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傘の神様

12/04/27 コンテスト(テーマ):第四回 時空モノガタリ文学賞【 傘 】 コメント:2件  閲覧数:2318

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タケオはよく傘を失くす。

会社帰り、タケオはいつものように東西線に乗った。
仕事が忙しく、帰りはいつもクタクタだ。そのため、座席につくとものの何秒で眠りに落ちてしまう。
今日も例に漏れず、九段下駅の辺りで意識が途絶えた。

数十分後、タケオは車内アナウンスによって目を覚ました。

「ドアが閉まります。ご注意ください。」

眠気眼で駅の看板を見ると、そこには「荻窪駅」と書いてあった。
紛れもなくタケオの下車駅である。
一瞬で全てを理解したタケオは、扉の脇でたじろぐ老人を横目に、まるで韋駄天のごとく閉まる扉をすり抜けて電車を降りた。
乗り過ごさずに済んだと安堵したのも束の間、傘を車内に置いてきたことに気付いた。

「あーまたやっちまった。」

そう言うと、タケオは遠のいていく電車を見つめながら溜息をついた。

タケオは、コンビニで再び傘を買うと自宅に向けて歩き出した。
青梅街道を真っ直ぐ行き、「荻窪八幡神社」の中を通り抜ければ自宅はすぐそこだ。

暗い道を1人、傘を差して歩く。本堂の方を見ると灯りが珍しく消えていた。暗闇の中で雨の音と靴の音だけが妙に響いた。

「天狗でも出てきそうだな。」

タケオはそう呟きながら、天狗を想像してみた。その滑稽な姿に思わず「いるわけないわな」と自分にツッコミを入れた。しばらく歩くと神社の先に民家の灯りが見えてきた。その時だった。

「ちょっとお待ちなさい。」

本堂の方から、男の声が聞こえてきた。
タケオは、神主に呼び止められたと思い、声がした方を見た。
しかし、そこに立っていたのは70代くらいの老人だった。
突然現れた老人の姿を見てタケオは驚いたが、よく見ると見覚えがある顔だった。タケオはすぐにピンときた。急いで電車を降りたときに脇で驚いていた老人だ。

「あなた、先程私と同じ電車に乗ってらした方ですよね?何かご用ですか?」

タケオは言った。すると老人は不機嫌そうに答えた。

「ご用って、あんた。さっき傘忘れていったろうが。面倒くさいなか届けに来てやったんじゃ。感謝せんか。」

老人はそう言うと、傘を突き出した。
駅を出る前に傘を買い直していたタケオからすれば、正直なところお節介以外の何ものでもなかった。タケオは丁重に断ることにした。

「すみません、もう買い直したのでそれは大丈夫です。ご迷惑お掛けしました。」

タケオはそう言ってその場を立ち去ろうとした。しかし、歩こうとすると、なぜか全身が全く動かなかった。不可思議な出来事に恐怖を覚えたタケオは再び老人の方を見た。すると、老人はニヤニヤしながら口を開いた。

「そう簡単には帰さんぞ。お前さん、調べてみたら今年に入って10本も傘を失くしているな。全てわしの所にある。傘が泣いとるぞ?今日一括で引き取ってもらうからの。」

老人の言っていることがますます理解できなくなり、タケオはより一層恐怖した。頭の中に再び天狗の絵が浮かんできた。すると、老人は相手の思考が読めるのか、呆れた様子で怯えるタケオに言った。

「天狗と同じにするな。わしは「傘の神様」じゃ。傘にはそれはそれは綺麗な神様がいるんやでえ。」

最後の一言はタケオの耳には入らなかったが、この老人は普通の人間でないことはわかった。タケオは身を震わせながら、「傘の神様」と名乗る老人に必死に懇願した。

「傘を粗末にしたこと、申し訳ございません。しかし、この雨では全ての傘を引き取って持ち帰ることができません。どうかお許しください。」

自称「傘の神様」は、悩んでいるようだった。
すると程なく結論が出たというそぶりを見せて言った。

「うーむ、それもそうか。それでは後日着払いで送ることにする。高くつくが、そこは覚悟せい。もう二度と傘を粗末にするでないぞ。」
そう言うと1本だけ傘をタケオに渡し姿を消した。それと同時にタケオの金縛りも解けた。

帰り道、タケオは引き取った傘を開いてみた。
ビニールの部分を見ると、そこには黒マジックで「マサコ」と書いてあった。

「俺のじゃない・・・。」

そう思った瞬間、タケオの目の前が突然真っ白になった。



ふと気が付くと、タケオは東西線の電車の中にいた。車内アナウンスはまもなく荻窪に到着することを告げていた。横の手すりには傘も掛かっていた。それを見て初めて、タケオはこれまでの出来事は夢だったのだと悟り、ほっと肩を撫で下ろした。
扉が開くと、タケオは傘を持って席を立った。向かいの席を見ると、あの老人が口を開けて眠っていた。

「神様のくせに、着払いはないよな。」

聞こえない程の小声でタケオは言うと、溜息まじりに笑って電車を降りていった。
扉が閉まる直前、老人の寝言が聞こえてきた。




「罰なんだから、仕方ないじゃろうが。」


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このストーリーに関するコメント

12/04/28 ゆうか♪

読ませて頂きました。傘の神様? でもト○レの神様の歌の部分が挿入されていたり、ストーリー全体からも作者のユーモアが窺え楽しめました。どうもありがとうございました。

12/04/29 かめかめ

いや、じじいの神様は綺麗じゃないと思います。
って、タケオの代わりに突っ込んでみる。

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