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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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コピー

13/06/03 コンテスト(テーマ):第三十三回 時空モノガタリ文学賞【 迷う人 】 コメント:10件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:2503

時空モノガタリからの選評

最終選考

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 盤上の赤い毒々しい光を放つスィッチボタンには露骨なまでの太字で、『破壊』の文字が書かれていた。
 アサカはボタンにかぶせた透明キャップをあけると、そのボタンの上に親指をかけた。
 彼の目は、巨大モニターにうつしだされたサファイヤ色に輝く惑星にむけられた。
 司令長官の命令はすでにくだっている。あの惑星を破壊しろ。アサカはただ、ボタンにかけた指を、グイと一押しすればよかった。
 だが、できなかった。
 そんな彼の逡巡をみてとった司令長官は、厳しい口調でいった。
「なにを迷っている。破壊だ、破壊だ、はやく押さんか」
 まるで楽しくてならないかのように司令長官は破壊のことばをリズムをつけてくりかえした。
「長官、わたしには………」
 アサカはモニターにちかづくと、画面上の惑星を抱きかかえるかのように両腕をいっぱいにひろげた。
「この高い文明を築きあげた惑星の破壊には、どうしても賛同できません。調べれば調べるほどマダランが築きあげた高度な文明は、宇宙の発展にとって貢献するものばかりです」
「なにをいっとる。もうそれは議会で決定されたことだ。おまえはただ、指示どおりに、そのボタンを押せばいいのだ」
 司令長官のいうとおりだった。上層部が決めた破壊指令に、なんで長官補佐のじぶんがさからえるだろう。
 いまわが宇宙戦艦が標的としてとらえている惑星マダランはすべて、3Dスキャナによって、その内部にいたるまで、完全に読み取り、データ化されている。あとはやはり3Dプリンターによってマダランは,いつでも望み通りに、その文明を惑星とともにそのままそっくり、コピーできるというわけだ。
「スキャナしたデータがあれば、いつでも惑星をよみがえらせることができる。それがわかっていて、なんでためらうことなどあろう」
 司令長官の口調には、惑星まるごとコピーを可能にするスキャナとプリンター装置を掌中にしたものの傲慢なまでの尊大さがありありと感じられた。
 たしかに、あのマダランは、復元はいつでも可能だ。マダランの人間が築き上げた文明のすべては、他のデータ化した諸惑星同様、プリンターによって、そっくりそのままよみがえらせることができる。惑星も、大地も、自然物も人工物も、ありとあらゆるいっさいが。
 だが、生命は………。
 アサカがマダラン破壊に躊躇するのも、そこだった。生命もまたコピーはできる。だがそれは不完全で、復元したとしても、無機物とはちがい、いろいろ問題を抱えている。精神構造、寿命、等々………。人体のコピー化はまだまだ臨床段階にすぎない。
 マダランほどの文明を築きあげた種族を、課題をのこすデータ化をしたうえ、あげくに全滅させてもいいのか。
 アサカは今回はじめて、この任についた。これまでの破壊スィッチを押す役目はみな、彼同様長官補佐にかぎられた。だがつぎつぎそれが交代するのも、やはりいまの彼とおなじ逡巡にたえきれなくなったせいではないだろうか。
 司令長官が破壊をいそぐ理由もまた、マダランの高度な文明を脅威とみてのことだった。いずれはかれらも、惑星のコピーを可能にするスキャナ装置を開発するかもしれない。いや、必ず、する。そのまえにたたいておかないと、こんどは我々がデータ化され、相手の意のままに、コピーされ、そして破壊の憂き目にあうのだ。これでは、枕を高くして眠れない。
「はやく、押せ!」
 司令長官はいらだった。
 アサカは、破壊ボタンにのせた指に、力をこめようとした。
 目にみえて指先がはげしくふるえた。額からは脂汗がしたたり、呼吸が大きくみだれた。
「できません」
 彼は首をふり、スィッチから後退した。
 その瞬間、一条の光線が彼の胸板をつらぬいた。
 声もなにもあげるまもなく、アサカは床に大の字になって倒れた。
 司令長官は、熱光線銃を腰のホルスターにおさめると、いまのさわぎでかけつけてきた部下にむかって命令した。
「こいつもだめだった。―――おい、つぎの補佐役を、いそいでコピーしろ」



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このストーリーに関するコメント

13/06/03 クナリ

面白かったです。
3Dプリンタのニュースを見て、神の領域たるDNA操作のあり方についての議論を思い出しましたが、今作は創造(3Dプリンタは模造ですが)というものの恐ろしさを、エンタテインメントとして上手に表現されていると思いました。

13/06/03 W・アーム・スープレックス

クナリさん、コメントありがとうございます。

3Dプリンターのニュースをみたとき、コピーされた凶悪なエイリアンの襲撃の話を思い描いたりしました。現実に、生命のコピー化にまで発展するようなことにでもなれば、あるいはもっと恐ろしい結果もまちうけているかもしれませんね。

13/06/03 草愛やし美

W・アーム・スープレックスさん、拝読しました。
コピー、タイトルからは、ここまでの切ない作品だとは思いませんでした。何でも、コピーできる、このような機械がそのうちできるかもしれません。でも、コピーが、同一かどうかは迷うところでしょうね。
命を深く捉えていて読み終わったあとで、考えさせられました。面白かったです、ありがとうございました。

13/06/03 W・アーム・スープレックス

草藍さん、こんばんは。コメントありがとうございます。

3Dコピーには、功罪さまざまな未来が控えているような気がします。科学のいきつく先が、そうであるように。人はつねに原点にたちかえって、生命というものを見つめなおすことが、必要なのかもしれません。

13/06/04 鹿児川 晴太朗

拝読いたしました。
原作ドラえもんのようなブラックユーモアに溢れる本格的なSF小説、たいへん面白く読ませていただきました。
科学技術の発達はもちろん喜ぶべきことなのでしょうが、保身のための選択肢が相手を攻撃するという結果に行き着いてしまうのは、この物語にも現代社会にも共通した悲しい宿命ですね。文明人として発達すべきは技術力よりもむしろ、猜疑心を取り払い信頼を築ける精神力なのかなあとぼんやり。

13/06/05 光石七

拝読しました。
ボタンを押す、押さないで迷うのは考え付くのですが、ここまでシニカルとは……
なんでもコピーできる、代わりはある。怖いです。

13/06/05 W・アーム・スープレックス

鹿児川晴太郎さん、コメントありがとうございます。

私などはどうしてもコピーする側ではなくされる側の立場から3Dコピーというものをみつめてしまいます。これはもう完全に人間の使い捨てに流れていくでしょう。人間というかけがいのない存在が大量復元されるようなことになれば………考えると本当に末恐ろしいです。


光石七さん、コメントありがとうございます。

仮に人間がコピーされて、きみは二週間の限定の命だなんていわれたら、コピーされた人は、コピーの元となった人間に、どんな気持ちを抱くでしょうね。羨望、怒り、憎悪、もしかしたら復讐………。

13/06/06 かめかめ

『まるで楽しくてならないかのように司令長官は破壊のことばをリズムをつけてくりかえした。』
この一文で

「は・か・い♪は・か・い♪」

とはしゃぐ司令長官殿を想像してしまいました(*´∀`*)

13/06/08 名無

最初、何故そんなに破壊に拘るのかと思って読んでいたのですが、なるほど考えれば、いつでも人間は恐怖に突き動かされてきたのですものね。すごく読み応えのある作品で、面白かったです。

13/06/09 W・アーム・スープレックス

かめかめさん、コメントありがとうございます。

そのリズムは、童謡【カゴメ】ではないですか。それとももっと現代風な、ヒップホップ調?


名無さん、コメントありがとうございます。

恒星間飛行が可能になっても、人間の心理というのは、そんなに変わらないようにおもえます。したがって、争いや戦争もまた、くりかえされるのでは。叡智と愚かさ―――人間の宿命でしょうか。

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