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堀田実さん

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名古屋・原子爆弾怪奇事件

13/05/31 コンテスト(テーマ):第三十一回 時空モノガタリ文学賞【 名古屋 】 コメント:0件 堀田実 閲覧数:1825

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 まさか原子爆弾がやってくるとは思わなかった。それは名古屋城の最上部に鎮座されている金のシャチホコの口の間から顔を出すと、するっと現実になって現れたのである。しかもそれはシャチホコの口の中から全体を現すと宙に浮いて動かないのである。かつて現実の原子爆弾というものを見たことがなかった市民はその奇妙な物体に眉をひそめたが、それが専門家の判断により広島に落とされたリトルボーイと瓜二つであると告げられると名古屋市内は恐怖につつまれた。
 この世には目に見える現実しか存在しないと思っている者にとってはそれは晴天の霹靂であり天変地異以上の何ものでもなかったが、ただ錯乱した罵詈雑言を主張し合うよりも冷静に考えることがいいと思ったのかその現象を物質化と名づけた。
 物質化など大々的に取り上げられたのはサティア・サイババのあのスキャンダラスな報道とマジックの種明かしの数々以来だったが、思いのほかその言葉は奇奇怪怪な現象に不安を覚えた市民の心の拠り所となり急速に受け入れられた。
 しかし仮にそれが物質化減少の一旦として、なぜ金のシャチホコの口から忽然と現れたのかが議題にあがると誰もそれに答えることのできる学者はいなかった。東大の名誉教授でさえ首をかしげる他、世界的権威のある物理学者でさえそれほどの質量を持った物質が、それも確固とした原子爆弾としての形を持って現れた理由を説明することができなかった。

 避難勧告が発令され名古屋市民がひとまず自主的に郊外あるいは実家に帰ったり、帰らないで部屋で一日中ゴロゴロしたり、人のないコンビニに強盗に押し入ったり、訳もなく自殺するものがいるなか、必死に原子爆弾の真実を訴える者がいた。
 現代的な様式の例に漏れることなく彼女はtwitterやFacebookで発言を繰り返していたが、疑似科学やオカルトやスピリチュアルな世界に傾倒した数々の無知蒙昧な輩たちがそれぞれにそれぞれの意見を述べていたため、彼女の主張が受け入れられることはほとんどなかった。むしろネット上で語られる数々の予言推論の一部として処理されてはそれを揶揄するものや論理的でないと批判する者がほとんどだった。
 彼女の主張はこうである。
「本当は金のシャチホコって生きてるんですよ。宇宙と時っていう水の中を泳いでいる金の魚なんです。」
 当たり前のように守護霊や守護天使、あるいは上位階級霊やハイヤーセルフ、さらに創造主からの啓示であると幾多も語られるネット上においては、彼女の主張もまたそれらと同類なものなのであって、ひとつのエンターテイメントであるとみなされるのだった。

 しかしこの情報過多社会にあってもなお知恵のある者は本当に知恵のある者の主張を見分けることができるもので、数ヶ月も経つと徐々に彼女の主張は、まるで床下を徐々に繁殖を繰り返しながら這い回るネズミのように賛同者を増やしていき、一年後には権威的な科学者たちの間にもユニークな仮説のひとつとしてティータイムにやんわりと語られる程度になっていた。
 その合間にも政府は解体作業を試みようと試行錯誤を繰り返していたが、宙を浮くその原子爆弾がはたして本当にリトルボーイと同じ構造を持っている物質なのかわからず、また足場すら安定させる手段がなかったため手をつけることができなかった。政府の実質この一年間にしたことと言えば仮に原子爆弾が落下しないように慎重にネットを張ることと、天皇に毎日お祈りして欲しいと頼むぐらいだったのである。

 さて、この世界を騒がせた奇妙な珍事はあっけなく幕を下ろした。一つの面白い仮説の一つとして語られていた彼女の言葉からヒントを得て原子爆弾を処理するのではなく、金のシャチホコの向きを間逆にしたのである。するとまるで時間を巻き戻すかのように排出されてきた原子爆弾は徐々にシャチホコの口の中へと戻っていき、一年後にはついに姿を消した。専門家が何度も口内を確かめたがそこにはただかつてのように空洞があるばかりなのである。
 しかしなぜあまたの物質の中でわざわざ原子爆弾が排出されたのか、なぜマグロの切り身やベイゴマ、金銀財宝でなかったのかという事を考えた時に、これにはまた数多の主張が飛び交ったが、きっとこれは天の警告だろうというあまりに非科学的な主張にみなが妙に納得するのだった。


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