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泡沫恋歌さん

泡沫恋歌(うたかた れんか)と申します。

性別 女性
将来の夢 いろいろ有りますが、声優ソムリエになりたいかも。
座右の銘 楽しんで創作をすること。

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迷子になった私

13/06/08 コンテスト(テーマ):第三十三回 時空モノガタリ文学賞【 迷う人 】 コメント:18件 泡沫恋歌 閲覧数:2965

時空モノガタリからの選評

最終選考

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 私は四歳の時に迷子になったことがある。
 それは引っ越しした日のことだった。荷物の整理に追われる両親や引っ越しの片付けを手伝う兄や姉たちは忙しく、誰も私と遊んでくれなかった。
 役に立たない四歳児は、みんなから忘れ去られて退屈し切っていた。

 そこは初めての町だった。
 前に住んでいたところは近くに大きな川があったけど、駅から遠くて不便な場所だった。お父さんの仕事の都合で、こんど社宅というものに入ることになった――。
 今までは平屋のボロ家だったけど、今度は三階建ての二階が我が家だ。うちは家族が多いので社宅でみんなの迷惑にならないかとお母さんは凄く心配していた。子どもが多いとドタバタ足音が喧しいので階下の人に気を使ってしまう。

 小さい子供は引っ越しの邪魔だからと外へ追いやられて、家の前の道で遊んでいた。
 石を蹴ったり、ローセキで絵を描いたりしていたが、誰も知り合いがいない、この町では独りぼっちでつまらなかった。退屈しきった私は家の前の道を歩き始めた。ただ、周りの風景や町を見たくて……知らない道をどんどんと歩いていった。
 その時、自分が迷子になるなんて考えもしない。初めての町が珍しく、好奇心を満たすためだけに歩いていった。
 どのくらい歩いただろう? 
 大きな交差点に出たところまでは覚えている。そこは四歳児が一人で渡れるような道路ではなかった。ここに来て初めて自分は知らない所に居ることに気が付いた。そして帰り道が分からず、頼れる人がいない事実にも驚愕したのだ。
 どうしよう、どうしよう……家が分からない、あたし一人じゃあ家に帰れない!
 ついにパニックになった四歳児は大声で泣き出した。

 ――ここでしばし、記憶が途切れる。

 この後、近所を歩いていた人に交番所に連れていって貰ったようなのだが、どんな人だったのか思い出させない。あやふやな記憶だが、大人たちに取り囲まれて「この子、どこの子?」「お嬢ちゃん、どこから来たの?」「お父さんは? お母さんは?」そんな質問を矢継ぎ早に浴びせられて、人見知りの激しい四歳児は更にパニックに陥っていたようなのだ。

 この迷子事件は2分の1世紀経った今も断片的ではあるが、割と鮮明に覚えている。後ほど妄想と空想が混ざり合って、多少の脚色もされているとは思うが、四歳児だった私にとっては衝撃的な事件であったことは間違いない。
 交番に保護されてから、たぶん、自分の名前や年、両親の名前などを質問されたように思う。あっぱれ親の名前を答え、今日引っ越ししてきたことをお巡りさんに私はちゃんと言えたようである。
 それで他にいたお巡りさんが私の親を探しに行ってくれた。しょせん、四歳児の移動距離なんて知れたものである。割と簡単に引っ越ししてきたばかりの家が見つかったみたいだ。
 交番で待っている間、お巡りさんがうどんを食べさせてくれた。お昼時だったし、痩せて貧相な子どもだったので不憫に思ったのだろうか。今でもハッキリ覚えている、それは「卵とじうどん」だった。
 白状すると、私は異常なほどの卵が好きな人間なのだ。年齢的にコレステロールが心配だからもう止めようと思うが、ほぼ、毎日一個は食べ続けている。

 その時、食べた「卵とじうどん」の美味しかったこと!

 いっぺんに交番が好きになってしまった。今でもお巡りさんに好印象を持っているのは四歳児への刷り込みが強烈だったからと言えよう――。
 そして、親が見つかり家に連れて帰られた私だったが、何んと驚くべきことに、お巡りさんに来られるまで、私が迷子になっているという事実に、まったく親は気づいていなかったということだ!
 私って、どうでもいい存在だったのだろうか? その時、抱いた親への不信感は一生拭えないままである。

 ともあれ迷子になったが無事に家に帰れたのだから、めでたし、めでたし……と言いたいところだが、あの時、迷子になったのは私ではなく、私自身の存在感だったような気がしてならない。
 だから、見失った存在感を探して。――あれから2分の1世紀、今も知らない道を彷徨っている。


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このストーリーに関するコメント

13/06/08 泡沫恋歌

写真はフリー画像素材 Free Images 1.0 by:Juria Yoshikawa様よりお借りしました。http://www.gatag.net/


この話は事実に基づいたフィックションです(`・ω・´)ハイ!

卵好きは真実です!6( ̄▽ ̄;)

13/06/08 yoshiki

まったく親は気づいていなかったという部分は切ないです(~_~メ)

うまくお話をまとめてあってお上手。

ところで私も卵大好き人間です。コレステロールなんて気にしません。

今日も天津麺食べたし、にら玉はおととい食べたし、オムレツはその前に、あっ、脱線してすいません。おもしろかったです。

13/06/08 光石七

拝読しました。
単なる子供の頃の思い出で終わらせなかったところが良かったです。
私も迷子といえるかも。
気付かなかった親御さん、忙しすぎただけだと信じたい……

13/06/08 草愛やし美

泡沫恋歌さん、拝読しました。
迷子になるってすごく心細いものです。私も、幼い頃より、方向音痴で、幾度も迷子になっています。20歳近くなっても、迷子(言わないですね、迷い人)になりました。しかも、母と一緒に、道に迷ってしまったのです。道にプラカードを持つ宣伝マンのおじさんに聴いてようやく目的地が、判明しました。その時まで、数時間、同じ道を行ったり来たりしながら、「ここにあったはずだよね」「きっとあったはずだよ」なんて、話してました。二人とも京都生まれの京都育ち。母、50年、私20年、足せば70年ですから、阿呆としか……。苦笑

フィクションとしても、親御さんに不信感を抱いてしまった方が、素敵な創作をしているとすれば、進むものを教えてもらってたのではないかと思いますよ。

13/06/09 泡沫恋歌

yoshikiさん、コメントありがとうございます。

これね。
ホントは実話なんですよ。一応、事実に基づいたフィックションなんて
書いてるけど・・・まるっぽ、ホントです!

迷子になったのに気づいて貰えない、私の存在感って・・・(´ノω;`)

卵料理は大好きです。
天津飯は私にとって最高に美味しい料理のひとつです!

卵好き♪☆-(ノ●´∀)八(∀`●)ノイエーイ☆

13/06/09 泡沫恋歌

光石七さん、コメントありがとうございます。

引っ越ししたばかりで忙しいことは分かりますが、家族全員が誰も気がつかなかったと
いう事実があまりに悲しいです。

存在感ゼロの私なんて・・・。

あの日から、ずっとイジケタ人生を送ってますσ(´∀` )ァタシ

13/06/09 泡沫恋歌

草藍さん、コメントありがとうございます。

創作じゃなくて、ほとんど実話です。

【 迷う人 】という時空のテーマを貰った時に、すぐに迷子になった時を思い出しました。
江戸時代だったら、これが親子の今生の別れになるところだったんですよ。
お巡りさん、ありがとう!

今度、東京に行っても迷子にならないようにしないとね(笑)

13/06/10 ハズキ

拝読しました。

迷子になっちゃうと、ホントに不安で怖いですよね。小さな子供は特に特に。大人でもどうしようって思っちゃうし。
存在感がないのはつらいね。誰からも相手にされないとか、誰も知ってる人がいないとか、これは辛い。

なにかすごいことがあった時に食べたものの味っていつまでも覚えてますよね。
怠慢なおまわりさんも多いですが、子供に好かれるおまわりさん、もっと増えることを願ってます。

13/06/12 こぐまじゅんこ

泡沫恋歌さま。

拝読しました。
忙しくって気づかないこと、あるかもしれませんね。
昔は、そんなに子供にかまっていなかったし。
その経験が、今の泡沫恋歌さんを創っているんですね。

13/06/13 泡沫恋歌

ハズキさん、コメントありがとうございます。

迷子になっちゃった私自身の話です。
存在感がないので迷子になっているのに誰も気づいてくれないという悲しい話。

お巡りさんが優しかったのが、せめてもの救いですよね(笑)

13/06/13 泡沫恋歌

こぐまじゅんこ、コメントありがとうございます。

この経験は結構大人になるまで笑い話としては語れませんでした。

まあ、こうやって時空モノガタリで作品としてアップできたのだから、
元は取れた感はありますかね?(笑)

13/06/14 泡沫恋歌

凪沙薫さま、コメントありがとうございます。

芥川龍之介の「トロッコ」という作品は読んだことはないのですが、迷子になるお話なんですか?

子供って勢いで歩きだして、いきなり自分が迷子になったと気がついてパニックになります。
あの時の私もそうでした。

2分の1世紀経った今もやけに鮮明に覚えているのはかなり衝撃的だったということなんでしょうね。

まあ、今でも人生という道で迷子になっている私ですが・・・(;¬∀¬)ハハハ…

13/06/15 そらの珊瑚

恋歌さん、拝読しました。

実話だったんですね。昔の親ってうちもそうでしたが、忙しくって子供のことは二の次っていうところありました。
私はよく自分の子を迷子にしてまして(汗)探し回ってあおくなっていたら、なんとパトカーの乗って現れたこともあったんです。迷子になった自覚もなくにこにこ笑いながら。あのときは脱力しました((笑))

13/06/15 鮎風 遊

うーん、なるほど。

こちらも彷徨っていることには変わりはありません。
どこへ辿り着くのでしょうね。
そんなことを考えてしまう面白い話しでした。

13/06/17 泡沫恋歌

珊瑚さん、コメントありがとうございます。

そうなんですよ。
実話ですが、四歳児の記憶に基づいているので、多少の記憶違いや後付けの
エピソードもあるかも知れません。

私が迷子になってることに気が付かなかったことは、たぶん、母親から聞いた
ことのように思います。

ホント、存在感が薄い人間でした(笑)

13/06/17 泡沫恋歌

鮎風さん、コメントありがとうございます。

確かに、私たち創作者は常に迷い、戸惑い、考え込んでいます。
自分の書いた一文の、それがベストかという自分クオリティーに拘っている
限り、創作というラビリンスを彷徨っているのですよ。

いつ果てるとも知れない迷宮の未知(みち)を・・・。

13/06/20 メラ

 迷子になったのは私ではなく、私自身の存在感。
 いいお言葉です。ということは人間ってしょっちゅう迷子になっている、移ろいやすい存在ですね。私もしかりです。

13/06/21 泡沫恋歌

メラさん、コメントありがとうございます。

そうなんですよ。

私は四歳で物ごころついてから、ずっと『自分の存在』を探しています。

実はまだ見つかっていません(泣)

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