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○○の日

12/04/28 コンテスト(テーマ):第三回 時空モノガタリ文学賞【 端午の節句 】 コメント:1件 よなみ 閲覧数:2329

時空モノガタリからの選評

最終選考

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「ねえパパ、もう起きる時間だよ。ねえ、ねえったら」

 午前九時。寝室は東からのぼった太陽の光に満たされ、たまに鳥がひそかにさえずる、ごくごく平凡な休日の朝。幼い少年が寝坊の父親を揺り動かして起こす光景も、平穏な日常にぴたりと当てはまる。

「ぼくおなかすいちゃったよ。困るよ。ねえ……」
「いやだい!まだ寝るんだい!」

 ぼふんと枕を投げつけ、威厳たっぷりなひげを口元にたくわえた父親は聞く耳も持たずそのままベッドにもぐりこむ。少年は諦めたような表情を浮かべ、キッチンへ向かった。

「お兄ちゃん、おはよう」
「おはよう。ママは起きた?」
「ぜんぜんだめ。朝ごはん作ってくれたの?」
「うん。こんなものしかできないけど……」

 ぐしゃぐしゃフライパンの上でかき混ぜただけの玉子焼きと、不器用に切られたウインナーをトーストの上に乗せて、小さな兄妹は「いただきます」と小さくつぶやく。
 午前十時を回る頃、母親がもそもそと起き出す。そして食卓に着くやいなや、フォークを投げ出してわめく。

「やだあ、あたしこんなの食べないもん」
「文句言わずに食べてよ。これでもいっしょうけんめい作ったんだよ」
「やあ、やあよ!食べないもん!」

 いすから飛び降りて――と言えども長身の母親に椅子から床まで飛び降りる様な距離は無いのであるが、それでも飛び降りる様な動作で――戸棚からスナック菓子を取り出し、ぼりぼり食べながら妹の部屋に向かってしまった。散らかった食卓とぼろぼろ落ちていく食べカスを見てため息がこぼれる。

「あ、ママ、そのお人形あたしのよ……」
「お人形遊びしたいの。いいでしょう?一緒にしましょう」
「でも、あたし宿題が……」
「何よ、つまんない子ね。いいわよ。ミヨちゃんとするから」

 ミーヨーちゃん、遊びましょう。母親の甲高い声が外から聞こえて、美代叔母さんに迷惑がかかりゃしないかと一抹の不安がよぎるが、はーあーい、という負けず劣らず甲高い声が返ってくるのを聞いて要らない心配だったと気づく。どこも一緒なんだから。

「ねえお兄ちゃん、お昼と夜のごはん、どうしよう?」
「出前をとろうか。それとも、スーパーのおかずを買ってこようか」
「だめよ。今日お店で働いてる大人なんていないわよ。毎年のことじゃない」

 粗末な朝食のせいか早くもすき始めたお腹を抱えながら冷蔵庫を漁っていると、空気が破裂するような泣き声が玄関から聞こえてきて慌てて駆け付ける。父親が顔を真っ赤にして泣いているかたわらで、部下の平松さんがすねたような表情で目をそらしている。

「ぶったんだ、平松君が、ぶったんだあ」
「違うよ。部長が僕のミニカーとろうとするから、手がすべったんだよ」
「まあまあ、平松さん、パパ泣いちゃってるし、ここは一つ謝って……」
「君まで僕のせいにするの!ひどいよ!」

 平松さんの切れ長の目にみるみる内に涙が溢れ出し、あっという間に泣き声が二重奏に変わる。わあわあわあ。体が大きいと泣き声も子供の比じゃないことを体感する。もうやりきれない!外に逃げ出そうとした矢先、美代おばさんの家から泣き声が聞こえて踏みとどまる。その四重奏に、兄妹は途方に暮れてただ立ち尽くしていた。








「ねえパパ、もう起きる時間だよ。ねえったら」

午前七時。昇り始めたばかりの太陽は輝かしく、いつもと変わらない平穏な光景を彩っている。

「いやだい!まだ寝る……」
「パパ、こどもの日は終わったよ。もう六日だよ」

 言うやいなや、眼をぱっちり開かせて、威厳たっぷりの髭に似つかわしいきびきびした動作で素早く起き上がる。


「そうか、こどもの日は終わったのか」





 キッチンでは母親が朝食を作っている。今日はみそ汁、白ご飯、鮭の塩焼き。
「好き嫌いしちゃだめよ」

 父親はスーツをぴっしり着て、定刻通り会社に向かう。
「お友達と仲良くするんだぞ」

 そして少年は、幾度目ともないため息をつくのだった。


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このストーリーに関するコメント

12/04/30 かめかめ

そんなこどもの日はいやだ^^;
しかし、子どもがたくましく育ちそうではあるな。と、感心しました

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