、その中から、
「彼女の素敵さ」
を選んだ。
「言っとくけどサラ先輩、好きな人いるわよ」
「それは、ショックだ」
ミツキが腰を浮かせ、
「ほんとに好きなの?」
「弟とかがね、彼女に憧れてる」
「なあんだ」
と座りなおす。
「でも今回のことで、僕も好感を持った。気高い人は好きだよ」
「……ふうん」
「何?」

窓の外は、冬の夜。ハインツの産まれ故郷よりも、少し湿った風が吹く。
それは、悪くない。
人も、空気も、ここは、悪くないものが多い。
この日はもう本を閉じて、ハインツはミツキと、もう少しだけおしゃべりをした。


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このストーリーに関するコメント

13/06/18 名無

会話で物語を展開させていく、更に人の性質まで読み取らせるテクニックに、舌を巻いてしまいます。サラの気高さは、外見だけではない美しさを感じさせるものでした。
そして、最後の二人の会話。恋愛感情の仄めかし具合が絶妙でした(>_<)

13/06/19 鹿児川 晴太朗

拝読いたしました。
異国情緒のある学生寮での小さなミステリ、とても楽しく読ませていただきました。登場する人物がみんな活き活きと鮮やかに描かれていて、とても魅力的でした。特にハインツの貫徹したクールさには、同性ながらに引き寄せられるカッコよさを感じました。同時にミツキの感情が表に出やすい性格も可愛らしく思えました。掛け合いがすごく上手だったので参考にしたいと思います。

13/06/20 光石七

情緒があり、心理描写もお見事です。
一人一人の個性もしっかり伝わってきます。
2000字で終わらせるのがもったいないような気がします。

13/06/20 クナリ

名無さん>
名無さんにほめていただけて、うれしいです。
会話のみでの展開って個人的には好きなんですが、つい掛け合いばっかりになってしまいがちなので、気をつけながら書いています。
ラストの仄めかしについても同様で、うまくいったようで安心しておりまする。

伊坂屋さん>
丁寧な批評、痛み入ります。
構成を行う際の取捨選択や優先順位に気をつけて、読みやすくも内容のあるものを書いていければと思います。

鹿児川さん>
アームチェア・ディティクティブを、うんとキッチュにやりたかったんですよね。
小規模な事件、しょうもない(^^;)真相、みたいな。子供らしく、みんな生き生きとしたさまを書けていれば良かったです。
なんだかんだ、せりふを考えるときが話を考えているときと同じくらい楽しいかもしれませぬ。

光石さん>
ありがとうございますッ。
情緒はもっと醸したかったんですが、クナリの筆ではこれが限界でしたね〜。
途中から、子供が出ているんだから、登場人物の行動やキャラクタ性のほうへ注力しようとか思った気がしますが、ほほうそれでこれかお前みたいな感じなのでたぶん気のせいです。。
ま、「ちょっと短い、もったいない」と言っていただけるくらいがちょうどいいんですよ、たぶん。
高いチョコレートと同じ。ちっちゃすぎる、もっと、いやこれくらいが一番おいしくいただける量なんだよ、みたいな。
ちがうか(^^;)。

13/06/22 クナリ

凪沙薫さん>
ありがとうございます。
ハインツやサラが出てくる話は、実は以前書いたことがありまして、今回はそこから出張してもらいました。
スピンオフ、というやつですかね。

『ノインテータのクリスマス』
http://works.bookstudio.com/author/21990/21689/1.htm
こちらでハインツが(超脇役な上に性格も違う感じですが)。
なぜ英国から来た彼の名前がドイツ圏ぽいのかなんかが語られたりとかして。

『オフィーリアの水牢』
http://works.bookstudio.com/author/21990/23554/contents.htm
こちらに彼とキサラギ・サラが出てきます。
ただ、サラはちょっとアレな扱いですが…。

活躍、させてみたいですけどね、なんにせよ筆力と発想力がともなわないとホラ(^^;)。

13/07/02 そらの珊瑚

クナリさん、拝読しました。そしてまたまたクナリワールドに魅了されました。
みめ麗しく(すみません、勝手に想像しました)クールなハインツは、意外と人の恋心には疎かったりして?(笑い)
人が死んだりしない小さなミステリーを軸に、なんとも素敵でかわいい会話の妙! 楽しませていただきました。

13/07/02 クナリ

そらの珊瑚さん>
精力的な執筆、おつかれさまです。「名古屋」受賞もおめでとうございます。
言う機会をうかがってましたが、やっといえましたッ。
ハインツは美形であってほしいですが、おそらく彼女とかはぜんぜん作れないですねー。
作ったとしても超冷たいですね、たぶん。

そう、クナリは気づいたのです。
自分の書く話は、人が死んだり泣いたり死んだり泣いたり死んだり泣いたりしすぎだと(今更ッ…)。
テーマ「探偵」ときたら、もう密室殺人事件しか思いつかなかったのですが、あえて「殺人」をがまんして(がまんして?)このような話になりました。
サラはたまったものじゃないですけどね、でもこういう(ちょっと困らせてちょっかい出す、みたいな)気の引き方って古今東西をとわず世界の共通らしく…。

13/07/11 汐月夜空

2000字でこれだけの情報量が伝えられるんだ、と驚いたお話でした。
台詞回しがとても素敵で、しっかりと感情がのっていてすんなりとお話に入り込めるところが魅力的でした。
カラキが憤るサラの言葉を聞いて少しは反省していると良いんですが……。
いやでも、本当にカラキの仕業かを確定されてないんですよね。それでも動悸はハインツの推理通りで、だとすればやっぱりカラキが怪しい。ううん、奥行きのある素敵なお話をありがとうございました。

13/07/14 クナリ

汐月さん>
ありがとうございます。
たとえ文字数制限があろうと、『探偵』というテーマに対してはミステリ風の話を書いてみたかったのです。
つまり、トリック有りのの犯罪(?)の話を。
犯人の特定や「お前が犯人だ!」のシーン、動機の告白などのお約束を盛り込めなかったのは心残りではありますが、こんな感じで仕上がりました。
そう、カラキが犯人とまでは特定できていません。
極端な話、ハインツが犯人かもしれませんし(^^;)。

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