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ポテトチップスさん

20代の頃、小説家を目指していました。 ですが実力がないと自覚し、小説家の夢を諦めました。ですが久方ぶりに、時空モノガタリ文学賞に参加させて頂きます。 ブログで小説プロットを公開してます。ブログ掲載中のプロットを、小説練習用の題材にご自由にご利用下さい。http://www.potetoykk.com

性別 男性
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真っ平な人生

13/06/09 コンテスト(テーマ):第三十三回 時空モノガタリ文学賞【 迷う人 】 コメント:2件 ポテトチップス 閲覧数:2159

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雨は上がり、雲の隙間から星が顔を覗かせ始めた。久世卓巳は閉店間近のマクドナルドの前の路上に立って、神経質に近くに立つ複数の男達を横目で気にした。
『餌取り』は縄張り争いがあって、ホームレスになったばかりの新顔には、容赦なくホームレスから餌取りを邪魔される。昨日も、別の閉店後の飲食店で餌取りを待っていたら、ボロボロの汚れた服装にどす黒い顔をした複数のホームレスに、餌取りを邪魔され食料を得ることができなかった。
 先ほどから、複数のホームレスが久世を意地悪そうな目で見ては、口を曲げて笑っている。人間は落ちぶれても人を馬鹿にすることは止められない生き物なのだなと、久世は実感した。
 自動ドアが開き、若い女性店員が店の外に設置してある看板を店内に運び入れようと出てきた。あからさまに店の外に立つ小汚い男達を一瞥しては顔を歪めた。
 人から一瞥され顔を歪められる行為は、ホームレスに落ちぶれて3ヶ月が経つ久世だったが、やはり気分が落ち込んだ。
 しばらくして店内の電気が落とされると、近くにいた複数の男達はビルとビルの間に消えて行った。久世も急ぎ足で向かった。まるでカラスのように廃棄になったハンバーガーを男達は手に持ている袋に詰め込んでいる。久世も今夜の餌を取ろうと手を伸ばすと、ひとりの男が体を割り込ませそれを邪魔した。男達が餌を手持ちの袋に目一杯に詰め込んで去って行った後、残りものをみるとフライドポテトしか残っていなかった。今夜もまともな餌は得られなかったが、手持ちの袋にフライドポテトを一杯に詰め込んだ。
 終電を迎えた駅のホームの一角で、敷いたダンボールの上で横になって目をつぶっていると、誰かに体を揺すられ目を開けると、この駅のホームをねぐらにしていると思われる別のホームレスの一人からだった。
 「なんですか?」
 「あんた、ここから出て行ってくれよ」
 「どうして?」
 「あんたが寝ているその場所は、他の奴の寝場所なんだよ。勝手に承諾もなしに寝場所にされちゃ、気分が悪いだろ。今すぐ、ここを出て行ってくれよ」
 これで、ホームレスになって8回目の引越しを余儀なくされた。なかなか寝場所を探すのは大変なことで、駅のホームなどの好立地な場所には別のホームレスが縄張りを張っている。公園などは新顔でも寝場所にしやすいが、雨が降る夜や真冬のことを考えると好い寝場所とは言えないのであった。
 ダンボールを小脇に挟んで、寝場所を探しに夜の新宿の街を彷徨った。歩きながら久世は、自分は寝場所を求める『迷う人』だと思った。好きでホームレスになった訳ではないが、ホームレスになれば悩みや迷いとは無縁の人生が待ち受けていると思っていた。なのに、いまこうして寝場所を探して迷い悩んでいる。その現実が悲しかった。とても酒が飲みたい気分に襲われた。なんだか歩くのが面倒に思えてきた久世は、一軒のシャッターが閉まったクリーニング店の軒下に座り込んだ。
 空を見上げると月と星が瞬いていた。不意に10年前に亡くなった久世の父の顔が思い浮かんだ。父が亡くなる1年前、自宅アパートのベランダで、父と酒を飲みながら月を眺めたことがあった。
その時の月は、満月を少し崩した月だった。
 父は久世に言った「人生は迷うことばかりだと。人生に迷ったら、他人に頼ってみるのも一つの方法だ」と。
 久世はズボンのポケットをまさぐり、中からシワシワになった名刺を取り出した。4日前の日曜日の朝、ボランティア団体が善意で行っている炊き出しをもらいに行った時に、ホームレスを救済する目的のNPO法人の一人の女性に「何にか困ったことがありましたら電話を寄越してください。24時間電話は繋がりますので」と、そう言われて手渡されたのだ。
 久世は決心して立ち上がり、道路を挟んで向かいに設置してある公衆電話BOXに入りダイヤルを押した。
 『はい、NPO法人〇〇です』
 「あのう、ホームレスをしてます久世と言います」
 『はい、お電話ありがとうございます。どうされましたか?』
 「もう寝場所や餌取りに疲れて、こんな人生から抜け出したいんです」
 『いま、どちらにいらっしゃいますか? 一時的にホームレスを宿泊させるシェルターが空いていますので、これから車で迎えに行きますので』
 公衆電話BOXから出ると、夜空を見上げて「再起できるかな…」と小さく呟いた。 もう、こんな人生は真っ平だと心底思った。


終わり


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このストーリーに関するコメント

13/06/09 光石七

拝読しました。
描写にリアリティがあり、読みながらドキドキしました。
「人生に迷ったら、他人に頼ってみるのも一つの方法」というお父さんの言葉にグッときました。
甘えるべきところでなかなか甘えられない人もいますよね……
主人公には少し休憩してもらって、新しい一歩を踏み出してほしいです。

13/06/11 てんとう虫

とてもリアリティ-がありました。前に見たドキュメンタリ−のテレビの映像が浮かんでくる文章です^^自分だったらと考え読みました。続きが読みたいです。

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