1. トップページ
  2. ガールズ ドント クライ

クナリさん

小説が出版されました。 『黒手毬珈琲館に灯はともる 〜優しい雨と、オレンジ・カプチーノ〜』 マイナビ出版ファン文庫より発売中です(表紙:六七質 様)。 http://www.amazon.co.jp/dp/4839958211 twitterアカウント:@sawanokurakunar

性別
将来の夢 絵本作家
座右の銘 明日の自分がきっとがんばる。

投稿済みの作品

10

ガールズ ドント クライ

13/06/03 コンテスト(テーマ):第三十三回 時空モノガタリ文学賞【 迷う人 】 コメント:9件 クナリ 閲覧数:2390

この作品を評価する

父の死後、母と共にカルトに入信した時、私は十歳だった。
学校では担任の女の先生や同級生から避けられ、家では教団の男性信者を母が連れ込んでいるという、特殊な生活を送っていた。
教主様は三十代半ばの精悍な男の人で、女性信者によく囲まれていたけど、彼の隣にはアサコさんという、当時二十歳位の綺麗な女の人が常にいた。

教団の本拠地は、野中に立つ白い建物だった。
十三歳の時、私が教堂でアサコさんと石膏の聖母像を拭き掃除していたら、つい爪をぶつけ、像の端を欠けさせてしまった。絶句する私に、アサコさんが
「爪、平気?」
と訊いて来た。
「どうしよう」
半泣きで答える。
「接着剤で付けて、内緒にしとこう」
思わぬ提案に、彼女が聖母様に見えた。
「皆に言わないんですか」
「それで、あなたに何か得があるの?」
「得……は、無いと思いますけど」
「でしょ。反省している人を追い詰めたって、意味が無いし恥ずかしいもの」
彼女が微笑む。胸が高鳴り、温かくなった。神様は、多分こんな風に笑うのだろう。
彼女が私の、特別な存在になった日だった。

私が十四歳の時、教堂でボヤがあった。放火らしく、警察が来たけれど、その時の調査で教団の様々な違法行為が偶然発覚した。
教主様とアサコさんは二人で失踪し、信者達は怒り、呆れ、離散。
教団は、消滅した。

十五歳の秋の放課後、私は近所の川の堤防に座っていた。母の新しい男が帰るまで、時間を潰す為。友達もいない私の日課だった。
すっかり暗くなった頃、傍に人影が現れた。
「隣、いい?」
その声を聞き、驚きで鳥肌が立つ。
暗いせいで横に座ったその人の表情は見えないけど、彼女に間違いない。
「あ、あの、お久しぶりです……あれから、そう、教主様は、どうしてるんですか」
「どこかへ逃げちゃった。昨日」
人影が私の顔を見つめる。私は彼女が見られない。
「なぜ、私達が逃げたって話を皆に広めたの?」
「……私は、見たままを言っただけです」
あの日私は偶然、二人が町から逃げ出すのを見た。それを信者達に喧伝し、無理矢理広めたのも私だった。
「随分、執拗だったって聞いたけど」
動揺。焦燥。その上、詰問されている気分。ついカッとなり、私は大声で言い返した。
「私は、女の人に絶望したくなかっただけです。母も、先生も、信者のおばさん達も、嫌な女ばっかり。あなたしか、信じられなかった。二人が私達を捨てたって叫んでいれば、あなたが帰って来てくれると思ったんです。そんな訳無いでしょって、笑いながら! ……あの時、みたく……」
けれど彼女は戻らず、私は謝ることも出来ずに、針の筵の様な日々が過ぎて行った。呑気に友達なんて、作れるものか。
「私はあの日から、迷子のままです。迎えに来てと、叫んでるだけの。教主様が、そんなに好きなんですか。彼がいれば、それで良かったんですか」
ずっと謝ろうと思っていたのに、幼く醜い自分を止められない。
人影は、暗い川面を向いて呟いた。
「男の人を、好きになったことはある?」
「私が好きなのは、……女の人です」
ああ。
少しの沈黙。響く水音。私は鼻をすすり、
「でも、私のこと、もう嫌いですよね。ごめんなさい……」
「私も」
彼女の声は静かだった。けれど、確かだった。
「私も、迷子だった。あの人が消えてやっと気付いて、そして、あなたを思い出したの。あの子はまた自分を責めているんだろうから、会いに行かなくちゃって」
許してくれるのか。なら私も、今、伝えなくちゃいけない。目尻を拭き、言葉を絞り出す。
「教堂に放火をした人も、自分を責めているでしょうか」
また少し、水音だけの空間。今度は、向こうが沈黙を破った。
「犯人を見たのね」
「偶然でした。なぜ、放火したのかは分からないですけど」
「きっと、あなたと似た理由よ。特別な誰かに、本当の……、ううん、よそう。通報、しなかったのね」
「誰かがそれで、得をするんですか」
人影は、きょとんとした後、少し震えた。笑ったのかもしれない。困ったのかも。
「私のせいで、神様が消えたわ。私を許せない人は多いのに」
「私、あなたのことを許す人間がいるって、伝えたかったんです。だから」
私はこの夜初めて、アサコさんを見た。
「お願い、置いていかないで。迷子は辛いです。嫌われてもいい。間違ったまま一人で、何も出来ずにさ迷っているのは、もう嫌です」
私の頬の涙が、月光を少し反射している。彼女の表情が僅かに見えた。
「嫌いな訳無いでしょ。……ごめんね」
彼女の謝罪の意味を何通りか思いついて、すぐに考えるのをやめた。
視界は暗い上に滲んで、何も見えない。それでも、同じ闇の中、同じ水音を聴いていれば、あの日の彼女の微笑みが鮮明に浮かぶ。
慰める様な沈黙。
私は久しぶりに、自分が座る場所を見つけた様な心地がしていた。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

13/06/03 泡沫恋歌

クナリさま、拝読しました。

読み終わった時、この話はもっともっと深く掘り下げて書けるテーマだと感じました。
文字数制限のせいで、クナリさんが本当に伝えたい真意が十分に伝わらなかったのではと
思ったのは単なる思い過ごしでしょうか?

この話はとても良いです!
もう少し長い話にされると、より深いテーマになると思います。
クナリさんの世界が更に広がる気がしました。

もし、気に障ったらゴメンなさいO┓ペコリ

13/06/04 平塚ライジングバード

クナリ様、拝読しました。

凄いですね。文字数制限有りでこれだけの世界観を表現されているのは圧巻です。
常人ならまずチャレンジしないと思いますし、挑戦しても間違いなく表現しきれないと思います。
泡沫恋歌さんもコメントされてますが、非常に奥行きがある物語でしたので、長めに書いてみてはいかがでしょうか。
(偉そうなコメントでごめんなさい。)

こんな顔で一気に読みました→(゜〇゜;)
今度は過去の作品も読ませていただきます♪
ありがとうございました☆

13/06/04 草愛やし美

クナリさん、拝読しました。

さすがクナリさんですね、このような難しいテーマを書かれていて、しかも、内容が素晴らしい。深い内容に、身震いしました。テーマの迷う人そのものだと思います、よかったです、ありがとうございました。

13/06/04 鹿児川 晴太朗

拝読いたしました。
深い世界観に惹かれるあまり、つい「迷う人」がテーマであるということを忘れて読み耽り、読み終えた後でテーマを思い出して再び衝撃を受ける、という凄まじい読後感を体験しました。
出来栄えの良さに関しては皆様が述べて下さっておりますので個人的に好きなところを申しますと、短い台詞に言葉通りの意味だけではない含み、深みを持たせていて、じっくりと噛みしめるように味わえるところが大変素敵だと思いました。台詞回しが巧いということは人物造形が巧いということで、小説は結局人を描く媒体なのだと考えると、改めてとんでもない完成度だなと唸らざるをえませんでした。ありがとうございました。

13/06/05 光石七

あまりの内容の深さに、適切な言葉が見当たりません。
ぐいぐい世界に引き込まれ、読み終わったときは震えてました(誇張ではありません)。
迷える子羊、というアイデアは思いついても話を膨らませることはできなかったので、ここまでの秀作を書かれたことに尊敬の念を抱きます。

13/06/05 そらの珊瑚

クナリさん、拝読しました。

みなさん、書いていらっしゃいますが、隙のない完成度、素晴らしい!としか、他に言葉が思い当たりません。

特に印象的なフレーズは「神様は、たぶんこんな風に笑うのだろう」です。
人は、多かれ少なかれみな迷い人なんではないか。そのよりどころを宗教に求めるということは、神を求める、ということ。その神はつきつめれば、人が創りだしたものではないか、そんなことを感じました。

13/06/05 そらの珊瑚

すみません、もうひとつ。

読み終わったあと、タイトルに戻れば、このお話が見事にそこで簡潔している、というタイトルの付け方のセンスも素晴らしいです。
私はいつも凡庸なタイトルしか思いつかないので、爪の垢、欲しい!って思いました。

13/06/06 クナリ

皆様、コメントありがとうございます。
クナリは果報者であります。

泡沫恋歌さん>
「カルト」「孤立」「初恋」「同性への憧憬」「罪と赦し」といった、取り組むには相応の手間が必要なテーマを少しづつかすらせて、なのに最終的には少女の心のありようだけにスポットを当てる、という構成を試してみたのですが、自分で読み返して「なんだかあたふたしているような気がするッ!」と思いました。
きちんとひとつひとつの事柄を描いてみたいなという気持ちは、たしかにありますね〜。
気になど障ることは何一つありませぬ!
そして、O┓ペコリ←コレかわいいです。

平塚ライジングバードさん>
今回は本当、語尾とか口調とかまでいじりまくって文字数内に収めました。
偉そうなどではまったくありません。
ありがとうございます。
そうですね、主人公たちが何らかの形で報われるところまで書いてみたいですね。

草藍さん>
ありがとうございます。
クナリにしては珍しく、テーマに正面から取り組めました(^^;)。
書いている最中、主題をどこにするか(二つも三つも盛り込めないし…)ふらふら悩んでいて、自分が迷う人でしたが、今回は提示されたテーマのおかげで何とかまとめられた気がします。

鹿児川さん>
クナリの好きな漫画家さんで尾崎かおりさんという方がおられるのですが、この方のせりふがいつも、一言の中に万感の思いがこめられているようで、すごく印象的なんですよ。
それを見習いたいなあと思っていたので、お言葉大変うれしいです。
必死にまとめたお話でしたが、完成度が高いなどといっていただけるとは、苦労した甲斐がありました。
ありがとうございます。

光石さん>
クナリの書く話は、特にショートの場合多くの部分を読み手の皆さんの補填力や想像力に頼っていますので…
つまり、深いというのは光石さんの感性が深いんですよ、きっと。
ありがとうございます〜。

そらの珊瑚さん>
隙がないというか、自分的には「隙間がない」という感じでしたね。
もーきっちきちで…(^^;)。
これも上で申し上げた尾崎かおりさんの漫画の話なのですが、「メテオ・メトセラ」という作品の中で若い神父二人が「神様は何でできていると思う?」「笑わない?……人間の想い、かな」と会話するシーンがあり、これが自分の神観の根源のような気がします。
人は、人の想いに救われるのでしょう。詭弁のように、理想のように。
このタイトルは、『ボーイズ・ドント・クライ』という映画のタイトルをもじったのですが、さすが元がかっこいいともじってもかっこいいッ!
というわけで気に入っています(^^;)。ありがとうございます。

13/06/14 クナリ

凪沙薫さん>
ありがとうございます。
今読み返してみると、2000字の配分をもう少しうまくやれたかもしれなかったなあと思います。
序盤が急ぎ足過ぎるというか。
神様がいるのかどうかはわかりませんが、至高至善の神の存在を願う人間の善性こそが、大切なのでしょう。
たぶん…(オイ)。
尾崎かおり先生、イイですよ〜。
先日アフタヌーンで現代劇の連載が始まりましたが、今まではファンタジの連載が多く、心わしづかまれていました。
勝手に宣伝(^^;)。

ログイン