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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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R130は危ない番号

13/06/17 コンテスト(テーマ):第三十四回 時空モノガタリ文学賞【 探偵 】 コメント:2件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:2000

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 ヒョーマの目がきらりとひかった。
 これまで、気の遠くなるような歳月、すさまじい飢えと孤独にさいなまれながら、宇宙空間をただよってきたかれの全身が、こみあげてくる歓喜におもわずゾクリとふるえた。接近しつつある惑星からは、かれのもとめる大量の生命の気配が強烈につたわってくる。
 このまえ生命体にありついたのは、いったいいつのことだろう。その惑星はヒョーマによって、絶滅した。さいごのひとりまて、食らいつくした結果だった。
 いままのあたりにしている惑星も、かれが立ち去るときには、ひとりの人間の姿ものこっていないはずだ。
 ヒョーマはしかし、油断なく神経をこらした。
 惑星に棲息する生命体なら、どれでもいいというわけではない。あくまで対象とするのは知性体―――人間にかぎられた。その人間の精神にもぐりこみ、生命エネルギーを吸収し、漂流で疲弊しきった全身を活性化させたのちに、待望の人間狩りをはじめるのだ。
 それには、最初に遭遇した人間のIQが130以上が絶対条件だった。
 これはいうほど困難ではない。
 これまでヒョーマが渡り歩いてきた高い文明を築いた惑星の知生体はほとんどが130以上、あるいはそれよりずっと高い数値を示していた。
 まんがいち、その数値を下回ったらさいご、ヒョーマの身体能力は最低レベルに固着され、もはや宇宙に飛び出すことも、人間を殺戮することもかなわなくなる。
 しかしそれはかれにも、杞憂だとわかっていた。もう目の前まで迫ってきた地上に屹立する幾何学形の贅をこらした高層建築群をみるまでもなく、この惑星の住人の知性の高さは用意に推し量れた。
 案ずるには及ばない。
 ヒョーマはふたたび身ぶるいすると、四肢をいっぱいにひろげて、着地の態勢にはいった。

 ☆  ☆  ☆

 おれがこの仕事に憧れたそもそもの理由は、あの名探偵明智小五郎に岡惚れしたからにほかならない。謎と謎が複雑にからみあいだれもが匙を投げる難事件を、他の追従をゆるさない卓越した推理力で解決していくその手際のよさに、少年だったおれは感動し、将来はぜったい探偵になるのだと胸をときめかせた。
 それでおれは明智探偵事務所を探しまわった。できたら、小林少年の助手に使ってもらうつもりでいた。
 しかしどこにもそんな事務所はみつからなかった。
 そこでおれは、もうひとりの名探偵、金田一氏を探してあちこち歩きまわった。それもかなわないとわかるとこんどは、わざわざイギリスはロンドンにでかけて、あのホームズを、はたまた髭のポワロをさがした。
 しかし両名探偵はいまも解明困難な事件の解決にいそがしいとみえ結局、どちらにも拝謁できないまま帰国せざるをえなかった。
 それでもおれの夢は潰えることはなかった。
 この春おれは、念願の探偵事務所に就職した。少年のころからの夢は、ついにかなえられたのだ。
 最初の仕事が、不倫夫の追跡調査だった。つぎがある団体内でのセクハラ調査、借金問題、隣人トラブル、そして今回がなんと、迷子の飼い猫をみつけだせという依頼だった。
 おれがまちこがれる、明智探偵や金田一探偵が挑んだような謎が謎呼ぶ怪事件に遭遇するのはいったいいつのことだろう。
 そんな焦燥にかられながらおれは、スマホ画面にうつしだされた猫のフォトを確認しながら、夕暮れ間近の公園を重い足取りでうろついていた。
 と、そのおれの目が、ベンチの背後の茂みの中にうごめくものをとらえた。
 猫だ。
 おれはとっさに、ペンライトの光を当てた。
 フォトの猫とよく似ている。頭から尾まで約三十センチ、両足のさきが茶色で、おれをみてもひとつも怖がらないところから、飼い猫だったことはまちがいなさそうだった。
 おれは手のひらをさしだし、「猫ちゃん」とよびかけた。
 突然、猫の目がカッと大きく見開いた。その瞳孔が、信じられないほど明るく光り輝いた。
 おれは一瞬、かるい眩暈に襲われたが、すぐに意識は回復した。
 猫は、なぜかがっくりと肩をおとしているようにみえた。さっき目が光った時は一瞬、この世のものでないような、そんな物凄い形相にみえたのに、いまはもうごくふつうの―――いや、すっかりしょぼい猫になりはてていた。本当は猫ではないのだが、なんらかの理由で猫にならざるをえなかったものの、悔恨というか、落胆のようなものが、その顔に張り付いているように思われてならなかった。
 おれはそんな猫を難なく捕獲すると、ペットキャリーにほうりこみ、飼い主を早く喜ばしたい一心でタクシーを拾った。
 数分後、タクシーの座席に着いたおれは、名探偵になれるのはいつのことだろうと案じつつも、猫の喉をなでなでしながら、それでも夢だけはいっぱいふくらませていた。


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このストーリーに関するコメント

13/06/19 W・アーム・スープレックス

井坂屋手当さん、ご丁寧なコメント、ありがとうございます。

読みづらい部分があったことはお詫びします。
書いているときはあまり考えないのですが、いまになって、いろいろ考えさせられました。ご指摘の件をふくめ、今後の参考にさせていただきます。

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