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光石七さん

光石七(みついしなな)です。 子供の頃から空想(妄想?)が好きでした。 2013年から文章化を始めました。 自分では気付かないことも多いので、ダメ出しを頂けるとありがたいです。

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四十ニシテ惑ハズ

13/06/05 コンテスト(テーマ):第三十三回 時空モノガタリ文学賞【 迷う人 】 コメント:13件 光石七 閲覧数:2994

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 いつの世にも優柔不断な人間はいるものだ。木野弥生も幼い頃から何かを決めるということが苦手だった。外食したら、他の者はとっくに注文しているのに、最後までメニューとにらめっこするのが弥生だ。好きな人ができても告白すべきかどうかでまず迷い、友人に励まされてやっと告白すると決めても、手紙がいいか、直接告げるのがいいか、いつどこでどんな形で告白しようかと散々悩み、結局その間に他の子が相手に告白してカップル成立。「何もしなかった弥生が悪い」と友人は呆れていた。進学や就職も自分で決断できず、ぎりぎりまで何も手を打たない弥生を見かねて、親が半ば強引に決めてやった。
「慎重って言えば聞こえは良いけど、もっとシャキッとしなさいよ。私たちがいなくなったらどうするの? 誰かに決めてもらわないと何もできないなんて、いい大人が恥ずかしいでしょ」
母に言われるまでもなく、弥生自身が自分の性格に嫌気がさしていた。もっとスパッと物事を決められたらいいのに。
 ある日、弥生は学生時代のサークル仲間だった綾重奈乃香に呼び出された。奈乃香は薬品会社で新薬の開発に携わっている。
「弥生に治験者になってほしいの」
「治験って?」
「簡単に言えば新薬のモニターかな。実際に薬を使ってもらって、効果があるかどうか体験してもらうの」
奈乃香は説明を続ける。
「弥生って何かを決めるのにすごく悩んで迷うでしょ? そういう人って多いし、中には日常生活に支障をきたす人もいる。実はね、決められない人って脳内に『ナヤーミン』っていう物質がたくさん出てることがわかったの。そこで、ナヤーミンを押さえる薬を作ったんだけど、本当に決断力が上がるか確かめたいの。弥生なら効果がわかりやすいでしょ? お願い、協力してくれない?」 
安全性は確認済みであり、謝礼も出るからという奈乃香の押しに負け、弥生は承諾した。
 渡されたのは瓶詰めのカプセルだった。
「一日一回、二個ずつね。四十日分。一週間くらいで変わってくると思う。うまくいけば、この一瓶で体質……じゃないか、性格改善よ」
薬で性格が変わるだろうか? しかし、弥生が損をすることは何もないし、一日一回くらいサプリメントだと思えばそう負担でもない。あまり期待せずに一週間飲み続けた。
「木野さん、ランチ行かない?」
職場の同僚に誘われ、弥生は新しくできたオーガニック・レストランに行った。健康志向だし、値段もそこまで高くない。
「ねえ、こだわりハンバーグだって」
「いいね。でも、チキンも捨てがたいかも……」
「パスタも美味しそうじゃない?」
メニューを見ながら、同僚たちが悩んでいる。
「私、白身魚のポワレにする」
弥生の言葉に同僚たちは目を丸くしたが、言った本人がもっと驚いていた。何故か無性に魚が食べたくて、このメニューしか目に入らなかったのだ。
(薬の効果なの?)
まだ半信半疑ながらも、迷わずに決めることはなんだか気持ちがいい。弥生は薬を飲み続けることにした。
 その後も、今までの自分ならなかなか決断できなかったことをすっと決めてしまう体験が続いた。洋服を短時間で選んで買ったり、旅行の行先に迷っている両親にお勧めの場所を教えたり、新しい企画を思いついて上司に提案したり、弥生は自分が変わってきていることを感じた。最近はきはきしていると、職場での評価も上がってきた。極めつけは、軽井という男性社員からの交際の申し込みにその場でOKの返事をしたことだった。弥生も以前から好意を抱いてはいたものの、今までの経験からいくと、間違いなく返答に困るはずだ。弥生は奈乃香に感謝した。デートを重ねるうちに四十日が過ぎ、瓶は空っぽになった。
 弥生は奈乃香に効果があったと伝えた。本当に性格が変わったのか、薬なしでも迷わなくなった。だが、次第に困った状況も出てきた。最初に思ったことをそのまま言動に移してしまうのだ。欲しいと思った物をすぐに買ってしまう。経理に出す伝票を水増ししようとする。一旦冷静に考え直すということができなくなってきているようだ。人件費削減の通達に「社長の給料を減らせばいい」と発言して、リストラの有力候補になってしまった。
 慰めてほしくて軽井のアパートに行ったが留守だった。しばらく待っていると、軽井が若い女と談笑しながら帰ってきた。弥生を見て軽井が固まる。
「この人、誰?」
女が訝しげに軽井に尋ねる。
「……会社の同僚」
軽井は素っ気なく答えた。弥生は黙って軽井のアパートを後にした。
 ――もう嫌だ。死んでしまいたい。弥生が自宅に戻ることはなかった。

(弥生、「あまり悩まなくなった」ってうれしそうに言ってたのに……。もっと飲み続けないと定着しないのかしら?)
葬儀に向かいながら、奈乃香は首をひねっていた。
 薬が認可されるのは、まだ先のようだ。


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このストーリーに関するコメント

13/06/05 平塚ライジングバード

光石七様、拝読しました。

優柔不断というのは必ずしも悪いものではない…と考えさせられました。
「はい」、「いいえ」以外にも「悩む」という選択肢があるんですね。
不思議なストーリーで、どういう結末になるのかドキドキしながら読ませていただきました。

余談ですが、名前がつぼでした。
彼女はやっぱり怪しげなのか…と思っていたら、案の定怪しげな方でした。
ありがとうございます♪

13/06/05 光石七

>平塚ライジングバードさん
コメントありがとうございます。
いろんな意味で強引な話になってしまったと思っていますが、楽しんでいただけてよかったです。
「笑ウせぇるすまん」や「世にも奇妙な物語」をイメージしたのですが、難しいですね……
名前の件、気付いていただけてうれしいです。
この作品の中では、名前はすべて遊び心で付けています(笑)

13/06/05 泡沫恋歌

光石七さん、拝読しました。

途中までは全て上手くいってたのにね。
迷い過ぎるのも困るけど、判断力があり過ぎて行動が先走るのは
もっと酷い結果になってしまいそう。

弥生さんは悩まずに死を選んじゃったのかしら?

ちょっと、ブラックなオチになっちゃいましたね。

13/06/06 光石七

>泡沫恋歌さん
ありがとうございます。
書きたかったことを汲み取ってくださり、うれしく思います。
最後、弥生が迷うことなく……というのがまさに一番のポイントなので。
もう少しうまく書ければよかったのですが orz

13/06/06 そらの珊瑚

光石七さん、拝読しました。

予想しなかったまさかのオチでした。全くお気の毒です。
私もどちらかといえば、優柔不断なほうなので、それでもいいかなあと、妙に納得してしまいした((笑)

13/06/06 光石七

>そらの珊瑚さん
コメントありがとうございます。
私自身がかなり優柔不断ですが、他人事のように書いて悲惨な結末にしました(苦笑)
人間、多少は悩んだり迷ったりしないと成長しないですしね。
でも、私の場合はもっとしっかりしたほうがいいという自覚はあります、ハイ。

13/06/06 鹿児川 晴太朗

拝読いたしました。
中々に重厚な語り口で始まったかと思いきや、いきなり「ナヤーミン」という人を食ったような名の薬が出てきて危うく口に含んでいたカフェラテが噴出しそうになりました。
作風的にはコメディタッチで笑いながら読めるのですが、テーマを抜き出して見てみると中々に考えされられるという、二律背反のような素晴らしい作品だと思いました。最後のシーンで友人の奈乃香が悩んでいるというのも実に皮肉が効いているなあと思いました。とても楽しく読ませて頂きました。ありがとうございます。

13/06/07 光石七

>鹿児川 晴太朗さん
もったいないコメント、恐縮です。
書いた本人よりも深く細かく読んでくださり、照れております(笑)
ネーミング、ふざけてご迷惑をおかけしました m(_ _)m
でも、こういう名付け方は考えるのが楽しくて好きです。

13/06/07 草愛やし美

光石七さん、拝読しました。
あれほど、迷う人だったのに、治験はあっさりと迷わなかったんですね。弥生さん、惜しかったなあ★
 
まさか、このオチが来るとは予想できませんでした。スルスルと読み進みながら、どんなハッピーが来るかと期待していましたのに……。でも、確かに、優柔不断でなくなったようです、むしろ、彼女には効果がありすぎたのでしょうね。
実は、私も「ナヤーミン」物質が多い人間なんです。でも、さすがにこの話を読んでますから、治験参加は見合わせますね。たとえ絶賛さんという方が、話を持ってきても…ですね。笑

13/06/07 光石七

>草藍さん
治験を依頼された時も即決ではなく、弥生が引き受けるか断るかはっきりしない態度だったので、奈乃香に強引に押し切られたのでした(苦笑)
私もナヤーミンが多い人間ですが、治験はお断りしたいですね。
実は奈乃香の家族の名前まで考えてしまいました(笑)

13/06/09 かめかめ

すばらしいネーミングセンス。
軽井さんの新しい彼女の名前は「浮名流子」とかでしょうか。

13/06/09 光石七

>かめかめさん
ありがとうございます。
軽井の彼女の名前は考えていませんでしたが、かめかめさんの案が素晴らしすぎて、超えるものは思いつかなそうです(笑)

13/06/10 光石七

>凪沙 薫さん
コメントありがとうございます。
ネーミングは極力実在しないもの、ネットでヒットしないものを心がけております(笑)
「ナヤーム」の件、奈乃香に伝えてみますが、期待しないでくださいね。
なにせ「あやしげ」ですから(苦笑)

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